業種徹底分析 たい焼き・たこ焼き現状と問題点を探る(2)

1998.03.02 147号 4面

テークアウト一時間後に今一番おいしいたこ焼きは「天狗茶屋」(ファンシーコーポレーション)だろう。焼きたての特大タコの入ったたこ焼きを、型くずれ防止用の底が丸い中敷きごと高分子吸収ポリマーが内張りされたカートンに詰めて提供する。しかもソースや青海苔は別添だ。関西の人には包材にこれほど金をかけることなど考えられないかもしれない。でも「お客様が食べる時においしいように」この当たり前のことを考えてあげられる店は少ない。

「天狗茶屋」の心遣いが、自家消費用おやつ的商品であるたこ焼きやたい焼きを贈答品にまでグレードアップさせ、駅から離れた二等立地でもわざわざ足を運んでもらえる店にしているのだと筆者は確信する。

(3)季節感やオリジナル性のある新商品開発。前述のように、たい焼き・たこ焼きの販売量は季節の変化やさまざまなイベントに敏感に反応する。当然黙っていても売れる時と何をやっても売れない時がある。この業界の生業の店は「どうせ売れないから」とか「家賃がただだから」といって夏にはやめてしまう。

機械の上に天板を置いてかき氷を販売するくらいならまだよいが、ひどい店だと機械をそのまま放ったらかして作業台代わりにする。鉄板の「鯛」にゴミがたまった姿を見て、いくら秋にきれいに掃除をしてから販売を再開しても、買いたいと思うお客様がいるだろうか。

たい焼き・たこ焼きもファッション感覚が売上げを左右する。水着やスキーウエアのように実際に売れるのはシーズンインしてからなのに、何ヵ月も前からセンスたっぷりにディスプレーして、シーズン中は多彩な品ぞろえとボリューム感で勝負する。消費者が買いたくなるのを待つのではなく、少しでも気温が下がったら買う方がおしゃれという風に仕掛ける。

和菓子屋さんが夏になれば水ようかんを、ラーメン屋さんが冷し中華を売るように、たい焼き屋さんのイメージを変えない夏場商品。例えば、たい焼きの形をして中にあんこが入った「冷タイゼリー」を、冷蔵ショーケースにきれいに並べて売るとか、既に製品化されている「タイ焼アイス」を仕入れて包装紙だけオリジナルに換え、高級感を出して販売するとか。冷めたたこ焼きだって、冷しそうめんと一緒に冷たいめんつゆにつけて食べたら、「冷したぬきそば」に決して負けない夏メニューだ。

そしてそれらの商品をPRし、サポートするセンスあるバナーやPOPと爽やかな夏のディスプレー。たい焼き・たこ焼きだってやり方次第で8月に最大売上げを出すラーメン業界のように変革することも可能なのだ。

洋風FF業界に比べ、この業界の完成度は著しく低い。既にPOSシステムを導入し、トレーニングセンターなどの機能を持ったチェーンもあるが、内容は実にお粗末である。それだけに、この業界の可能性は無限大にあるといっても過言ではない。

といっても今のスタイルがシステム化されてメジャーなチェーンストアが出現するというのではない。たい焼き・たこ焼きを巨大チェーン化するのは不可能なのである。なぜなら、日本の消費者はたい焼き・たこ焼きに対してマクドナルド以上の接客(温かい会話・人と人との付き合い)とモスバーガー以上の商品(手づくり感・お土産にできる)を求めている。

ある段階まではチェーンストア理論が通用しても、それ以上に市場が成熟するとかえってそれが邪魔になるからだ。この業界のオペレーションを究極的にシステム化した姿は、冷凍食品の自動販売機の世界であり、既にたこ焼きは冷食でベスト5に入る人気商品だ。

今後もその傾向はさらに進み、ここ数年の内に冷食の味はチェーン店の味を上回り、商品としてのパイを広げ、たい焼き・たこ焼き屋のシェアを食いつぶしていくであろう。ちょうどCVSの弁当がテークアウト弁当店に勝ったように。

それでは、この業界の無限大の可能性とは一体何か。どうすればジリ貧の現状から脱皮できるのか。

まず一つ目は「ブランドづくり」である。ブランドといっても、ベルサーチにたい焼きの形をデザインしてもらうことでも、チェーンブランドをつくることでもない。コメや野菜や牛乳のように、作者や店舗が限定の「鯛宝堂・鯛野焼造がつくったこだわりのたい焼」みたいなものをブランドにして、贈答にできるような桐の箱にでも入れて、冷食かチルドで市場に出すのである。

一匹一〇〇〇円で売れるたい焼きの世界が誕生すれば、この業界は「とらや」のようかんの業界のようにイメージが上がり、たい焼きに誇りを持つ優秀な人材が入ってくるようになる。

この業界の最大の弱点は、広い視野とリーダーシップを持った優秀な人材がいないことにあるが、まずそれを解消することが業界の発展に不可欠なのだ。

たこ焼きは、熱いだしやおろしポン酢、酢醤油などにつけて食べてもおいしいし、スパゲティのさまざまなソース類やチーズ、カレーとも相性がよい。にもかかわらずほとんどの人がたこ焼きはソースをかけて食べるものと思っているし、何より売る方もソースをお客様に選ばせるくらいの努力しかしないで、最初からかけて提供している店がほとんどだ。これでは自ら業界のパイを狭くしているとしか思えない。スパゲティだって、ナポリタンとミートソースだけの時には、軽食喫茶のメニューの一つでしかなかった。おにぎりだって今これだけ売れているのは、そのバリエーションと提供方法の改善にある。

たこ焼きだって中身の具をちょっと換えたくらいで新商品と満足しないで、フジTVの「料理の鉄人」の「テーマ素材」にしてもらうくらいの発想が欲しい。鉄人や挑戦者が一時間の間にどれほどすごいものをつくるか見るだけでも楽しみだし、「レタスクラブ」や「オレンジページ」で「教えます。私だけのたこ焼き調理法」みたいな企画で、全国の女性からたこ焼きの食べ方を募集すれば、いろいろなアイデアが集まり、主婦が夕飯の材料に肉や魚のような感覚でたこ焼き(もちろんソース抜き)を買う日が来ても、決して不思議ではないのだ。

人類の永遠の関心事といえば健康だ。たい焼きやたこ焼きは、現段階ではそれほど低カロリーの商品とはいえないが(たい焼き約二五〇Kcal・たこ焼き約四〇〇Kcalくらい)、ほかの洋風FFと比べれば、肉を使わずフライにしていないためヘルシーなイメージがある。

このイメージと実演のパフォーマンス、そしてバリエーションの多いトッピングとくれば、陽気でヘルシー志向の外国人たちが黙っているはずはない。もちろん、タコそのものが苦手な国の人には、貝やエビでもOKだ。

たい焼き・たこ焼きが、TAIYAKI・TAKOYAKIとなり、ニューヨーカーがTAIYAKIを歩き食いし、パリジェンヌがカフェでTAKOYAKIをフランス風に食べる。二一世紀は、タイヤキ・タコヤキが面白い。

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