中部版:シリーズ・今年の中部外食(10)喫茶店編「マッシモ・マリアーニ」

1998.03.16 148号 14面

名古屋の喫茶店というと、良くも悪くも話題になる。一時、「モーニング戦争」と騒がれた地もここ。首都圏と比較すると、値段の安さと過剰ともいえるサービスにびっくりする。しかし愛知県喫茶環境衛生同業組合の舟橋理事長によると、「傾向はチェーンの低価格コーヒー店と高価格でこだわりコーヒー店の二極分化。名古屋の昔さながらの営業方法は中途半端で問題も多い。このまま続けてゆくと、やがて淘汰される運命にある」と危機感を募らせる。したがって今回は、あえて名古屋らしくない(?)喫茶店を選び、成功しているコーヒー専門店と紅茶専門店を紹介してみたい。

オーナーの吉田英一さんは店をオープンする前に、対象となる客とシーンを具体的に描くことから始めた。たとえば、一週間に一度いつもよりおしゃれをして食事に出かける、とする。食事が終わった後ホテルのバーに寄るのがお決まりコースだが、余韻はそのままにアルコールではなくお茶を楽しみたい時があるはず。お酒が飲めない吉田さんならではの発想だ。しかし町中の喫茶店では俗っぽいし、名古屋の喫茶店は閉店時間が早い。

そんな設計を描いて、吉田さんは「マッシモ・マリアーニ」をつくった。

商業地、今池のはずれに、人目を引くヨーロッパの城壁で囲まれているのがこの店。中へ入るとドアの脇に小さな庭に面した総ガラス張りの小さなテラスがあり、しんとした空気が漂う。

一〇年前、吉田さんは同じ場所に夫婦で喫茶店を営んでいたが、近くにFRができたことで客が激減。対応策として、思い切って隣にある自宅の倉庫を骨董屋さん風の「串揚げの店・時代屋」に改造し、その帰りに寄れる連動性を持たせたイメージの喫茶店としてイタリア調のマッシモ・マリアーニを開店した。

店から車で一〇分ほどのところに私立の幼稚園、小、中学校がある閑静な住宅地を商圏に、そこに集まるゆとりのある主婦層をねらう。コンセプトを「非日常的空間」とし、外観、内装とも洗練されたイメージに、メニューは創造性あふれるコーヒーのバリエーション六〇種類を提供。価格も高めに設定した。

その狙いは見事的中。口コミで次から次へとおしゃれな客は増えていった。

吉田さんは「自分が入りたいと思うような夜向きのティールームがなかったんで」と話し、お酒が飲めなくてもバーのようなゆったりした時間を楽しんでもらいたいという。

入り口に足を踏み入れるや「非日常」の開始。したがって、「日常」の代名詞たる幼い子供連れの来店は断っている。すべてに演出が行き届き、それらを含むすべての代償が、コーヒー代金六五〇円となる。名古屋のコーヒー一杯の平均価格が三三〇円。比較するとかなり大胆な設定ではある。

「当店は毎日普段着で来てくれる客ではなく、特別の日として少し気取った客が対象」と、客層を絞り込んだ上での価格設定だ。

客層は最初の思惑通り、男性三に対し女性七。さらに分けると、女性グループ五、カップル四、男性グループ一の順。年齢別では男性は三〇~五〇代、女性は二〇~四〇代で、男性が女性に見せびらかしたい店になっているようだ。

「コーヒーにもこだわっているが、それよりもお客さんの気分を一番大切にしている。座りたい場所を自由に選んでもらうなど、最大限の望みをかなえてあげることがサービスだと考えている」

軽食やデザートなど多彩に提供することもひとつのサービスではある。しかし、生業店としては仕入れに関わる体力の消耗と時間ロス、ガス・電気の光熱にかかる経費が大きいことは、ダメージとなる。仕入れロスを省き、利益の上がる方法を考えた結果、マッシモ・マリアーニが完成した。

平均客単価九〇〇円、月商四〇〇万円。

☆「マッシモ・マリアーニ」/所在地=名古屋市千種区今池南一三-一四、電話052・733・7825/営業時間=正午~午前0時、年中無休/P一五台/吉田英一オーナー

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