酪農乳業夏季特集

◆酪農乳業夏季特集:生産基盤に明るい兆し 国際化元年、包括的取組みが重要

乳肉・油脂 2019.08.26 11930号 06面

◆生乳生産4年ぶりプラス 飼養頭数は2年連続増加

酪農乳業界の19年度は、久しぶりに明るい兆しが現れている。Jミルクによる通期の見通しでは、通期生乳生産は2015年度以来4年ぶりの増産となる見通しで、農林水産省によると昨年16年ぶりに増加に転じた乳用牛飼養頭数も、今年に入り2年連続でプラスとなった。ただし、第1四半期(19年4~6月)の生乳生産量は引き続き北海道で前年を上回ったものの都府県では割れ、トータルで微減。今年度は4月に飲用乳価改定による牛乳類の値上げがあったが、消費は堅調に推移し、これまで以上に飲用最需要期に向けては業界関係者が一丸となった適切な需給調整が必要となる。特に昨年よりも1ヵ月遅かった梅雨明け後の酷暑が生乳生産に与える影響は大きいと考えられ、暑熱対策をはじめとした「夏越え」は大きな課題だ。

乳製品では、チーズの右肩上がりの成長など、健康面や新たな喫食シーンの提案を切り口に、各社積極的なマーケティングや新商品の効果的投入で需要創造が進む。乳業関連大手3社の第1四半期決算も、増収増益で好調なスタートを切った。

今年はTPP11、日EU・EPAが本格的に開始された酪農乳業界にとって「国際化元年」とも呼べる年。輸入乳製品との市場競合も今後ますます進むと予想され、競争力の高い製品作りが求められる。そのためにも、マイナス推移が続く都府県の生産基盤回復・強化は至上命題であり、生産者、メーカー、関連機関・団体などが一丸となった包括的取組みが重要になってくる。(小澤弘教)

●生乳生産と牛乳等需給

生乳は、毎日生産され、腐敗しやすく貯蔵性のない液体であることから、需要に応じて飲用向けと乳製品向けの調整が不可欠だ。昨年度の国内生乳生産量は728万t。14年度ごろから牛乳等が盛り返し、発酵乳の消費も増加。牛乳等向けは減少傾向で推移してきたものの、近年は健康志向の高まりなどにより横ばいで推移している。一方、乳製品向けについては、生クリームなどの液状乳製品向けは堅調に推移しているものの、近年は生乳生産量の減少で、仕向け量は減ってきている。

Jミルクが7月末に公表した「2019年度の生乳及び牛乳乳製品の需給見通しと課題について」によると、上期の全国生乳生産量は前年比0.3%増の368万5000t。下期も北海道での生産量が好調に推移するとの見込みから、0.8%増と予想し、通期トータルでは0.6%増の732万3000tになると見込まれている。前回5月に公表された見通しと比べて、都府県の生乳生産がやや減じると想定されており、下方修正となったものの4年ぶり通期増産は変わらない。

生乳生産の主力となる2~4歳乳用雌牛数は、北海道ではここ5年間でもっとも多くなる見通しで、都府県でもこれまで減少トレンドだったが、横ばいで推移すると目される。

今年度は4~6月まで生乳生産量は北海道で1.4%増、都府県で2.3%減、トータルで0.3%減と推移した。今年は昨年よりも1ヵ月程度梅雨明けが遅く、7月下旬まで涼しい日が続き生産が上向いていたが、8月に入り一転、酷暑日が連続し、乳牛への負担がかかり生産量が減少傾向にあるとみられる。9月からは学校給食がスタートすることから、メーカー・団体で情報交換しながら供給確保していくことが必要だ。

北海道から都府県への生乳移出量は、第1四半期に都府県の生乳生産量が落ち込んだことで増加している。都府県の飲用等向け処理量は351万3000tであるとみられ、ほぼ前年並み。そのため移入必要量(道外移出量)は54万2000tと試算され、前年を10.2%上回ると想定される。

昨年は、特に都府県では夏の猛暑の影響で分娩時期が真夏にずれ込んだ。今年は昨年と比べて気温は高くならないとの予測が当初あったものの、蓋を開けてみると梅雨明けから連日の災害級の暑さが続き、15日は新潟県糸魚川市で観測史上第1位の最低気温31.3度Cを記録するなど、日本列島全体で熱がこもった状態が継続。生産者は現場での暑熱対策を行っているものの、この暑さがどこまで続くのかは緊張感を持った注視が必要だ。

牛乳等の生産量では、通期見通しでは牛乳、加工乳、乳飲料が前年を上回る見込み。一方で発酵乳と成分調整乳は前年割れと予想される。7月下旬までは気温が高くならず、生乳生産が上向いたと同時に、飲用需要は下がっていたが、8月に入り一転。生乳量が減少した一方、暑さで飲用需要が高まったため、需給が引き締まっている。

