関西版:銭湯変じて居酒屋に 海鮮あなご料理「善兵衛」

1997.10.06 137号 11面

大阪市と隣県兵庫県の尼崎市との境界を示す神崎川、その名も「神崎川」の駅舎がある阪急電鉄・神崎川駅から大阪側へ向かって約一〇〇m、線路の南側に銭湯の面影を残した「海鮮あなご料理・善兵衛」(大阪市淀川区、06・885・8084)がある。

本年7月に長年なじまれてきた銭湯が大変身、居酒屋タイプのファミリーレストランとして新たなスタートを切った。

地理的には、大商都・大阪の最もはずれに位置する所在地は、大正時代に建設された家屋と工場が残る庶民の街であり、メッキ工場などの中小企業の工場と古くから住み着いた住民で構成する工場と住宅が混在する特異な雰囲気を持つ地域である。

どこか、激動する流れに取り残されたような感のあるこの地に、銭湯の煙に替わってムクムクと誕生したのが「善兵衛」で、経営者は三九年間「講和温泉」としてお客を迎えてきた前田清志社長。日本で最初にして唯一の風呂に入らずして「家族的雰囲気で、飲食を楽しむ銭湯」と位置づけている。

父が始めた銭湯を一四歳の時から手伝い、地域の人たちに愛され続けた三九年、曲がり角に来た銭湯の経営を単なる生き残り策の追求だけに止めず、「長年にわたって支援していただいた地域住民の方々に感謝したく、新しい事業展開で街の活性化を図ろうと決断しました」(前田社長)。

地域社会にあって、銭湯が受け持っていた役割、「くつろぎ」「団らん」そして健康イメージをそっくり引き継いで、入浴ではなく、飲食で楽しんでもらおうとしての変身だった。

銭湯の番台も下駄箱も衣服入れも残して活用、ゆったりスペースの脱衣場が飲食スペースに変身、ユニークにして「料理のおいしい居酒屋」の評判をとっている。

銭湯変じて居酒屋となり、周辺はもとよりマスコミも注目、話題沸騰となって連日満員の盛況を続けているが、その要因は奇をてらったところにあるのではなく、続いて語る前田社長の言葉に説得力がある。

「私の頭の中には、長年なれ親しんでいただいた銭湯のぬくもりを、形を変えて提供し、継続したいとの思いがあり、業態は変化しましたが、接客サービスに精いっぱい努めたいという思いに変わりはありません。お陰様で、銭湯に浸る雰囲気でお子さま連れのファミリーも大挙ご来店いただいております。もちろん、穴子をメーンとした料理も自慢ですし、価格も低廉に抑えています。けれど、商売をしている以上オイシイのは最低限の条件で、それよりも当店が独自のサービスとさせていただいてるのは、“空間”なのです。私は、くつろぎのスペースの提供は平面だけではなく、立体で提供する時代だと考えています。頭上に広がる空間が本当のくつろぎ空間ではないでしょうか。私の思いが通じたのか、お一人当たりの客単価も当初予測の二二〇〇円ではなく、二七〇〇円~二八〇〇円になっています」

かといって、空間ばかりがオイシイはずがなく、厳選された食材に精魂込めたサービス、最後にリーズナブルな価格で大満足となる。

連日(営業時間=月・土が午後5時~ラストオーダー午前0時、日・祝は午後3時~ラストオーダー10時)盛況が続く来店客の顔ぶれは、冒頭にも記したとおり中小企業が林立する街であり、不思議な現象を生み出している街でもある。

というのは、地元住民は地元企業に勤めずに他の地域に出勤、地元企業には他地域から勤労人口が流入する。だから「顔」は異なっても昼夜間の人口は同数に近い状況となっている。このような背景があるため、ウイークデーは仕事帰りの人が、土・日は地元の人たちが店を占拠する。

いま一度、前田社長の弁を聞く。

「順風満帆かと問われれば、どこが満帆なのか答えに窮するが、今のところ目標の八五%~九〇%の水準にあります。目標が高すぎたのかとも思いますが、一年経過の時点では必ず目標をクリアしたいと思っています。それよりも私は人が大好きで、人様に集まっていただき、喜んでもらえる仕事にかかわっていたい、というのが本音で、最近も銭湯で長年なじんでいただいた方の法事をここで行っていただきました。家庭内入浴の時代になって久しく、銭湯とは縁遠くなっていた方々がふたたび回顧談と共にご来店いただいたり、今さらながら地域の皆様方のご厚情に胸を熱くしております。初心忘れるべからずを常に唱えながら少しでも地域の皆様にお報いできるよう頑張ります」

<人気メニュー>

▽穴子箱ずし(五カン)七八〇円▽にぎり盛り合わせ(七カン)九五〇円▽ぜんべいの手作りコロッケ四八〇円▽穴子の天麩羅六八〇円▽穴子柳川鍋八八〇円▽穴子箱定食一八五〇円▽いせえび具足煮一二〇〇円▽穴子の蒲焼四八〇円▽キムチしゅーまい四八〇円

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら