酪農乳業秋季特集

◆酪農乳業秋季特集:インホーム需要喚起に新局面 身体と心のニーズつかめ

乳肉・油脂 2021.09.13 12291号 12面

 酪農乳業界の2021年度は、「巣ごもり消費」などインホームで高まった需要を堅実に定着させるための新たな局面を迎えている。新しい生活様式の浸透で、20年度の牛乳・乳製品の家庭内需要は大きく高まった。特に、栄養・機能価値への注目は高まり、定番商品や機能性表示食品は広く購買が進んだ。生乳生産量は21年度も昨年に引き続き増産基調となり、3年連続での前年超えが予想されている。特に、北海道だけでなく都府県の生産基盤も強化が形となって現れ始めていることは注目だ。しかしながら、高まった生乳生産量を維持し、引き続き基盤強化を進めるには、しっかりとした需要喚起が重要となる。コロナ禍の長期化で、牛乳・乳製品への生活者からの期待は、身体の健康だけでなく、ストレスや不安からの「安らぎ」や「癒やし」など、心の健康も加わっている。生産基盤の整備という明るい兆しを確実な将来へとつなげるためにも、サプライチェーン一丸となった刺激策が期待される。(小澤弘教)

 ●牛乳・乳製品需給見通し=3年連続増産予測も 生乳、緩和基調で推移を懸念

 Jミルクが7月30日に公表した21年度の生乳生産量と牛乳・乳製品需給見通しでは、全国の生乳生産量は前年比1.7%増の756万4000tで、昨年に続き前年を上回り、3年連続の増産が予測されている。このうち、北海道は同2.6%増の426万9000tと高水準で推移し、都府県も同0.6%増の329万5000tで、ともに5月時点での見通しよりも伸び率が拡大する見通しだ。

 国や業界による、積年の課題であった生産基盤の強化が進んだ成果が現れ始めているとみられるが、一方で夏場の生乳需給には例年とは異なる変化が起きている。これまで、夏場9月がピークとなる飲用最需要期は、生産量の逼迫(ひっぱく)する都府県に向けて、北海道から生乳を移出することで補ってきたのだが、今回の見通しでは、前回と比較して生乳供給量が増加したことで、道外移出量(都府県への移入量)が年度全体で同3.6%減とマイナスの見込み。このことは、都府県が地力をつけてきたとポジティブにとらえることも可能だが、21年度はコロナ禍での消費行動の変化という不確定要素を加味すると複雑になる。

 全国的に生乳生産量が好調に推移する中、業務用需要の回復はまだまだ見通せない。緊急事態宣言の続発もその状況に拍車をかけ、外食はもちろん、インバウンド需要は引き続き蒸発状態。観光向けなど人の移動が伴う消費行動も回復には時間を要すると考えられる。そのため、生乳需給は年度末へ向けて緩和基調で推移する可能性が懸念されることから、需要創出の取組みは一層強化が求められてきそうだ。

 牛乳等生産量は、牛乳類で同0.5%減の465万2000kl。内訳として牛乳が319万3000klでほぼ前年並みだが、加工乳は同9.2%増の12万klで大幅増。成分調整乳は同4.1%減の26万7000kl、乳飲料は同1.9%減の107万2000klの見込みだ。コロナ禍で昨年度久々の上昇気流に乗った発酵乳は、103万2000klで、やや落ち着き前年を下回るとみられる。学乳は同8.0%増の35万4000klで大きく上回っているが、業務用もプラス推移している。

 強含みの生乳生産量の推移もあり、乳製品向け処理量(認定ベース)は、同4.4%増の344万9000t。そのうち、チーズ向けは同3.8%増の42万9000t、生クリーム等向けは同3.1%増の123万1000t、脱脂粉乳・バター等向けは同5.5%増の178万9000tと、増加傾向にある。

 業務用需要の低迷を背景に、業務用バターや脱脂粉乳の在庫が高水準で推移している状況も継続している。バターの21年度期末在庫量は前年を大きく上回り、同6.5%増の41万4000t。脱脂粉乳も同24.4%増の10万1000tとかなり高い数値が予想される。脱脂粉乳の高水準な在庫に対しては、国によって飼料などで活用する取組みへの支援もすでに行われ、7月から年度末までに約3万4000tが消化される見込み。ホクレンによる新規需要確保対策が進むことで、約1万t程度の削減効果が期待される。バターに関しても、国やホクレンによる需要拡大策で、年度末までの約8000t削減が目指されている。

 ●消費拡大策=多彩な価値訴求で刺激策展開

 牛乳・乳製品はコロナ禍で、栄養・機能面での評価が高まり、ステイホーム需要を大きく取り込んで成長軌道を描いてきたものの、長期化する「巣ごもり」で生活者は冷静な購買行動が定着し、一時期ほどの需要高騰はみられていない。しかし、生乳生産量や乳製品向け処理量は前年を上回る推移が予想され、強化されつつある酪農生産基盤を確実なものとするためには、堅実な消費の拡大が重要となってくる。

 そうした背景から、各社は秋冬に向けた商品戦略で、栄養・機能面に限らず、情緒面での高付加価値化など、多彩な価値訴求による消費刺激策の展開を進めるようだ。

 明治は、ヨーグルト市場でトップブランドとしてのさらなる活性化に乗り出し、プレーンの価値転換を図る。ドリンクタイプの商品育成で、カテゴリーの楽しみ方の幅を広げる方針だ。チチヤスも4ポットタイプの無添加プレーン展開を強化し、同市場の活性化が期待される。

 コロナ禍で自己防衛意識は高まり、個人の健康や体調管理はますます先鋭化してきている。

 森永乳業は、「毎朝爽快Light」に力を入れる。低カロリーを実現したことで飲用シーンを広げ、コロナ禍の運動不足に対応し支持を獲得している。雪印メグミルクは野菜を軸とした新たなドリンク「ベジサポ 速菜チャージ」を秋から上市。手軽な栄養摂取をより身近なものとして定着を進める。ヤクルト本社の「Y1000」は好評が続く商品の店頭シリーズとして期待される。

 コロナ禍でストレスや不安感が高まる状況が続く中で、さまざまな価値の訴求も強まっている。

 勢い続くアイスクリーム市場には、ロッテが40周年迎える「雪見だいふく」でもちを改良し、さらに情緒的価値をプラス。ハーゲンダッツ ジャパンは本格的な和スイーツアイテムを訴求する。協同乳業は「パティレ誘惑のナッツ」で、「五感に訴える」ごほうびを提案。丸永製菓の「あいすまんじゅう」もロングセラーとしてさらなるファン獲得が進みそうだ。

 年々消費量が拡大しているチーズでは、チェスコが「イル・ド・フランス」ブランドからロングライフのブリーを発売。東京デーリーもブリーのアソートを上市し、さらなる間口拡大を目指す。

 家庭起点の需要刺激を進めることで、高まってきた牛乳・乳製品需要の拡大へ、各社積極的なアイテム展開が進む。

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