これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(7)デニーズの店長職
「今年は一〇〇店舗も出店する!」。そんな新聞記事を見ながら、もとデニーズマン(デニーズの退職者)はため息をついているのではないだろうか。
一般の町場の飲食店のコックさんやウエーターさんには、とっても想像がつかないくらいデニーズの店長は大変だ。まず精神的にも肉体的にも耐えられないのである。なにが大変かは以下の事実で納得できる。
数年前、デニーズの労働組合が、全従業員に対し労働条件や就業実態調査のアンケートをとった。そのなかに、「あなたは将来、デニーズの店長になりたいですか」という質問があった。すると副店長の三〇~四〇%が「店長にはなりたくない」「店長職は魅力がない」という結果が出たのである。
もちろん、こんな答えは公表されない。なぜなら、デニーズは徹底した情報管理体制にある企業だからである。管理体制というより、秘密漏洩を恐れる情報統制会社であり、親会社のイトーヨーカドーと同じ秘密体質を持った会社なのである。
マスコミに内部の情報が漏れようものなら、もう大変なことになる。「だれが、どこから」と徹底的な犯人探しが始まるのだ。まるで北朝鮮のような会社である。
話を戻すと、店長の仕事を見ている副店長が「あんな店長にはなりたくない」という答えを出しているのである。私の友人は、イトーヨーカドー的な体質(どこを切っても同じ顔、同じ個性、統制の取れた組織体質)を逆に非常に評価する。「当たり前のことが当たり前にできる企業」だというのだ。
しかし、それが個性なき社員の無機質集団を作り上げており、“大企業病”の病巣と化しているのである。どぶネズミルックのサラリーマン集団がそれである。こんな会社ではグローバル・スタンダードの時代に勝つことはできないのではないか。
マニュアルですべてを解決できるほど世の中は単純ではないし、それで満足するほど人間は簡単な生き物ではない。「デニーズの店長なんかになりたくない、と私も言いたい」という潜在意識は社員の半数以上にあるのではなかろうか。
それではなぜ副店長や社員が店長職になりたくないのか。その理由は以下の通りである。
(1)売上げの低い店では人件費管理のしわ寄せでハードワーク(過剰労働)になる。
(2)ほかのレストランチェーン店に比べると提出書類や事務作業が格段に多い。
(3)水道メーターや電気メーターの読みとり計算など細かい作業を何でもかんでも店長に押しつける。
(4)すべての事柄がすべて書類で提出させられるため毎日毎日書類の作成におわれる。
(5)売上げはもちろん客数、客単価、前年比、前年同曜日比、今年計画比(それも時間帯別の計画・実績比)、全メニューの売れ数計画と実績比(全時間帯別)、仕込量の計画と実績比(全時間帯別)、予想仕入れ量と在庫量(全時間帯別)、予想食材原価率、非食材原価率、人件費率、労働生産性(全時間帯別)、計画労働時間数(全時間帯別)、実績労働時間数(全時間帯別)、その他水道光熱費をメーターから読みとり、計画と実績値などを毎日算出し報告する。
(6)モーニング、ランチ、ディナーのピーク時間にはフロントにいなければならない。
なにしろめちゃくちゃな事務作業量なのだ。締め切り延滞なんて許されるはずがない。SVや地区マネジャーの巡回時に事務作業なんかやっているのを発見されたら、とんでもないおしかりを受ける。
売上げのない、または低い(二四時間・年中無休営業で月商八〇〇万円から一二〇〇万円くらいの店)の店では、まったく人件費が使えないのでアイドルタイムは社員が一人か二人(キッチンも含めて)でお店を運営しなければならない。そのため、毎週月曜日開かれる店長会議は店長の公休日にして出席している。
部下は休ませなければならないので、店長がタイムカードは押さずに出勤し勤務することもある。なにせ店長は店舗責任者であるから、いつもいつも厳しい監視の目が光っており、抜き打ち現金監査などもあるが、その半面一万円の費用も自由に使えないほど権限はゼロに近いのである。
であるから新卒採用した新入社員の離職率はすごい。退職した店長に聞くと、一年間に三〇%以上が退職するというし、二~三年で半分以上が辞めて行くという。みんな仕事がつまらないのである。
上司が“管理、管理”“数字、数字”と顔を見れば口に出す職場が楽しいだろうか。やりがいも生きがいもない職場で楽しいのであろうか。そしてその結果が、膨大な数のデニーズの退職者たちなのである。
ある退職者に聞くと、「砂をかむような日々の中で、いつしか退職願いを書いていた」という。
(仮面ライター)