注目の外食ベンチャー 宅配ピザ市場に旋風「ピアーザ」

1998.06.15 154号 18面

広島県福山市を拠点に八店舗を展開する「ピアーザ」は、生業店志向の地域密着宅配ピザチェーン。“職人芸経営”をテーマに掲げ、中小宅配ピザチェーンの進むべき新たな方向性を示している。店舗開設投資はわずかに二五〇万円、標準月商は二三〇万円。小規模堅実経営の典型的成功例として脚光を浴びている。

「宅配ピザの草創期は、店舗オープンで即月商一〇〇〇万円。いま振り返って見ると狂気の沙汰でしたね」と語るのは同チェーン代表の大藤慎一さん。

大藤さんは宅配ピザチェーンの草分け「ピザステーション」の出身。一号店当初からスタッフの中核として活躍してきたが、実家の事情で帰郷。後、宅配ピザブームが一段落したところで、福山市内にニューコンセプトの宅配ピザ店、ピアーザをオープン。ディテール細かな手作りピザを売り物にコンパクト展開を志向するユニーク経営で、強固に地盤を築いている。

「従来は投機目的の宅配ピザ店が多く、店舗開設費は二〇〇〇~三〇〇〇万円にも及んだ。つまり経営者は資産者層に限られていた」

「本当にピザが好きで『おいしいピザを作りたい、お店を持ちたい』という無資産の若年層には出店のチャンスが少なかった。そんな若者にリスクの少ない経営のチャンスを与えるための具体策が、職人気質の小規模地域密着展開というピアーザのノウハウとなったわけです。従来の大手チェーンのやり方とはすべてが逆行していますね」

大藤さんの思いは初期投資二五〇万円という数字に強く表れている。

“職人芸経営”だから店舗オペレーションや調理マニュアルは、投機目的の従来型とは大きく異なる。毎朝、オーナー自ら店に入りドウを作り、トッピング材料を当日分だけ刻み揃える。オーブンは本格志向のデッキ式オーブンを採用。スタッフは白衣のユニフォームを着て、首には赤いナプキンを巻き付ける。スタッフは一見すると本物のコックさながらである。

とりわけ特筆すべきは、ピザの焼成時における細心のノウハウである。デッキ式オーブンは焼きムラが起こりやすいので、焼成中に幾度かデッキを開けてクラストを回す必要があるが、そのタイミングに合わせてさまざまな調理を施す。

例えば、(1)ダブルチーズの場合は、焼成前とクラストを回すときの二回にわけて半分ずつトッピングするが、これによりチーズの二重の味わいを引き出している(2)マヨネーズをトッピングする際は、焼成が完了する直前にトッピングして見栄えを良くしている(3)焼成中にドウのなかの空気が膨張してクラストが膨れ上がるバブルダウンは、クラストを回す際に防げるので、ドッカーを使う必要がなく、ドウの繊維を傷つけずに済む。例えバブルダウンが起きても、その部分にトッピングを追加するのでトッピングムラも皆無――など。

「コンベヤーオーブンのように機械任せにしないで、常時見張りながら焼成し、最高のタイミングでトッピングする」というのが大藤さんのこだわり。焼成途中の調理ノウハウはほかにもたくさんあるという。

こうしたプレミアムをセールスポイントに、最近はホテルや一般レストランに対しドウやトッピング食材を供給(卸売)するまでに至っている。

手間ひまかけたピザはリピーター確保の原動力となり、販促キャンペーンや大量ポスティングとは無縁の安定展開を見せている。一~二㎞・八〇〇〇世帯、バイク三台の標準フォーマットで平均月商は二三〇万円前後といったところ。

大手チェーン相場に比べて半分以下の売上げだが、低投資、コンパクトパッケージ、ローコスト販促を踏まえれば、決して低い数字ではない。むしろ利益率で見れば、オーナー利益三〇~三五%(七〇~八〇万円)と大手チェーンを圧倒的にしのいでいる。利益金額だけで見ても大手チェーンの月商五〇〇万円前後の店の利益と同等なのである。

店舗飽和化と大手寡占が年々進む宅配ピザ市場。ブーム時のビッグセールスが夢のごとく感じるいま、生き残り策をかけた各チェーン、単独店の進むべき方向性が鮮明となっている。業態形成から一二年。幾多の淘汰期を繰り返すうちに従来の投資マインドはすっかり色あせ、フードサービス業としての新たな自覚を強めている。セールスポイントのすみ分けで横並び体質に終止符が打たれた昨今、宅配ピザ市場は“個性化”という新時代の幕開けを迎えている。

宅配ピザ業態は大筋四度の局面を経験した。業態草創期のシステムの構築競争(第一次戦争・八五~八八年)、ブーム最盛期の出店競争(第二次戦争・八八~九一年)、バブル崩壊後のキャンペーン(価格)競争(第三次戦争・九一~九五年)である。

それらの局面を乗りきってきたチェーン店、単独店が、自らのセールスポイント、アイデアを前面に打ち出す策に転じている。地場単独店は小回りの効く順応性を武器に地場ニーズに沿った展開。大手チェーンはスケールメリットを最大限に生かした展開だ。

前者は、複合店化による利便性のアピールや、手づくり志向のプレミアム戦略。後者は、資本力にものをいわせたTVCMやラジオCM、大量ポスティング、商品開発の多頻度化。

双方とも、かつてないオリジナリティーにあふれている。これを五度目の局面とすれば、個性化を研ぎすます競争期(第五次戦争・九五年~)に突入している。

「ピアーザ」の事例は、大手チェーンの勢力拡大に困惑する単独店にとって、大きな参考材料になるだろう。

◆大藤慎一(おおとう・しんいち)=昭和41年、広島県三原市生まれ、三二歳。

上京し「ピザステーション」草創期のスタッフとして活躍。帰郷後にコンパクト宅配ピザチェーン「ピアーザ」を起業する。趣味はコーヒーと時計集め。自ら焙煎するほどのコーヒー通で、最近は大藤さんオリジナルのコーヒーを近隣のホテルや飲食店に卸売している。また、大の酒好きでウイスキーならボトル一本は軽いとか。

◆(有)クワトロポルテ/所在地=広島県福山市御幸町上岩城五〇四-一、電話0849・55・2066/ストアブランド=ピアーザ/代表者=大藤慎一/店舗数=一〇店舗(直営四・FC六)/創業=平成元年/社員数=五人/資本金=三〇〇万円/決算期=3月/年商=二億一〇〇〇万円/創業店=福山店/モデル店=駅塚・神辺店/店舗平均月商=二五〇万円/基準店舗フォーマット=店舗坪一〇坪・バイク三台・商圏一~三㎞・八〇〇〇世帯以上/店舗開店投資=二五〇万円/客単価=一六〇〇円/M(二五㎝)L(三六㎝)

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