外食の潮流を読む(89)業務用野菜卸業者が青果販売店を開業 厨房を持つことでもうかる
フードサプライ(本社/東京都大田区、代表/竹川敦史)は飲食事業者に野菜を卸す業務用野菜卸業を展開し、関東圏を中心に約5000店舗の顧客を持つ。同社が注目を集めたのは、2020年にコロナ禍となり「ドライブスルー八百屋」を手掛けたことだ。BtoBの同社では、コロナ禍で飲食店が休業していても全国の生産者や市場から野菜が計画的に届けられてセンターにたまる一方。しかし周りを見渡すと、スーパーは食料を求めるお客でにぎわい、マクドナルドのドライブスルーはまとめ買いの需要で渋滞の状態。そこでBtoCによって一般のお客に野菜をまとめ買いしてもらう仕組みを作り上げた。これは「生産者支援」という側面を持ち、社会現象となり全国的に広がった。
同社の「生産者支援」は野菜炒め専門の飲食店も生み出し「肉野菜炒め ベジ郎」を21年12月、東京・渋谷にオープン。2号店が22年4月、池袋にオープンした。肉野菜炒めのボリュームを選ぶことができ、大食いの人から糖質制限の人まで幅広いお客が利用して行列のできる店となっている。
また7月25日、立川市内の商業施設「グリーンスプリングス」の中に青果販売店「吟実屋」をオープン。同店の特徴は36坪の店内に15坪の厨房が設けられていること。これにより野菜やフルーツを販売するコーナーに加え、フルーツサンドやフルーツプリン、野菜弁当の売場を併設する。
代表の竹川氏によると「八百屋としての売場は新鮮な野菜やフルーツでいっぱい。そこでこれらがちょっと傷んできたら厨房に回して、フルーツサンドや野菜弁当を作る。つまり“循環型八百屋”を作った」と言う。
一般の青果販売店では100円で仕入れた野菜を130円で販売。これが売れ残ると値引きして販売していた。しかし、同店では売れ残った野菜を惣菜に回すことによって、粗利65%の商品に変える。このように“循環型八百屋”は生産性の高い商売の形を示した。フードサプライにとっても、これまで市場で野菜やフルーツの安売りをしていても飲食事業者から注文がない限り購入することができなかったが、例えば市場でスイカの安売りが行われていたら、それをまとめ買いし、この店で“スイカのスムージー大会”を開催することができる。
さらに、この店の店長、料理長はパートナーとなる飲食企業の社員が務めている。これはフードサプライ自身が飲食業の素人と自認し、プロである飲食企業に野菜やフルーツの惣菜作りと販売を委託している。
「われわれが飲食業を手掛けるとなると、採用や教育に時間がかかる。利益を多少捨ててもこれを専門とする飲食企業に任せた方がいい。飲食企業もわれわれとコラボすることで“生産”とつながるストーリーを持つことができる。このような仕組みによって、われわれは飲食業が展開できると考えている」。
このように語る竹川氏は商売のイノベーターの存在感にあふれている。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。