これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(14)店長残酷勤務

1998.08.17 158号 14面

和歌山青酸入りカレー事件と同じ日、その派手な夕刊記事(読売新聞首都圏版)片隅に、非常に興味ある事件が報じられていた。記事は別掲の通り、たったそれだけである。その面のほとんどが、青酸入りカレー事件であるのでこの記事がどれほどのものかお分かりであろう。この記事の中に潜んでいる問題点を挙げるとすれば、それは「閉店後一人で残りレジのカウンター内で仮眠していた大島店長」という部分に集約される。

何故一人でレジ締め切り作業をしていたのか、何故そこで仮眠していたのか、何故家に帰らなかったのか、ということである。

この記事が雄弁に物語っていることは、従業員がいないために起こる過剰勤務が、問題を引き起こすということである。

店長が何故レジの横で仮眠していたのか。従業員の人手が足りなくて、次の朝の勤務シフトに人がいないからである。深夜2時まで営業し、レジを締めたり、伝票類を整理したり、日報をつけたりしていたら、深夜遅くなってしまう。まして、いったん帰って仮眠すればそのまま寝入って起きてこられない。次の朝は人がいない。だからこのまま泊り込めば、翌朝のモーニングとランチ・タイムは自分が中心で店を運営できる。

店長は、少ない従業員で店を切り盛りしなければならない。正社員は二~三人。それも新卒の青年たち。彼らは、コック見習いやウエーターで、完全週休二日制である。だから休ませなければならない。

しかしお店は、年中無休一六時間営業である。店長に全責任がかかっている。しかし四六時中お店に店長がいては、本部やスーパーバイザーや地区長から「頼りになるパート・アルバイトを育てられない、要領の悪い駄目店長」の烙印が押される。

だから、いったんタイムカードは押しているがお店で勤務するという、目茶苦茶に自己犠牲的なことがまかり通る。それが、お店で起こっている真実なのである。

以上の説明でお分かりのごとく、大島店長はそのまま次の日の勤務に就こうとしたのである。だから、だれもいない深夜のお店で仮眠していたのだ。彼には家族はいないのか……。家に帰れないという話は、マクドナルドのマネジャーからも聞いた。しかし、マックはその分業界一高い給与で補っている。

すかいらーくは、外食産業の中で普通の賃金体系である。最近は経費削減で、深夜の法定残業以外はほとんどつかない。では、そんな事情があるのなら何故店長室や従業員控え室で仮眠しないのか。それは、店長室や従業員控え室がゆっくり休めるような造りになっていないからである。

当然本部はこうした「仮眠勤務」は認めていない。だから宿泊施設のような造りになどするわけがない。ゆっくり休めるのは長椅子方式のウエーティングシートしかないのである。

それもこれも従業員がいないがために起こることなのだろうか。いや従業員は、新聞折り込みのパート・アルバイトの募集広告で結構集まるのである。失業率も最悪の四・五%である。ただ、パート・アルバイトを勤務シフトに何でもかんでも入れることができない。

すかいらーくのような先端企業は、POSシステムのレジとコンピューターで人件費やパート・アルバイト管理が徹底され、その日の総労働時間数で生産性が算出されてしまう。

生産性とは、人時(にんじ)売上高と人時生産性である。文字通り、一人一時間当たりの売上高であり、粗利益高である。目標指標としては、人時売上高が七〇〇〇円以上、人時生産性が五〇〇〇円以上といわれているが、これは勤務してみると非常にハードな労働であることが分かる。しかし、チェーンにとってはその数値が予算であり、徹底して守り抜くことが企業利益を確保することにつながるため、本部は目標数値にこだわり、店長にハッパをかけ続ける。だから余分な労働時間は、店長といえども一時間も自由にならない仕組みだ。

「人がいない=だから店長が犠牲になり、お泊まりする」というストーリーが出来上がる。このようなことが、大島店長のような「泊まり込み組」を生む背景になっているのである。

何とつらい勤務状態だろうか。これでは、どんどん社員が辞めるのも無理はない。過剰労働で疲れ果て、夢のない職場にだれがいつまでいるだろうか。

長時間労働、低賃金、それは生業的な遅れた仕事=飲食業の特徴だったはず。それを、近代的な産業へと脱皮させようとしたのが、すかいらーくのようなファミリーレストランチェーンではなかったのか。これでは元の木阿弥ではないか。

この小さな新聞記事にはさまざまなことが隠されていた。しかし真相はやぶの中に葬り去られるだろう。すかいらーく本部は「そんなことはありえない。たまたま偶然が重なっただけ」と弁解するだろう。

第二第三の大島店長が凶刃の犠牲にならないと、だれが断言できるだろうか。早急な改善をお願いしたいものである。

*青酸カレーで犠牲になった人たちのめい福を心からお祈り申し上げます。

(仮面ライター)

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