名古屋版:フランス料理「インペリアルウイング八事迎賓館」の取り組みを聞く

1998.08.17 158号 12面

イタリアンがピッツェリア、トラットリア、リストランテ、オステリア、ビッレリアにパスタ専門店……と、多岐化しながら定着している中、一歩先を譲ってはいるがフレンチも負けじと独自の工夫を試み新しい展開を模索している。今回は、結婚式場「インペリアルウイング八事迎賓館」のグランシェフであり名古屋フランス料理研究会会長でもある村瀬勝己さんと、「クック・タイゾウ」オーナーシェフの三輪泰造さんに、それぞれの取り組み方とこれからどうすればもっと日本人に愛されるフレンチを提供できるかについて話を聞いた。

フランス料理研究会の会長でもある村瀬グランシェフ。まず一番気になるところ、フランス料理隆盛時代を日本に再来させるにはどうしたらいいか尋ねた。

「本来フレンチレストランで食事をするってことは非日常的な時間です。だから普通の人は、そう頻繁には行きませんよね。最近感じるのは、世の中健康ブームだからといってカロリー計算するフレンチ企画を行ったり、むやみに和食材に飛びついたりと、受けを狙う傾向にあるが、毎日通う食堂じゃないんだし、非日常なりの意識をもってお客さんのニーズに応えることが必要じゃないですか」

ただカタチだけ時代の波を先取りしても根本的な解決にはならない、と憂れいている。もちろん、流行には敏感であることはいうまでもないが‐‐。

「イタリアンが強いのはパスタやピッツアをスタンダードにしたこと。家庭でできるフレンチメニュー開発が課題かもしれない」と話す。フレンチ惣菜メニューがヒットすれば人気の復活も望めるというわけだ。

日本料理は季節を意識しながら原型をそのまま出すのに比べて、フレンチは原型をいったん崩して構築する料理。

「変わった食材、おもしろい食材を使えばいいという発想ではなく、料理人としてその食材をどう生かすのか考えることが先。一概に新しい流れに飛びのればいいというもんでもない」

東京・六本木のフレンチ激戦地には、名のあるレストランでも決してあぐらをかかず、材料にこだわり自然発酵させた手作りパンを提供するなど、常に地道な労を惜しまないといった店がいくらでもあるそうだ。

また、スキのない料理のイメージから、コース料理の中には遊び心も取り入れる気持ちも必要、と提案する。フレンチも、たまには変化球や豪速球を入れる冒険心があってもいいのだろう。

インペリアルウイング八事迎賓館には、フレンチレストラン「ル・シェル」が併設されているが、結婚式場の付帯設備としてこれだけ完成度の高いレストランはあまり例がない。

まず、結婚式場にあることが最高の条件。トリュフやフォアグラにしてもフレッシュなものを使用できるし、「料理人にも結婚を考えているお客さんにとってもいい勉強の場にしてもらいたい」との考えから、既製品はいっさい使わずデザートやケーキは手作りで常に一〇種類ほど用意、ワゴンサービスしている。

また客のサイドテーブルで料理人が実際に魚や肉をおろすなど実演を行う。

ランチは二〇〇〇円、三五〇〇円コースがあり、ディナーは五〇〇〇円から。さらに二人の記念日メニューとして一万五〇〇〇円コースから用意。ポラロイド写真を撮るなどのサービスも忘れない。

「ル・シェルは結婚式場の広告塔とも考えているので、原価率は高くお値打ちです」

そのためか、ランチ時は主婦でいっぱい。料理もお値打ちなうえ、最近リニューアルを行い店内の雰囲気は演出効果も満点だ。

「日本人もちょっとおしゃれをして食事を楽しむことに慣れてきた。ギャルソンのサポートも演出のひとつの要素」と指摘する。

いずれにしろ、料理はおいしいことが前提。小手先のフレンチではすぐ飽きられる。クラシックを踏まえて新しさへのチャレンジが求められる。「ごまかしのない新しいフレンチを‐」と村瀬さんはこれからを担う若い料理人に期待をこめる。

◆ 村瀬勝己(むらせ・かつみ)さん=東京・港区のフレンチレストラン「クレッセント」で修業。その後名古屋に戻り「シェ・コーベ」を超人気店にした。現在「インペリアルウイング八事迎賓館」(名古屋市天白区八事石坂四〇一‐一、Tel052・834・6588)のグランシェフ、五七歳。

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