新店ウォッチング:居食屋「和民」相模原中央店
外食ベンチャーの旗手として、いま最も期待される企業のひとつである「ワタミフードサービス」が、念願のFR(ファミリーレストラン)業態に進出した。「ファミリーコミュニティレストラン」と銘打たれた「居食屋」業態の「和民」である。場所は神奈川県相模原市。大型ディスカウント店として有名な「アイワールド」の本館、新館、食品生活館などが建ち並ぶ一角であり、辺り一帯はさまざまな業態の店舗が集積して、週末ともなれば人やクルマでごった返すという絶好のロケーションにある。
通りからまず目を引くのは、ビルの外壁に取り付けられた大きな袖看板だ。店舗はビルの一階と二階だが、もともとは別の賃貸フロアであったものを同一店舗として使用している。そのため、いわゆる内階段ではなくビル自体の共用階段を利用しているのだが、この辺はさすがに違和感なく処理されている。
内・外装は茶系と木地を生かしたデザインで、洋と和の雰囲気をうまく調和させている。店内はFRらしいシンプルな仕上げだが、夜間の飲酒営業を意識してか、ボックス席まわりのパーティション(しきり)が昨今のはやりとは違ってかなり高い。席に着くと、ほとんど辺りを見回せないほどの高さで目線を隠している。FRと異なるのはカウンターで、バーカウンタースタイルの前後の棚に酒類やグラスなどが並ぶ。
しかし何といっても驚くべきはその商品だ。この店のメニューには、いわゆる「定食」型の商品はまったくない。すべて「前菜」もしくは「一品料理」であり、ほとんどはスモールポーション(小盛り)である。これに「ごはんセット(二五〇円)」を組み合わせて、自由に献立を選んでもらおうというのが基本のスタイルなのだ。
まず単価の安さに驚く。盛りが小さいとはいえ、天丼三八〇円、大根サラダ二八〇円、十割そば三八〇円など、二五〇円~三八〇円という単価の商品がずらりと並ぶ。しかも、それぞれの料理の完成度は価格に比して決して低くはない。ちなみにコーヒーは一五〇円である。
さらに提供時間の早さ。お好み焼き業態時代から提供時間を伝票に記入するなどして培った技術が生きている。実際、この店のPOSは商品ごとに「特急」の指定ができるようになっており、伝票にも記入される。
また一部の従業員はインカムを着けており、厨房などと連絡を取り合っている。これは、これからの大型店には不可欠の武器だろう。
こういったノウハウを十分に生かすことができれば、ワタミにまた新たな神話が付け加えられる日もそう遠くはないと言えるのではないだろうか。
◆ファミリーコミュニティレストラン居食屋「和民」相模原中央店(神奈川県相模原市中央四-五-五、電話0427・86・8270)営業時間=平日午後5時~午前2時、土・日・祝日午前11時~午前2時
「ワタミ」が、ついにFR業態を引っ提げて大手ご三家(すかいらーく、デニーズ、ロイヤルホストの三社)に挑みかかった。その第一号店ということで、期待に胸ふくらませて相模原へと向かったのだが、何と平日は午後5時からの営業。この店を見るなら何としても昼間でなければならない。その日は予定もあるため再度週末に出直した。
そして再び土曜の2時過ぎという時間帯に訪れたが客席は数えるほどしか埋まっていない。がらんとした店内にBGMと従業員の私語が響いている。しかも、その言葉づかいが非常に汚い。はっきりいって不愉快である。全員がそうなのではなく一部の者だけのようだが、インカムを着けたマネジャーらしき社員もいるのに注意する風でもない。
教育レベルに応じてオペレーションのレベルも低かった。注文は呼ぶまで取りに来ないし、退店時も会計カウンタで筆者が呼ぶまでだれも気づかなかった。恐らく、そのまま帰っても大丈夫(?)だっただろう。お客の入りが悪いのもうなずける。
居酒屋などの飲酒業態は、ふつう家族以外のグループで来店し、しかもお客同士が自分で楽しむ雰囲気のため、FRの食事客や家族連れ客が要求する接客とは基本的に異なっている。その辺りのマニュアルの確立が急務だろう。
内装では、防水関係のため床上げしているせいだろうが、バーカウンターの従業員の立ち位置が異常に高いのが気になった。カウンターに座ったお客は従業員に上から見下ろされることになり、あまり居心地が良くないはずだ。
あの商品力を生かせるマネジメントを確立し、ぜひまた外食に新しい風を吹き込んで欲しい。
◆筆者紹介◆
商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけた後、SCの企画業務などを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援など幅広く手がける。