チェーンストアのここに学べ レストラン成功へのQSCと標準化(下)

1998.09.21 162号 4面

従来の飲食店が目指したのは最高のおいしさだった。でもあまりにおいしいという満足感を与えると、しばらく食べなくても良くなるし、それだけの手をかけたり感激させるためにはよほど高価な原材料を使用せざるを得ず、高価な値段となりそんなに来店頻度を多くすることはできないという矛盾があった。

チェーンレストランが目指したQ(品質)とは単に味がよいということではない。毎日食べても飽きない味で、どんな季節でも、いつどこの店舗で食べても安定した料理を出すことだった。ほっぺたが落ちるほどの感動はしてもらわなくても良いが、毎日食べても飽きの来ない味を実現するようにした。つまり、日常食として来店頻度を高めるようにしたのだ。

Qとはクオリティーの頭文字であり、品質管理という。店舗における品質の管理とは定めた料理の基準にあった調理方法で加工することにある。

商品の品質を決定するのは、一定量の食材、調理手順、調味料、調理温度、調理時間、サービス時の温度だ。この品質を定量的に計測し、いつでも同じ味が出るようにしようとしたわけだ。

同じ味が出るように調理を科学的に研究し、合理的な調理システムと調理マニュアルを作成し、それをもとに徹底してトレーニングを行ったので、アルバイトでも安定した味を出すことに成功した。

品質管理という概念を導入し、本部で品質基準を定め、本部指定業者が配送センターを通して配送したり、自社のセントラルキッチンで加工した食材を店舗に配送する。

店舗では搬入時の食材の温度、量、状態をチェックする。飲食チェーンでは各食材がポーションコントロール(一食分ごとに定量の状態になっている)されているので、その重量、サイズ、冷凍冷蔵温度をチェックする。基本的に店舗で味を変更することは許されていないが、基準の味で納入されているかなどの品質を舌で確かめさせる。

食材を調理するのはアルバイトであるから、調理機器の温度と調理時間の管理が重要であり、定期的に店舗の調理機械が正しい状態であるかということを常時チェックし、メンテナンスさせるようにした。このセントラルキッチンの導入と店舗の機械化、マニュアル化によりアルバイトでも安定した調理を可能にしたのだ。

チェーンという概念が日本に入ってくる前は、支店経営が多店舗経営の手法であった。

一つの飲食業でも大衆料理から、居酒屋、喫茶店、高級和食、フランス料理など、異なる業種を経営しているのが普通だった。

この支店経営と、チェーン経営は全く異なる。仮に同じ商品を売っていても、店舗のデザインが異なったり、販売価格が異なったりしていてはチェーン経営ではない。チェーン経営は全く同一のメニューを同一のマネジメントで、日本中、いや世界中に展開できる標準化したものをいう。

経営者の大半は調理出身だから、おいしいものを安く提供できれば、飲食店を成功させることは簡単だ。そして、一号店の成功で次の店舗を考えるだろう。そのとき必要なのは、その店舗を運営する店長と開店資金だけだ。

一号店の成功で資金は十分にあるし、部下の調理人が育っていれば、彼を店長にして二号店を開店するはずだ。そして、経営者は相変わらず一号店を運営しているはずだ。

成り立ての飲食店の経営者はたいがい忙しいから、二号店は管理の楽な近所に出すことが多いだろう。そこで一号店と競合してはいけないので、ややメニューをかえたり、店舗のデザインをかえたり、最悪の場合は店名までかえてしまう。それでも一号店でじっくり教育した従業員は育っているから、二号店でもしっかりとした料理とサービスを実現できれば成功を収めるだろう。

二店も開店すれば地元では名士だ。銀行や不動産屋から三号店の物件情報が山のように来るはず。当然自分の良く知った地元に三号店を開くはず。同じ地元に三号店を開くのだから、今までの店舗と競合しないように全く異なった店舗を考えるはず。今では地元の名士だから、立派な店構えにして、ちょっと高級な料理を出そうとするはずだ。

今までできなかった自分が満足できる店舗をやりたくなる。経営者の満足する店とは、高級なおいしい料理を豪華な店舗で出すことだ。飲食業の経営者には常に高級なフランス料理、中華料理、和食を経営したいという願望がある。

