シリーズ・売れる惣菜づくり 「天ぷら」ここが違う手練の技

1996.06.03 102号 19面

夏こそ天ぷらという言葉がある。酷暑、スタミナ切れ、食欲不振にぜひカラッと揚がった天ぷらをということである。

しかし最近、おいしい天ぷらが少なくなってきた。コンビニやスーパーの量産天ぷらが主流となって、単にたねを揚げたもので、日本の味を代表する天ぷらとはほど遠い。

天ぷらには専門店が多く、各店によって味も大差。油、粉、たね、揚げ方などに特別の配慮がみられる。有名店の差別化をみると‐‐

●ごま油が店の味を代表するとして、ごま油だけを使用する店が多い。気候に合わせて、ごまのいり具合を変えて、冬場は炒りを強く、夏場は弱くする店もみられる。

●白ごまをベースにするが、冬場はコクを増すため黒ごまを加える。ごま油は乾性が比較的強く、カラッと揚がり、もどりが遅い。

●混合油を使用し、サラダ油(二~八割)、綿実油(八~二割)の店もみられ、綿実とコーンサラダの店もある。また、オリーブ油、カヤ油を使用する店も例外的に存在。油の吟味が差別化のポイントとして、公開をはばかる店が多い。

油の温度では、たねにより細分している。

・一六〇~一六五度=パセリ、大葉など

・一六五~一七〇度=生椎茸、玉ネギなど

・一七〇~一七五度=ナス、エビ、イカなど

・一七五~一八〇度=ハモ、アジなど

衣は油の熱をうけて、たねをむし焼きにする作用があり、たねのうまみと栄養成分を逃さない。カラッとして口触りがよく、軽い感じに揚げること。

◆薄衣=生イカ、エビ(全卵一、酒大さじ一、水、薄力粉〇・八カップ) ◆普通衣=普通のたね(全卵一、酒大さじ一、水、薄力粉一カップ) ◆厚衣=かき揚げ(全卵一、酒大さじ一、水、薄力粉一・二カップ)

この場合、水は冷水、夏場は氷水を使用する。卵は全卵を使う店と卵黄だけの店があるが、使用直前にとくこと。使用する小麦粉はたねと同様に冷やしておく。薄力粉は、製造して六ヵ月以上たった熟成品が良い。天ぷらは卵白、コーンスターチ入りでややかたくあがる。

衣のとき方は、よくふるって空気を含ませた薄力粉に卵水を加える。混ぜすぎず、まだダマが残っている状態でよい。混ぜすぎると衣にネバリがでてくる。混ぜる時は太いはしで一の字を書くように。細いはしは不可。

鍋は厚手の良質の鉄鍋(南部鍋が最高)、砲金製、銅製がよく、広口である程度熱しにくくさめにくい鍋がよい。

揚げ方としては、一度に揚げる量は油の面積の半分ほどに。多量を次から次に入れると温度が下がり、油が疲れ、カラッと揚がらない。また絶えず揚げカスをとること。

揚がりの見方は(1)たねの回りの泡が小さくなる(2)はし当たりがややかたくなる(3)たねが軽くなる、で判断し、揚がり具合をみるためたねを刺すことは、味が逃げ、油がよごれるので不可。

一般的な傾向として、揚げ時間が短すぎる。あと二~三秒おけばカラッとする。揚がったものは鍋の上で軽く油を切り、揚げ台に移すが、重ならないように注意する。

普通天ぷらの適温は一七〇~一八〇度で、この温度であげたものは油ぎれが良く、時間がたってもベトつきが少ない。

天丼用、天ぷらうどん用は衣に味がしみ、うまみが増すので花を咲かせるように衣を多くする。かき揚げははしを入れた時サックリと割れ、カラッと揚がっているものがよい。

天ぷらは細心の注意が大切。天ぷらを愛し店を愛する心が、店の繁栄につながっている。

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