ピザ・パスタ 第4次戦争 NBチェーン対地場チェーン・単独店

1997.09.30 136号 24面

店舗飽和化と大手寡占が年々進むデリバリーピザ市場。ブーム時のビッグセールスが夢のごとく感じるいま、生き残り策をかけた各チェーン、単独店の進むべき方向性が鮮明となってきた。業態形成から一二年。幾多の淘汰期を繰り返すうちに従来の投資マインドはすっかり色あせ、フードサービス業としての新たな自覚を強めているようだ。セールスポイントのすみ分けで横並び体質に終止符が打たれた昨今、デリバリーピザ市場は“個性化”という新時代の幕開けを迎えている。

デリバリーピザ業態の市場規模は平成9年5月現在、推定で三一四八店舗、年商一三二二億円。業態発足から一二年間、かつてない成長率を誇ってきた。市場はなおも拡大傾向にある。

だが、既存店の売上げベースでいえば横ばい、むしろ減少傾向をたどっている。これは需要の伸びに比べ出店数が多すぎるからにほかならない。ブームに火がついたころはオープンして即月商一〇〇〇万円はザラ。保有バイク台数×一〇〇万円が月商相場だった。いまやそれが二〇~三〇%ほどダウンしている状況だ。

とりわけローカル地域でその傾向は顕著。「前年比一~二割ダウンの既存店が多い。大手チェーン(この特集では五〇店舗以上を指す)の出店加速に苦慮するローカル店が目立ち始めますね」とはある資材業者。ローカル店舗の推定売上げは、順調な店でバイク一台あたり五〇~七〇万円。従来のようなビッグセールスを続けている店は皆無だ。

一方、大手チェーンはどうか。「順調に勢力拡大しているかに見えますが、伸びている店はごくわずか。ほとんどの既存店が頭打ち、もしくはダウンしているはずです」とは機器販売業者。「地方出店に拍車がかかっているが、思った以上に地場単独店の牙城を崩すのに手間取っている。地場ニーズになじまぬまま手をこまぬいていたり、限られた需要を地場単独店と分け合って共倒れしているチェーンもありますね」という。

トータルでは伸びているものの、実際の現場では思った以上に売上げが減少している。店舗の過密化が引き起こした当然の結果といえる。

かといって業態が沈滞ムードに包まれているわけではない。逆に、新たな方向性を見出そうとする機運が日に日に高まっている。従来の物まねから脱皮し、アイデンティティーを確立した“個性”ある店づくりが活発化しているのである。

デリバリーピザ業態は、大まかに分けて三度の局面を経験した。業態創生期のシステムの構築競争(第一次戦争・一九八五~八八年)、ブーム最盛期の出店競争(第二次戦争・八八~九一年)、バブル崩壊後のキャンペーン(価格)競争(第三次戦争・九一~九五年)である。それらの局面を乗りきってきたチェーン店、単独店が、自らのセールスポイント、アイデアを前面に打ち出す策に転じているのだ。

地場単独店は小回りの効く順応性を武器に地場ニーズに沿った展開。大手チェーンはスケールメリットを最大限に生かした展開。前者は、複合店化による利便性のアピールや、手づくり志向のプレミアム戦略。後者は、資本力にものをいわせたTVCMやラジオCM、大量ポスティング、商品開発の多頻度化。双方とも、かつてないオリジナリティーにあふれている。これを四度目の局面とすれば、個性化を研ぎすます競争期(第四次戦争・九五年~)に突入したといえよう。

それでは、四度目の局面の実態はどうか。前述通りズバリ、NBチェーンVS地場チェーン、単独店である。

大都市圏の陣取り合戦にメドがついたいま、大手チェーンは地方進出に拍車をかけている。地場チェーン、地場単独店らが開拓した需要を、そのまま奪おうというもくろみである。

一方、地場店も黙って見ていない。より地域性に合ったメニューやサービスを展開し応戦している。小規模で小回りが効くだけに、成否は別として斬新なアイデアが豊富。大手がまねできない切り口で繁盛している店も数多い(記事二六~二七面)。もとより、いま残っている地場店は減価償却を終えているケースがほとんど。月商二〇〇万円前後でも生業店志向のパパママ経営なら十分やっていける。大手が理解できぬ条件でも生き抜くだけのたくましさを備えているのである。

こうした反撃を予測してか大手チェーンも地方進出マニュアルを着々と固めている。「ドミノ・ピザ」「ピザーラ」らは、月商設定を引き下げた地方向け小型店舗パッケージを開発済み。「ピザ・ウイリー」はそれプラス宅配弁当「膳」、「ピザポケット」は宅配お好み焼き「紺我里」、双方とも複合店パッケージで地方に照準を合わせている。

「ピザ・カリフォルニア」「シカゴピッツァファクトリー」「テン・フォー」はもともとローカル志向で、従来のノウハウに磨きをかけている模様。「ピザハット」は組織力を最大限に発揮した展開。「ストロベリーコーンズ」「リトルパーティー」は人材面の充実を前提とする堅実路線。いずれも足並みの異なる勢力拡大を進めている(記事二八~三七面)。

「いままでの売上げが異常すぎた。いまが正常になっただけです。既存店の売上げが落ちているというが、現状の店舗数(供給)からすると、バイク五台で月商四〇〇万円に達すれば好成績ではないでしょうか。売上げが高くても肝心なのは利益率。八〇〇万円売って一〇〇万儲けても、五〇〇万円売って一〇〇万儲けても、利益は同じ。薄利多売よりも、コストダウンやプレミアムを基調に従来のオペレーションや商品開発を見直し、利益率を高めて行く必要があるのではないでしょうか。原価償却を終えた店はなおさらです」とはある食材卸業者。売上げよりも、スリム化やコンセプトリニューアルの点を指摘する。

いずれにせよ、業態が成熟期を迎え、個性化の時代に差し掛かっているのは間違いない。オリジナリティーを競う五度目の局面(第五次戦争)が、業態の性格、また市場形成をどのように塗り替えるのか見物である。

一二年という短い間に、これだけの変化がある業態も珍しい。これは、ピザよりもデリバリーという業態ニーズが、時代の急速な流れとともに高まっているからだ。

事実、在宅ニーズは年々高まっている。高齢者社会、インターネット、TVゲーム、レンタルビデオ、個人携帯電話。外出機会の減少要因は増えるばかりなのである。

その意味からすると、デリバリーピザ業態は、次世代ニーズに向けたフードサービス業の最先端に位置していることになる。今後の移り変わりが一層注目されるところだ。

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