地酒と料理のおいしい店 「さくま」
下町の風情が残る北区東十条の商店街にある「さくま」は、外観は普通の居酒屋だが、下町で昭和31年から誠実に仕事に取り組んできた姿勢が伝わってくる。中トロでだし汁を取る昔ながらの料理と、店主がこだわる一杯二二〇円からのうまい地酒を安価で提供している。
一代目の主人(佐久間滋さん)は、創業以来下町の移り変わりを店とともに見守ってきた。現在はリタイアして娘婿の二代目(幸一さん)に譲っているが、築地の仕入れは今でも必ず自分の舌と勘で仕入れる。
大きな弧の字型のカウンターに腰掛けると目に付くのは、朝仕入れた「カツオ刺し」「明石のタコ」など新鮮な刺し身や、おすすめ料理のお品書き。昔は今と違いマグロの赤身が好まれ、なんと中トロでだし汁を取ったという。
その名残りの「ミョウガのとじ鍋」は、中トロでぜいたくにだし汁を取り、具はシンプルに豆腐、ミョウガのみ。中トロのコクがありながらミョウガ特有のサッパリとしたあと口。これぞほかでは味わえない逸品だ。
地酒は「うまい酒を安く」を信念に、新酒が出ればサンプルを取り寄せるなど、常連さんに喜んでもらうため、うまい酒探しに努力を惜しまない。品ぞろえは、白雪の大吟醸「萬歳紋」から、毎日通える一杯二七〇円の「松竹梅上撰」をそろえる。
特に群馬の浅間酒造「あさま正宗」はこの店の定番で、味・香りとも絶対的な信頼を置いている。鑑評会で受賞したほどの蔵元でもあり「水がいいので灘の酒にも負けない味わいだ」と一代目も太鼓判を押す。これも一杯二二〇円と安く出している。
そんなこだわりの一代目を「お客さんに地酒のことを質問されても、何でも答える」と二代目は敬意をはらう。その背中を見ながら、二代目も蔵元を訪れたり、現在は日本酒の利き酒師の資格を取るために勉強中だ。
◆「さくま」(東京都北区東十条一-二一-三、電話03・3914・7900)=営業時間午後4時~午前0時、日曜・祝日休み、予算二〇〇〇円