厨房のウラ側チェック(11) アレルギー様食中毒の怖さ

1992.09.07 11号 10面

アレルギー様食中毒の名前からでは、理解しずらいかもしれないが、これは、ヒスタミンによる中毒のことをさす。この食中毒は、日本では昭和27年に長野県内でサンマの桜干しによって集団発生が起こった。その事件により、原因物質が究明され、ヒスタミンの毒性によることが判明したわけである。このヒスタミンは、一部の細菌によって産生される。産生のメカニズムは、食品の遊離ヒスチジンが細菌の脱炭酸酵素作用を受けてヒスタミンになり、食中毒が成立する。このメカニズムのポイントであるヒスチジンを脱炭酸する細菌は、大腸菌やウェルシュ菌などがあるが、特にモルガン菌( Proteus Morganii )が強力である。

ヒスタミンによる食中毒事件を原因、潜伏期、症伏、予防及びケーススタディーなどについて考えてみる。原因は、メカニズムから遊離ヒスチジンの多い食材を考えれば、サバ、カツオ、マグロ、イワシ、サンマなどの赤身の魚や加工品などが問題となり、その食材からヒスタミンがグラム当たり一㎎以上検出すると症状がでる。まず、ヒスタミンの多い食品を摂取すると、三〇分から二時間程度の短い潜伏時間で患者の手、足、顔の一部または広範囲にじん麻疹様斑状性発疹を呈す。さらに頭痛、吐気、嘔吐、下痢などを伴う。これらの症状は一過性で軽く、一二時間以内で回復する。治療には抗ヒスタミン剤が有効。予防としては、ヒスタミンを生成する力が強いモルガン菌は、夏期に水揚げされる魚介類を汚染しているので注意を要する。ついては、魚介類の洗浄と温度管理が重要な対処法となる。次に、ケーススタディーを見ていくと、ヒスタミン事件例は、昭和47年から昭和56年までの一〇年間に四二件発生している。では、最初の事件例として、「サンマ桜干し」では二五名の患者が発生した。この汚染原因を調査した結果、桜干しの調味液がモルガン菌で汚染されていたことが分かった。

その時のサンマの表面に、泡が生成してたことがある。この事実は、モルガン菌がヒスタミンを作る時に二酸化炭素を放出した結果であるから、赤身魚の加工品に泡が生成している場合は、ヒスタミン中毒の可能性が高いので注意をして欲しい。

次に、昭和61年に山口県で発生した「イワシのつくね揚げ」による大型食中毒の例では、保育園の昼食を摂った園児と職員二〇五名中一〇〇名がじん麻疹様斑状発疹を主症状とする食中毒にかかった。その原因となったのが魚介類販売業者のイワシのミンチだった。魚介類販売業者が保育園にミンチを納品するまでに、仕入から四日間を経過し、さらにミンチ加工処理のために、室温下で処理されたことによりヒスタミンが多量に生成される要件が整ったことによると推定された。

原因物質の判定のために検食のイワシのつくね揚げを検査した結果、ヒスタミンが一八四㎎%検出したことによりヒスタミン食中毒と決定された。

最後に、ヒスタミン中毒は、原因物質の入った料理を摂ってから数十分で発症するため、このような知識をもっておれば速やかに対処できるので、問題発生時にお役立てて欲しい。

食品衛生コンサルタント

藤 洋

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