飲食店成功の知恵(93)繁盛編 他店見学のポイント(1)

1996.08.05 106号 18面

よく、他店見学と聞いてもピンとこない、という経営者がいる。なかには「他人のまねをしてもしょうがないじゃないか」と鼻先で笑う人もいる。

たしかに、飲食店の経営は、繁盛店のまねをすればうまくいく、というものではない。いや、むしろ逆のことが多い。しかしそれは、繁盛店の上っ面だけをそっくりまねようとするからであって、実は他店に学ぶ点は非常に多いのだ。

いつもいうことだが、経営者というのはモノの考え方が独善的になりやすい。たとえ小さなお店でも、一国一城の主である。自分の思い通りにお店づくりができるということは、飲食店経営の大きな魅力のひとつではある。しかし時として、そのことがマイナスに働いてしまう。

前回取り上げた「独り善がり」の落とし穴などその典型例なのだが、いつの間にかお店が「肌荒れ」を起こしているということも少なくない。

売上げが頭打ちになるということは、何か問題を抱えているはずである。ところが、お店の中にいるとかえって、その原因が見えにくくなる。これは非常に危険である。

また、特に問題というほどのことではないにしても、オープンしてから何年かたてば、お店も経営者の頭も、多かれ少なかれマンネリに陥ってくるものだ。マンネリも自分ではなかなか気づきにくいが、お客の方では敏感に察知する。

前回述べたことをここでもう一度繰り返すが、お客に熱烈に支持してもらうためには、お客の立場に立って、どんなお店がお客にとっての「いいお店」なのかを知らなければならない。

そのためには、できるだけお店の外に出て行き、いろいろなお店を体験することだ。そうすれば、自店を客観的に見ることができるようになる。それが、飲食店経営者としての感性を磨くということなのだ。

できることならば、遠くにまで足を延ばしてほしいところだが、それが無理だというのなら近場でもいい。定休日などを利用して、積極的に他店見学をすることをおすすめしたい。

さて、他店見学の目的は、繁盛店にお客として入ってみて、その繁盛の秘訣を探り、自店の経営に生かすことである。他店の知恵に学び、自店の問題点解決のヒントを見つけようというわけだ。

そこで注意しておきたいのは、その目的をしっかりと頭にたたき込んで見学しなければならない、ということである。ただ漫然と他店を見て歩くのでは、たんなる食べ歩きツアーでしかない。意味がないばかりか、時間とお金をムダにするだけだ。

まず、見学のテーマを決めることである。そのお店の何を知りたいのかがハッキリしていれば、おのずと決まってくることなのだが、案外とこれがぼやけてしまっていることが多いのだ。

もちろんお店の価値はトータルなものだから、これだけ(例えば商品)見れば事足れり、ということにはならない。しかし、慣れてくれば自然と全体に目が行くようになるが、最初のうちは、見ているつもりでも意外と見ていなかったりするものだ。帰ってから、さて、あのお店の繁盛の秘訣はと考えても、何も出てこなかったりする。

もう一つ大事なことは、あくまでお客としての客観的な視点で観察することである。お客にとって魅力になっているのか。それを見抜くことが眼目なのだ。同じ飲食業という色メガネをかけていると、つい経営者としての自分の価値観で判断してしまいがちである。たんなる他店の事例で終わってしまったら、自店の改善に結びつかない。

(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)

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