うまいぞ!地の野菜(8)新潟県現地ルポおもしろ野菜発見「黒十全なす」
苦労して10年
「この地では昔から丸ナス、長ナスなどいろいろな種類のナスが栽培されており、夏になると煮たり焼いたり漬け物にと毎日がナスづくしです。こうした土地柄か地元では好評の『十全なす』なんですが、今後は東京でも売っていきたいですね」と意欲満々の小泉富雄さん(49)。話しながらも、傍らにある採りたての黒紫に輝くナスの山から選別に忙しい。
一〇年前、地域の産物を作ろうと模索中、昔からある巾着型のナスに引かれ、「三条十全」の栽培地から地種を取り寄せ、仲間五人で栽培を試みた。
土壌の違いからか思うように収量は上がらず、形もバラツキ、きれいな巾着型にならない。
再度種屋さんと相談し、思い描いているナスに挑戦、現在の「黒十全(くろじゅうぜん)なす」を誕生させた。
インド東部が原産といわれるナスは、中国から渡来、奈良時代ごろから栽培されていたようだ。現在、長ナス、丸ナス、卵形などさまざまな品種が栽培されているが、全国的に栽培されているのが長卵型。特異な巾着型の原種は泉州水ナスといわれ、新潟の十全なすが原種にもっとも近いとされている。
浅漬けが最高
巾着型のユニークな黒十全なすは、地元では漬け物として知られている。みょうばんと塩、水、それに重石だけで漬ける。
「身がしまっているので日持ちはするけど、うちでは毎日、朝と夜に漬け、浅漬けで食べています」
このほか煮しめにしたり、酒の肴に蒸かしてショウガ醤油で食べるのが昔からの食べ方。
三年前、地元の産物を知ってもらおうと東京へキャンペーンに出掛けたことがある。
「新潟県人からは懐かしい味として好評を得たが、東京の人には反応は今一つ。生で出したのが良くなかったんでしょうか。漬け物加工品として出したほうが受けたかもしれませんね」
最近は浅漬けがサラダ感覚で食べられるようになったのか、コンビニなどからの引き合いがあるという。
心強い後押し
「自分で作るより買って食べたほうがいいね」と笑う奥さんの秀子さん。出荷に追われる毎日にフッともらした本音。
出荷は一日二回。漬物用は毎朝11時まで、生食用は夕方5時までだ。一日の総出荷量一ケース五キログラム入りで一五ケース。
「うちはすべて露地栽培。どうしても収穫時期が集中します。品種は少ないけど、二人でかかり切りになっても収穫と選別・出荷で手いっぱいですね」
黒十全なす部会は一九戸で構成されている。栽培面積約四町、毎日の出荷量は一七〇ケース、八〇〇キログラム。ほとんどが新潟中央市場に出荷される。
県中央では「巾着型は他県では根絶状態。深みのある黒紫色、皮の歯切れの良さ、身がしまり軟らかい黒十全なすの味をもっと知ってもらおうと首都圏へ積極攻勢をかける」(窪田稔博園芸流通課主任)と後押しを惜しまない。
■生産者名=JA新潟みずほ曾野木支店なす部会、新潟県新潟市曽川甲三‐一、Tel025・280・6321、FAX025・280・3919、部会長・小泉富雄(新潟市天野一三三五、Tel025・280・6540)
■販売方法=新潟市場出荷、期間限定の宅配も可
■価格=一キログラム約二五〇円