キノコ文化を世界に広げるホクトのマーケティング戦略 和食や健康ブームも追い風

中井洋樹 市場開拓室室長

中井洋樹 市場開拓室室長

キノコ生産大手のホクトは鮮度営業を重視し各地に生産拠点を持つ。キノコの生産センターは日本各地に32ヵ所、先日発表された三重センターを加えて来年には34ヵ所になる。海外では米国、台湾、マレーシアの3ヵ国でキノコの生産を行っており、販売は12の国・地域に及ぶ。日本から海外へ進出・輸出を行う際には、さまざまな企業活動が必要になる。ホクトの海外マーケティングで最前線に立つ、中井洋樹市場開拓室室長にその歴史と戦略を聞いた。(聞き手は日本食糧新聞・阿久津裕史)

米国ではオーガニック認証が評価

――海外展開するに至った経緯は。
中井 一つに、国内市場の縮小という迫られた事情があったのは事実ですが、まだまだ認知度の低い海外で、おいしくて健康にも良い当社のキノコを食べていただきたいという思いがありました。

――海外展開を始めた時期は。
中井 最初は2006年7月に食材として「キノコ」を認識しているアジア系移民の多い、米国西海岸への輸出から始まりました。当時キノコと言えばアジア系の消費者以外にはボタンマッシュルームしかイメージされないという状況もありました。

まずはキノコの認知度のあるアジア系食品スーパーに卸して量を追うと同時に、非アジア系レストランにも積極的に卸してキノコを知らない人に知ってもらうことにも力をいれました。日本に比べると外食の比率が高いので、外食から徐々に広まっていったところもあります。

――米国での評価は。
中井 米国市場においては、農業州として有名なカリフォルニア産の地産品であり、さらにオーガニック認証を取得したことが高く評価されたと考えています。中国、韓国の輸入品もありますが、その結果違う価格帯で取引ができています。また、最初はアジア系食品スーパーが大半でしたが、入り込むことができ、非アジア系のマーケットにも徐々に浸透してきています。

品質で差別化し台湾でもトップブランドに

――台湾での展開は。
中井 台湾では2008年12月に支店と工場から始まりました。支店を現法化したのが2011年3月になります。台湾では元々キノコを食べる文化はありましたが、ホクトが持ち込んだブナシメジは茶色、白色ともにはほぼなく、品種としての認知度を上げるところからという点は苦労しました。

その中で年産1000トンの第1工場を作り、遅れずに年産2000トンの第2工場を作っております。当時は中台関係が良かったので、台湾からの輸出で中国市場を検討していました。しかしながら、中台関係が悪化し、中国への輸出が難しくなり、台湾国内で3000tを売り切ることにかじを切りました。

台湾で展開されるホクトブランド好菇道

――台湾でのマーケティングは。
中井 ブランディングが成功しています。大前提として競合品と比べ品質の点で差別化できています。それを定着させる手段として、例えばマーケティング戦略としてTVCMを進出以来継続して放映しています。また以前からSNSに注目し、フェイスブックでは直近で12万5000人以上のフォロワーを獲得しています。

お客さまからホクトブランドである好菇道(ハオグーダォ)を消したプライベートブランドの要望はなく、好菇道を全面に出してほしいというご要望をちょうだいします。コンビニ用の惣菜納入業者さまに対して、コンビニ側から当社品を指定していただいていることもブランド浸透を証明するものと思っています。大手食品スーパーとの関係構築に早い段階から戦略的に取り組んだ成果も出てきており、おかげさまで、台湾では日本並みにトップブランドとして市場に浸透しております。

――マレーシアへの展開理由は。
中井 鮮度の関係から輸出で本格的なマーケティングができる限界がASEAN地域であり、その中でもキノコ文化のある中華系をターゲットにと検討した際に、シンガポールを含んだマレーシアが候補になりました。両国とも、近代小売が発展しており、製品の品質や大量安定供給という当社の強みが生きる市場だということもあります。

近代小売であれば、伝統市場では期待しにくい冷蔵陳列設備を期待できるなど、キノコを売るためのインフラが整っていたというのも当社にとっては望ましい状況でした。なお、マレーシアからはインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピンへも輸出もしています。

ウィズコロナ時代の戦略は

――今後の展開は。
中井 すでに市場に出ているところは引き続き深耕して行きますし、新しい市場にも出て行きたいと考えています。おいしい食材であることは大前提ですが、その上でキノコの健康効果、特に免疫力強化の効果などをもっと消費者の皆さまに知っていただき、コロナに打ち勝つ一助となればと思っています。

マレーシア首都クアラルンプールのチャイナタウン

その他の健康効果に関する研究も積み重ねていますし、最近ではアンチエイジング効果や腸内菌叢改善の効果なども注目を浴びています。世界中で勢いづいている和食ブーム、健康ブーム、ベジタリアンやビーガンの増加もキノコの販売にとっては追い風です。

キノコは鮮度が重要で、輸出で継続的に成り立つビジネスモデルは考えにくく、空輸に頼れる単価でもなければ、長時間の海上輸送であれば品質に影響があります。一般加工食品とは違い、輸出は現地生産に向けた手段であって、鮮度・品質の良いキノコの大量安定供給を実現し、世界の人々にホクトのおいしくて健康に良いキノコをもっとお届けしたいと思っています。

マーケティングとしては、キノコの健康イメージをさらに広げ付加価値を上げていく戦略を進めると同時に、プライベートブランドや商品形態に関する対応力を生かして、小売店やレストランなどの直接のお客さまのご要望にきめ細かくお応えすることで、キノコ文化を広めたいと考えています。

<ホクト>
ホクトは1964(昭和39)年に設立され、当初は農業用の一般包材資材事業から始まり、同年に起こった新潟地震以降、ポリプロピレンビンでのキノコ生産用資材を農家に販売をきっかけに事業を拡大。83年には「きのこ総合研究所」を設立し、独自品種の開発、生産技術開発、品質保証体制確立にも力を入れ、現在ではキノコに関する、生産用資材設備、種菌、生産、加工食品、健康食品、販売などを手掛ける「きのこ総合グループ」であり日本を代表する企業。日本市場での立ち位置に甘んじることなく、常に海外に目を向けて、戦略を練り、歩みを止めないホクトの活動には今後も注目できる。

「アセアン進出・輸出セミナー」を11月から開催

日本食糧新聞社は、ASEAN地域における日本食品産業の進出、輸出に関するセミナーを11月6日から5回実施いたします。

世界の飲食料市場規模は2030年に1360兆円と見込まれ、特にアジアでは成長率は著しく、そのうち800兆円にのぼる予測されています。日本国内でも食品輸出などへ法改正が進み、公的な輸出支援なども拡大している現状は、まさに日本企業の食品・食材が世界・ASEAN地域に向けて進出、輸出する好機です。

本セミナーは、全5回の開催となっており、全回出席することで、自社がASEAN地域に向けて進出・輸出する際に必要な市場情報や手続きなどを横断的に学べる内容になっています。今回インタビューしたホクトにも海外展開に関して講演をしていただきます。

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