ヘルシートーク:俳優・竹中直人さん
俳優、映画監督、ミュージシャンとジャンルを超えて活躍中の竹中直人さん。実在の事件をもとに描かれた『くちづけ』は、珠玉のヒューマンドラマでありながら、知的障害者を取り巻く社会に一石を投じている作品。主演の貫地谷しほりさんと2度目となる親子役に臨んだ竹中さんに、撮影中のお話などを語っていただきました。
◆現場で湧き出る生の感情をセリフに乗せる
マコを演じたしほりちゃんとは2度目の親子役(『僕らのワンダフルデイズ』2009年)ということもあり、特別なことをしなくても2人で自然と役に入っていけました。7歳の心のまま30歳になったマコに「いっぽん!」と自分の名前を呼ばれた瞬間、2人で生きてきた30年間が浮かんできました。
僕は「こういうストーリーだ」と話の流れを知って演じるのがあまり好きではありません。セリフは撮影直前にその場で覚えます。自分の中で“決め事”にしたくないからです。現場で監督や共演者、スタッフたちを感じながら芝居をしていくのが好きです。僕にとって一番大切なのは、現場の空気なんです。台本を読まずに先が分からないまま演じる楽しさもあるんですよ。
私たちの普段の生活には台本はないわけで、その場、その場で起きることに、どんな対応をしていくかは分からないですよね。それと同じで、セリフは決まっているとしても、現場で“生の対応”をすることが理想なんです。
◆ロケ中に出してもらったカレーに大喜び
『くちづけ』は5台のカメラを使って、すべてのシーンを長回しで撮影していきました。かなりの緊張感はあったけれど、堤組のスタッフはとても優秀で信頼できるので、出演者のみんなも芝居に集中できたと思います。2週間という短い撮影期間でしたが、タイトな印象はなかったです。
ロケは夏。東映スタジオの間から見える空がとても青くて、大きな入道雲もきれいでした。毎日、携帯のカメラで空を撮っていましたね。庭でみんなでバーベキューをするシーンがありますが、バーベキューはテンションが上がるし、焼けるにおいがとてもいい。何度も繰り返し撮影したので、現場では肉や野菜が焦げちゃいましたけど(笑)。
撮影中の食事はほとんどケータリングでしたが、どれも味わい深かったですね。麻婆豆腐などの中華料理をはじめ、いろいろな料理を出してくれたのですが、野菜カレーやタイカレーなど、カレーが大好きなので嬉しかったです。とってもおいしかった。
◆山形の月山筍は忘れられない味
4年前の夏に『山形スクリーム』という映画の撮影で2ヵ月近く、山形に滞在していた時に食べた月山筍の味は忘れられないですね。アスパラガスみたいに細くてコリコリしていて、生でも茹でてもおいしいのですが、天ぷらがまた格別で。危険な場所に生えているらしく、取るのが難しいそうです。
僕はオクラなどのネバネバ系の野菜も大好きで、銀座のインド・パキスタン料理専門店「デリー」のオクラとカリフラワーをスパイスで炒めたメニューはお気に入りです。あと、八王子の「インドラ」というインド料理店の大根とカニのサラダも絶品です。薄く切った大根にカニが載っかっていて、お店特製のちょっと辛いタレをかけるんです。めちゃくちゃおいしいですよ。話していたら食べに行きたくなりましたね(笑)。
「デリー」http://www.delhi.co.jp/
「インドラ」http://www.geocities.jp/lorcachi/
●プロフィール
たけなか・なおと 1956年神奈川県出身。俳優、映画監督、ミュージシャンなど幅広く活躍。1991年に初監督・主演を務めた映画『無能の人』が、第48回ヴェネチア国際映画祭国際批評家連盟賞をはじめ国内外で数々の賞を受賞。『山形スクリーム』(2009)、『R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私』(2013)など監督作品も多数。6月21日より、主演ドラマ『酔いどれ小藤次』(NHK-BS時代劇)が放送予定。
◆『くちづけ』(東映) 5月25日(土)より全国ロードショー
story:7歳の無垢な心のまま大人になった娘・マコ(貫地谷しほり)と、マコに尽くす元漫画家でペンネーム“愛情いっぽん”の父(竹中直人)との深い親子愛を描いた物語。知的障害者の自立支援を目的としたグループホーム<ひまわり荘>に暮らす住人たちとの幸せな日々の先に待ち受ける厳しい運命とは……。
原作・脚本:宅間孝行
監督:堤幸彦
出演:貫地谷しほり、竹中直人、宅間孝行、田畑智子ほか