第1四半期の生乳生産は、乳製品向けはほぼ前年並みの0.1%増。チーズ向けは好調な消費を背景に1.6%増だった。クリームや濃縮乳などの液状乳製品向けは2.5%減。これまで発酵乳が順調だったものの、消費が踊り場となったことや、7月半ばまで気温が上がらず、アイスクリーム消費が伸びなかったことも遠因にある。需給の最終調整弁として機能する脱脂粉乳・バターは2.7%増となった。

●乳製品需給

乳製品の1人当たり消費量は、食生活の多様化などに伴い、チーズ、生クリームなどの消費が拡大している。特に昨年度4年連続で過去最高の消費量を更新したチーズは、国内生産が横ばいで推移していることから、輸入量が増加傾向にある。

農林水産省によると第1四半期のバター生産量は前年比2.6%増の1万7000t、脱脂粉乳は4.6%増の3万3600tだった。バターは業務用を中心に、マーガリンからの切り替えが進み、家庭用の消費も順調に推移。1月に設定された輸入量は生乳生産量の減少を見込み、前年比53.8%増の2万tとした。14年度は生乳生産量の減少などによってバター生産が減少し、不足が見込まれたことから追加輸入を実施。結果、年度末在庫量は前年を上回る水準となったが、供給不安を背景に家庭用バターの品薄を招いた。今年度は5月の検証で輸入枠数量の見直しは行わなかったが、第1四半期は期末在庫量が2.3%減で着地。Jミルクの通期見通しでは合計で15.7%増の年度末在庫を予想。国産バター生産の増加に加え、輸入枠数量内での国家貿易による需要に応じた輸入・売り渡しが行われるため、安定して推移すると思われる。ただし、8月の天候要因による生乳生産の影響が気になる。推定出回り量も前年をクリアしているが、9月の検証に注視が必要だ。

脱脂粉乳は発酵乳生産量が減少トレンドに転じたこともあり、需要が弱含みで推移している。第1四半期出回り量も9.0%減少し在庫が積み上がっている状態にある。各メーカーで付加価値を落とさない発酵乳商品作りなどが求められる。

●酪農基盤強化策

乳用牛飼養戸数は毎年年率4%程度減少し、飼養頭数も年率2%程度減少で推移していた。しかし、18年に16年ぶりに増加に転じ、前年比0.4%増の132万8000頭になり、続く19年(2月時点)も4000頭増加した。1戸当たりの経産牛飼養頭数も増加傾向で推移しており、大規模化が進展している。

酪農基盤の強化策として、後継牛確保に向けた取組みも進む。性判別精液の活用が進み、今年度も高水準の乳用雌子牛出生を目指す。預託育成も推進されており、地域内や都府県から北海道へ移し、出生した雌子牛を着実に育成させることで生乳生産回復を目標としている。

酪農経営は他の産業に比べ労働時間が長く、労働負担も大きい。政府は(1)飼養管理方式の改善(2)機械化(3)外部化–などの取組み支援を継続している。つなぎ飼いから牛が自由に歩き回れるフリーストールへの変更や放牧で、乳量増加や繁殖成績の向上に加えて動物福祉も実現。ICTやロボット技術の活用で、生産性の向上と省力化を図る。搾乳ロボット、発情発見装置、分娩監視装置などで、長時間の労働負担を軽減する。子牛受託施設(CS)、繁殖牛受託施設(CBS)、飼料混合などを行うTMRセンターなど作業をアウトソース化することで、負担軽減と同時に就農窓口の幅も広げている。

また、昨年4月にスタートした改正畜産経営安定法も2年目に入り、適切な制度運用に注視が必要だ。

●大型経済連携協定

昨年末に米国を除く11ヵ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)が、今年2月に日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(日EU・EPA)が発効した。関税は即時撤廃されてはいないが、今後長期的に漸減していく中で、乳業はグローバル市場での競争環境に本格的に身を置いていくことになる。

特に日EU・EPA発効はEU産チーズの輸入量に大きく影響。財務省「貿易統計」によると、今年1月分のEUからの輸入では、チーズが前年比6%減だったものの、発効された2月の輸入量は約8000tで、フランス産やイタリア産などが増えた。関税はこれまで29.8%だったものが、発効後に27.9%になり、4月からは26.1%へと引き下げられた。2~6月で見ると、4万6145tを輸入しており、前年同期比(3万8394t)で20.2%増加したことになる。無論、短期的な特殊要因もあるため、引き続き今後の推移を見守る必要もあるが、今後は国内酪農乳業界は動静を注視していく必要がある。

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