わかりやすいHACCP(1)新型の菌が続々登場

1999.01.04 169号 24面

30年も同じやり方でやっていて今まで問題ないのだから、これからも大丈夫なんだという声を聞きますが、本当に大丈夫でしょうか? 従来のインフレ経済がデフレ経済になり、料理の値段を下げなくてはいけない時代が来ているのと同じく、衛生管理の世界でも大きな変化を迎えているのです。

食中毒菌も新型の菌が続々と誕生して、思いがけない新たな事故が発生しています。その一つが、堺市の病原性大腸菌O157による食中毒事件です。しかし、O157だけでなく、実はそのほかの食中毒菌による事故が増加しています。

その数字をみてみましょう。

食中毒自体はここ一〇年ほど減少していましたが、九六年を境に増加に転じました。食中毒の原因菌のトップは、相変わらず海産物を原因とする腸炎ビブリオ菌ですが、九三年はサルモネラ菌がトップになり、それ以来増加をつづけているのが注目されます。

サルモネラは鶏卵や鶏肉に多くみられ、卵を生で食べる習慣のある日本で、食中毒事故が増加しています。以前は卵の殻にサルモネラ菌がついていましたが、サルモネラエンテリテュディスは鶏の卵巣に存在し、卵内部を汚染するようになりました。そのため、従来は常温流通、保管でも問題はありませんでしたが、今後は冷蔵流通、冷蔵保管が必要になってきます。

食鶏を汚染している菌としてサルモネラ菌のほかにカンピロバクターがあり、それによる食中毒も急増しています。

また、従来は食中毒は食中毒菌に起因するものをいいましたが、最近はウイルス性の食中毒も仲間入りしました。冬の間は生ガキは安全な食べ物のはずでしたが、最近は小球形ウイルスに汚染されたカキによる食中毒が増加しています。これも従来の常識を打ち破るものではないでしょうか。

生業店でチェーン企業に対抗できる数少ない業態が回転ずしで、鮮度の高い海産物を安価に提供することで大繁盛が可能なのです。その中でも急成長の**港は、中央線沿線の一号店の大盛況のもとに、二号店を横浜に開き、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。

ところが北海道の野付物産の引き起こした大腸菌O157に汚染されたイクラを提供し、店舗から食中毒患者を出してしまいました。この事件で、急速なチェーン展開をもくろんでいた同店は大きな打撃を受け、ばく進的な勢いはなくなってしまいました。

今後の老齢化の時代や、細菌に対する抵抗力の少ない若い世代の増加により、場合によっては食中毒による倒産という厳しい状態も予測されます。中小飲食店こそ食中毒への万全の対策をおろそかにできないのです。

従来の衛生管理のやり方はばくちと同じで、偶然当たらなかっただけです。そんなやり方では絶対に食中毒を発生させないという保証はできなかったわけです。景気の良い時代は多少の食中毒事故を起こしても何とかなりますが、昨今のように景気の厳しい状況下では、食中毒=倒産の怖さがあるのです。

このシリーズでは、絶対に食中毒を出さない方法を皆さんと学んでいきましょう。

◆米国の食中毒の現状

病原性大腸菌により過去大きな食中毒を出した米国でも消費者の食中毒に対する関心は高まっています。そこで米国の消費者雑誌のコンシューマーレポート九八年3月号(http://consumerreports.org/)で食鶏の細菌汚染の状況を調べました。

米国人はカロリーと、コレステロールなどの懸念から、ビーフから脂肪分の少ないチキンへ消費をシフトしています。鶏の消費量は米国人一人当たり一九八七年の五八ポンドから、一九九七年には七四ポンドに増加しています。その結果チキンの生焼けなどに起因する食中毒が増加しています。CDC(米国中央疾病センター)の報告では八八年に対し九二年では(正確なデータの最新版)三倍の増加です。

米国におけるサルモネラの食中毒患者は年間に七〇万人から四〇〇万人であり、死者は二〇〇〇人を超えるそうです。カンピロバクターは(一九七七年に食中毒菌として認識された)新しい菌でありながら食中毒の一番の原因となっており、七〇〇万人から一一〇〇万人が患者となり、死者は一一〇人から一〇〇〇人となっています。

コンシューマーレポートでは正確さを期するために、全米三六都市、五週間の期間で一〇〇〇羽の鶏を購入しました。その結果、六三%のチキンからカンピロバクター、一六%のチキンからサルモネラ、八%のチキンは両方に汚染されていました。二九%だけが食中毒菌に汚染されていなかったという恐ろしい結果がでました。

日本では同様のデータはないようですが、やはり危険度はかなり高くなっているのではないかと予想されます。食生活の変化が食品衛生管理でも新たな対策を必要とするのです。

((有)清晃・王利彰)

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら