新興ラーメンチェーンの雄「珍珍珍」(さんちん)の経営戦略
B級グルメブームを追い風に、いぜん出店意欲旺盛なラーメン業態。とりわけ“個店の味”を前面に展開する新興ラーメンチェーンの勢力が強まっている。「珍珍珍」チェーンはその最右翼である。業態を新時代に導く牽引役と目される「珍珍珍」の全貌を追った。
「ラーメン店の出店はリサーチがすべて。味はもとより価格、立地、店舗設計、労務管理などすべてのマッチングを考慮し緻密な戦略が必要。FC店が必ず成功するシステムづくりこそ、わがチェーンの目指すところだ」。代表取締役・古山邦男氏の持論である。
他の飲食チェーンから見れば当然であるが、ことラーメンチェーンに限っては意外な答えだ。むしろラーメンチェーンを新時代に導く意識改革ともいえるだろう。
従来のラーメンチェーンは、食材卸やメーカーが自社製品を売るがためにおこしたソフト的な色合いが濃く、卸マージンが本部の利益になるため出店におけるリサーチや商品開発は他業種に比べ著しく遅れを来していた。また十分なリサーチをせずともある程度成功してしまう大衆店ならではのメリットが足かせとなったともいえる。業態内の度重なるFC脱退、分裂、スクラップ&ビルドはそれらの裏付けにほかならない。
“ラーメン店のおこした本物のラーメンチェーン作り”それが古山流というわけなのだ。
珍珍珍の売り物は十数年かけて研ぎすました“トンコク”と“江戸前醤油”のスープベース。アッサリとしながらコクのあるスープは、腹にもたれず毎日でも食べられると好評だ。
また、豊富な経験に基づき作成した独自の小型店舗フォーマットは、オーナーの負担を軽減し高効率展開を可能とするノウハウとして、各方面から手本にされるケースも多いという。
「いたずらにメニューアイテムを増やしたり、席数を増やすのは失敗のもと。FC加盟初心者には低リスクで確実に収益が上がるノウハウを供与して、本部の信頼感を得ることが先決」なのだそうだ。
麺、たれなど食材のほとんどは本社隣接のCKで加工したもの。注目すべきはサイドアイテムのレトルト生産設備と、FCに対する安価な食材卸値である。「FCオペレーションの簡素化を徹底。相場よりも確実に安い卸値を設定してオーナーの浮気を無くすのが狙い。チェーン全店一丸でいればスケールメリットを出すのはたやすい。当社の食材卸値はほかよりも三割は安いはず」と豪語する。
出店パターンは、一五坪を基準坪数とし、オーダーから調理、ケータリングまでピーク時で二人、深夜帯は一人で対応するカウンター方式。来店ピークがかたよる自家用車の通行帯を避け満遍なく来店する商業車通行帯を立地条件とし、食券自販機の設置を全店標準化することで人件費を一~一・五人分の削減、同時に徹底した衛生管理も手中にしている。
「やはり自分の目で確かめてからでないと出店に踏み切れない。最後は経験とカンがものを言う」といってはばからぬ古山氏。地道かつ確実な出店ペースは年間一〇~一五店。
珍珍珍チェーンにはFC拡張の営業マンは存在しない。“やる気”のあるオーナーに対し、手作りの店舗を提供することがモットーなのである。
チェーン一〇〇店を突破し地力を付けたオーナーが次々に現れている現状下、珍珍珍チェーンの新たな課題は、既存オーナーに二店目を提案するための業態開発だ。「最近顕著な低価格志向やファミリー志向への対応策が必要」とし、すでに低価格業態、中型店、大型店を試験展開に乗り出している。
新機軸の第一弾として、炊き出しの調理工程を簡素化し、ランニングコストを三割削減したラーメン(単価三八〇円)の低価格業態を秋田県、沖縄県で展開する意向だ。
大型店、中型店については女性、ファミリー層をターゲットにした新メニュー「ヌードルセット」をアピールして行く方針である。
FCオーナー最優先の珍珍珍コンセプトが、今後業態にどのような影響を及ぼすか見ものである。
・会社名=康和食産(株)
・ストアブランド=珍珍珍(さんちん)
・代表取締役=古山邦男
・所在地=東京都練馬区高野台二‐一三‐一六、03・3995・3301
・社員数=四八人
・資本金=一二〇〇万円
・決算期=10月
・創業=昭和53年4月1日
・設立=昭和57年2月1日
・モデル店=鶴見店、尾竹 橋通り店