焼き肉最新動向 ヒットメニュー開発講座 焼肉店、粗利は率よりも高で
焼き肉店の最大主力商品は、ロースとカルビの二品。この二品の魅力を徹底的に高め、ヒットメニューに育てることができれば、店は確実に繁盛する。しかし、焼き肉は素材の良しあしがダイレクトに評価に直結するため、ある程度の原価水準以上の肉でなければお客の満足は得られない。
安い肉を低価格で売るのではなく、良い肉を相対的に安い価格で売ることがポイントだ。そのために、この二品についてはその価格と粗利構成の考え方を替える必要がある。それは、粗利の「率」ではなく、「高」を基準にした価格設定をすることだ。
たとえば、カルビ肉を八五〇円で原価率四〇%、粗利益高五一〇円で売っているとする。もし、一皿の商品について五一〇円の粗利益高があればよいのだとすれば、上カルビを一二〇〇円とし、その粗利益はカルビと同じ五一〇円でよいと考えれば、原価は六九〇円かけられる。
これでは原価率は五七・五%にもなってしまうが、この商品を注文したお客はそのお値打ち感に大満足するはずだ。これだけの原価をかければ、肉の品質も上ランクのものが使えるし、量目も増やせる。それで初めて強烈なインパクトと価値観をお客に与えることができるし、お客にとっては、注文しなければ「損」をするとさえ思わせることができるのだ。
これは「薄利多売」とは全く違う。ノーマルな粗利の「高」を稼ぎつつ、お客には「薄利」を実感させるシステムなのだ。ただ、すべてこのような構成にする必要はないし、得策でもない。他の商品では粗利益率の高い商品も売るべきだし、それでもヒットメニューをつくることはできる。
とかく焼き肉店の料理は「辛い」「ニンニク臭い」「クセがある」といった評価を受けがちだが、これを気にして辛さを抑えたり、クセをなくす方向にいったのではヒットメニューは生まれない。
焼き肉店に来店する客はある種の「覚悟」のようなものを持っているのだから、むしろ「辛すぎる」「クセが強すぎる」といった普通でない料理の方がヒットする可能性を持っている。
もちろん、強烈な個性の商品はそれだけ話題にもなりやすく、口コミで人気が高まっていくことも期待できる。
クセもなくおとなしい、いわゆる万人向きの商品では話題にもなりえないが、ポピュラーメニューに自店独自のアレンジを加え、そのクセの強さゆえに病みつきになるというケースも考えられる。
人気の「タン塩」に調味したネギをたっぷりとのせたネギタンや塩焼きネギカルビにするといった工夫をし、もみだれに生ニンニクを多めに効かせた「ガーリックカルビ」など、あえてクセを強くすることによって、それでなければ満足しないというファンを増やしていくことでヒットメニューが育つのだ。
別な方向として、焼き肉以外のメニューでヒットメニューを作る考え方もある。食のライフスタイルが健康志向という方向に大きくふれている現在、焼き肉店においてもお客の求めるものに変化がでている。焼き肉をより健康的に食べたいという意識が広まりつつあるのだ。
そこで狙い目となるのが「野菜」の料理。ただ、昔ながらの焼き野菜では意味がないし、売れもしない。いまの焼き肉店で売るべきは「サラダ」メニューだ。
韓国料理にはサンチュで肉を包んで食べるというスタイルがあるが、これは容易に定着しない。日本人の食スタイルとしては、野菜はサラダとして食べる方が性に合うのだ。サラダならば、メーンの焼き肉商品とは全く競合しない、プラスオンされる売上げとしても期待できる。
焼き肉店だからといって、サラダも韓国風、朝鮮風にしようと考える必要はない。アクセント的な具材として、そのような食材を組み合わせるのはよいが、基本は葉物を中心にしたサラダだ。洋風のシーザースサラダだが、クルトンの代わりに松の実にするとか、ドレッシングにコチュジャンを混ぜるといったアレンジでよい。
サイド商品としては、このほかに飯物や麺類もあるが、この分野で狙いたいのはハーフサイズとセット売り。食事メニューは、ポーションを替えることで意外なヒット商品になることも多いのだ。
■筆者紹介■ 押野見喜八郎(おしのみ・きはちろう)FSプランニング代表。外食企業・食品会社の経営、商品開発コンサルタントとして活躍中。専門である商品政策やメニュー指導では第一人者としての定評がある。「ヒットメニュー全科」(商業界)、「喫茶店経営改善ハンドブック」(柴田書店)など著書多数。業界誌でも健筆をふるう。