このように、支店経営が落とし穴に陥ってしまう例は多い。当店は高級だからといって、東京、大阪、福岡に一店ずつ分散して出店する場合はもっと危険だ。そんなに距離が離れたら全くのノンコントロールの支店経営となる。

支店経営は人がいればたやすくできる。飲食業経営者は調理出身が多いから、つい調理職人が育成できれば多店舗化できると思いがちだ。しかし、いろいろな形態の店舗を展開した際に調理職人しか育成していないと、売上げや利益率が低下し、打つ手がなくなりやがては淘汰されるというのが支店経営の欠点だった。

チェーン経営は一号店の段階から、チェーン展開を考えた店舗のコンセプトを固めて、しっかりとしたオペレーションを構築する。今、一万軒以上もあるマクドナルドも、KFCも、数店舗を開店してから、もう一度コンセプトを練り直した。そして店舗の標準化を成し遂げてから再出発し、あのように急速にチェーン展開することに成功したのだ。

チェーン経営は標準化をすべての分野で行う。店名、商品、プライスゾーン、オペレーションまですべて標準化し、すべての店舗でまったく同じ基準で作業できるようにした。

標準化とは、QSCだけではなく店舗の管理体制、会社の意思決定も行わないと、売上げが上がっても利益が出ない。そこで、チェーンはマネジメントの三つのトライアングルと標準化という概念を導入した。

経営管理だといっても難しいことをいってもしようがない、アルバイトから出世した店長やスーパーバイザーでも分かりやすい経営管理の手法を標準化することが、多店舗展開で必要だった。

PLAN(計画)、DO(実行)、SEE(評価)が経営に必要なマネジメントサイクルだ。

店舗を出す前に、売上げ予測に基づき総投資額を決定し出店する。もし売上げが十分でなければその理由を分析検討する。まだ知名度が少ないのであれば、チラシを新聞に織り込むか、配布することを検討する。

勘に頼る手法でなく常に合理的な手法で店舗の問題点を分析し、実行し、評価する。このプロセスをしっかり確立することが店舗運営上のいろいろな問題点の解決のために必要だ。

人、物、金の管理手法の標準化だ。QSCのしっかりしたオペレーションで売上げが上がっても、企業としての管理が必要だ。人がいなくては店舗は運営できないし、トレーニングをしないとQSCを保つことはできない。建物がしっかりして、調理機器の状態が良くなくては料理の品質を保つこともできない。

売上げだけ上がっても、経費を管理しないと利益ができないし、資金繰りがうまくいかないと黒字倒産もあり得る。

人の標準化を例にすると、採用方法、何が最も効果的な採用方法か、アルバイトニュースか、新聞折り込みか、新人紹介制度か、媒体別に一人いくらの経費がかかるのか、採用媒体別の定着率はどうなのか、面接の方法はどうするのか、面接チェックリストをどうするのか、トレーニングはどのようにするのか、だれが実施するのか、どのくらい時間をかけるかなど、細かく標準化をしなければならない。標準化をして、文書化したものがマニュアルになるのだ。

短期間でチェーン展開をするためには職人の育成をじっくり待っているわけにはいかない。アルバイトでも難しい調理をできるようにマニュアル化が必要になる。各種マニュアルをきちんと作成したほうが、味、サービス、清潔さをだれでも実現できる。そこで各種のマニュアルを作成した。

マニュアルというと調理マニュアルだと勘違いしやすいが、経営管理を行う店長や複数店の管理を行うスーパーバイザーのためには、人・物・金の管理ができる管理マニュアルが必要なのだ。成功したチェーンは管理職やスタッフまでのきめの細かいマニュアルを持っている。

(1)商品製造、品質管理マニュアル(2)サービスマニュアル(3)店舗開店・閉店マニュアル(4)清掃マニュアル(5)人材採用・教育・評価マニュアル(6)防火・食品衛生・安全対策マニュアル(7)書類管理・利益管理マニュアル(8)販売促進・広告宣伝マニュアル(9)新店舗開店マニュアル(10)管理者・店長マニュアル(11)厨房機器マニュアル(12)機器メンテナンスマニュアル、などだ。

((有)清晃代表取締役・王利彰)

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