軽減税率対象のビスケットが消費増税で思わぬ苦戦
ビスケットの2019年1~9月生産数量は18万4417トンで前年比3.2%減(食品需給研究センター公表)となった。減産要因は複数ある。一つは、3月に発生した宇部興産が製造する膨張剤に金属異物が混入している可能性が判明したことを受け、一部メーカーが製品の自主回収を行った影響を受けたため。
台風19号では食事代替で需要高まる
全国ビスケット協会では、対応策として会員の資材担当者などで構成する連絡会議を協会内に設置。他の資材にこうした脆弱(ぜいじゃく)性を抱えるものがあるかの確認を開始。さらに企業レベルの資材在庫量の調整や複数調達先の確保、会員企業間での資材融通などの対策を実施した。
また、原材料や物流コスト増への対応として一部メーカーが実施した内容量の減量や値上げも影響した。10月の消費税が8%から10%に引き上げられたことも影響した。
ビスケットも当然、軽減税率の対象となることから影響は少ないとみられたが、9月以降のスーパーマーケットのエンドでの特売が日用雑貨などに「奪われる」ことになり、特売頻度の高いビスケットは影響を受けた。消費増税が消費者の購買行動に与える影響はあり、消費の冷え込みが顕在化するなど逆風が吹く中、市場は最需要期に入った。
2019年は、相対的に厳しい市場環境となったビスケット市場だが、7月の気温が低かったことで、通常は需要が落ちる菓子需要は活発化。ビスケットの需要も伸長した。期初に発生した、原料への異物混入というアクシデントによる、「負の貯金」をある程度解消し、ある程度の「貯金」ができた。
さらに、台風19号による仮需も発生した。台風19号は、10月12日夜から13日未明にかけて東日本を通過し、関東、甲信越、東北地方に記録的な大雨や河川の氾濫による浸水被害をもたらした。気象庁は最大限の警戒を呼び掛け、東日本を中心に、超大型台風に備える動きが10月第2週後半から始まった。
日本食糧新聞では、KSP-POSデータを基に、記録的な災害に備え、消費者がどのような加工食品を購入したかを調査した。
首都圏の週次データ(10月7~14日)の前年同期販売数量増加率が最も高かったのは、「育児用ミルク」で約290%増。菓子の中では、ビスケットが42%増で伸長率が高かった。利用度が高く家庭用ストックとして活用できる点が購入動機につながったようだ。
2018年6月発生した大阪府北部地震、同じく2018年6月末から7月にかけて西日本を中心に発生した平成30年7月豪雨、9月に発生した北海道胆振東部地震など近年自然災害が多発しており、食料の家庭内備蓄として保存性が高く、食事代替にもなるビスケットの需要が高まっている。
原料や物流コスト増どう対応
日EU経済連携協定、TPP11協定(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)には、ビスケットの関税が段階的に撤廃される内容が盛り込まれている。
ビスケット原料の小麦粉、砂糖、油脂、乳製品の価格が国内農業保護のため割高に設定され、ビスケット業界は、原材料の内外価格差という不利な条件を負っていることから、今後注視が必要だ。さらに、小麦粉をはじめとする原材料価格の高騰、生産・物流面の労働力不足などコストアップ要因が山積している。
人手不足については、抜本的な対策として、ビスケット業界の多品種少量生産という課題解決に向け、AIやIoTなどを活用し世界にない自動化を日本が成功すれば、日本が菓子産業の拠点として独自の地位を築くことができるが、実現には時間と相当額の設備投資が必要となる。
足元の課題は、原材料の高騰や人件費上昇などコスト増をどのように吸収するかだ。一部メーカーでは、利便性を持たせた包装形態にするなど、消費者に分かりやすいベネフィットを付加した上で、内容量を減量するなどの対応を取る。2019年10月の消費増税で、消費者のマインドに与える影響は大きいことが予想され、2019年秋の値上げという選択は難しい。
とすれば、値上げのデッドラインは、2019年春となり、一部メーカーは値上げを実施した。ビスケットは、ロングセラーブランドが多く、ユーザーの商品への愛着も強いことから、値上げには敏感に反応し、値上げ後は苦戦を強いられている商品が多い。
※日本食糧新聞の2019年12月18日号の「ビスケット特集」から一部抜粋しました。