超繁盛店ルポ:バドワイザーカーニバル新橋店
バドガールが差し出す生ビールを男性が幸せそうに受け取るバドワイザーのテレビCMシーン。放映から五年以上たってもいまだに多くの日本男児の脳裏に焼き付く強烈なインパクト。同じビアガーデンをやるのなら、あのバドガールのサービスを導入した方がきっとウケるだろうと、今から二年前の一九九七年5月、名古屋の繁華街の空き地でバドワイザーのテレビCMをそのまま再現したビアガーデンを開業し、名古屋人をあっといわせたのが、名古屋で以前からホテルや結婚式場を経営している(株)セラヴィリゾートだ。
昨今、急激なペースで全国的に店舗展開を図る超繁盛店チェーン・バドワイザーカーニバルのルーツとなったこのイベントの仕掛人で、現在(株)セラヴィリゾートの営業本部長である若杉譲二常務取締役に、当時の状況を改めてうかがった。
「五ヵ月間限定のビアガーデンなので、投資を抑えるために、貨物列車の中古コンテナを四台置いて、そのうちの一台を厨房に、残り三台を客席にし、残ったスペースは雨よけのテントを張ってビアだるとビール箱を並べた程度の簡単な設備で営業しました。他のビアガーデンとの違いは唯一ウエートレスをバドガールにしただけのことだったのですが、これが爆発的に当たりました。期間中、晴れても雨でも二~三時間待ちは当たり前で、何と台風の日でも一時間待ちという大盛況。毎日午後5時から11時のわずか六時間の営業で月坪売上げ七〇万円を記録しました」
こんなにはやるのなら本格的に店を構えようと、ビアガーデンをスタートしてわずか二ヵ月後の7月にはバドワイザーカーニバル名古屋店をオープン。その後、同年11月に浜松、翌九八年3月に静岡、5月に大阪の江坂、7月に京都、11月に東京の新橋、12月に大阪の阿倍野と東海道の拠点を中心に出店を重ね、今年3月わずか二年弱で八号店を横浜の桜木町に出店した。
二年で八店舗という数は、決して驚くべき数字ではない。チェーンストアであれば、年間八店どころか何十店という代わり映えのしないコピー店を出しているところはざらにある。バドワイザーカーニバルのすごさはその内容である。
出店立地は東京、大阪、名古屋といった大都会や、県庁所在地クラスの地方都市に限定されているとはいえ、お世辞にも一等地とはいえない場所ばかり。しかもほとんどが居抜きの物件を簡単に改装した程度で、出店コストは他の同規模の大型居酒屋やレストランなどと比べて半分以下に抑えられている。にもかかわらず新橋店の月商七〇〇〇万円を筆頭に平均月商五〇〇〇万円にものぼる。
ちなみに新橋店は前に居たレベッカというレストランが毎月三〇〇万円もの赤字に苦しんで出て行った跡を、JRからただ同然の保証金と安い条件で出店したので、総投資額はわずか五〇〇〇万円程度で済み、オープンから半年もたたずに投資回収を完了したというから驚異的だ。
「出店立地は、サラリーマンがターゲットなので、オフィス街と繁華街の真ん中くらいの一・五等地で十分です。あまりよくない立地なら〇・五回転ぐらいでも利益が出るように、投資と家賃などの固定費を極力抑えます」
確かにプロの目で店舗の内装や設備を見れば、金をかけていないことはわかる。でもお客さまはそんなことは全く気にせずに、どのテーブルも実に愉快に飲んでいる。バドワイザーブランドの持つカジュアルなイメージや、バドガールの明るくセクシーなキャラクターは、内装の細かいところまでお客さまが気にならないくらい強力なのだ。
実際筆者も同行のスタッフ二人と取材終了後、客として再入店し、この店に来るとほとんどの人が普段より一杯か二杯多く飲んでしまうんだろうなとか言いながら、つい普段より三杯か四杯多く飲んで閉店近くまで盛り上がってしまった。
仲間同士の会話の楽しさに負けない、おかわりの楽しさを教えてくれる、ボディコンの白いコスチュームに身を固めたバドガールの明るいお色気。中年のおじさんにとって、ディズニーランドのミニーちゃんやピューロランドのキティちゃん以上に夢と明日への活力を与えてくれるのがバドワイザーカーニバルのバドガール。
気になるバドガールのコスチュームについて、素朴な疑問を若杉常務にぶつけてみた。
「セクシーなバドコスチュームは、ハワイのお土産屋で六〇ドルで買ってきたバドスーツを日本の風俗業界がはんらんさせたことによる、バドワイザーアメリカ本社のクレームもあり、当初日本総代理店であるバドワイザージャパンも乗り気ではありませんでした。でも、テレビCMと同じバドガールをやれば絶対に売れると、強引にいれました。実際バドスーツの威力は強烈で、バドワイザーカーニバル繁盛の大きな武器になりました。でも、いつまでもテレビCMのままではいけないので、昨年秋にオリジナルのニューコスチュームを作りました。今後もお客さまに飽きられないようにどんどんバージョンアップしていきたいと考えています」
なるほど、よく見ればバドワイザーカーニバルのショップイメージとバドワイザーCMが合体したオリジナルバージョンだ。
次にバドガールの採用基準や条件について伺った。
「新橋店では時間給一五〇〇円でフロムエーとanに募集を掲載したところ、五〇〇人の応募があり、年齢一八~二五歳で身長一六〇センチメートル以上の笑顔のかわいい健康的な人を五〇人採用しました。他店ではリーダー的な役割をしてくれる年収四〇〇万円以上の準社員もおり、これから世間があっと驚く年収一〇〇〇万円以上のバドガールを誕生させたいと思っています。バドガールだけでなく店長にもオペレーションと計数管理を徹底的に教育し、経営者感覚を身につけてもらい、実績により年収が一五〇〇万円~三〇〇万円くらい差があるアメリカ並みの実力主義の評価制度やのれん分けの導入を考えています」
店長の平均年齢は二〇代後半と若く、入社歴が浅くても実力とやる気さえあれば従業員が一〇〇人以上もいる店を任される会社だけにチャンスは多い。アルバイトの有効活用も優れていて、新橋店では総人件費の八七%はアルバイトが占め、人件費率は売上げ対比で二五%と低い。経費をできるだけ変動にするシステムを構築しており、例えば店の人気を支える重要な役割のひとつである生バンドのギャラも入店客数により変動するので、イギリスから来ているアーチストたちはいつも気合が入っている。
気合という意味では一番大変なのは経営者だ。少数精鋭主義が徹底されており、本部は現在一六店舗(バドワイザーカーニバル以外にもホテルや飲食店を八店舗経営)年商五〇億円を社長以下経理の女性三人を合わせてわずか一三人で運営し、三年以内に全国にバドワイザーカーニバルだけで二六店舗、年商一一〇億円を目指している。
グランドオープンの際には、社長が厨房に入って慣れないスタッフを仕切り、若杉常務は空席待ちのお客さまの行列の整備やクレーム処理に当たる。開店して一ヵ月くらいは店に張り付いて、バドガールがお尻を触わられたり、盗撮しようとされたり、やくざがからんだり、未成年が入店しようとするなどのトラブルに対して、毅然とした態度で体を張って店を守る。
阿倍野店では機動隊の出動もあったそうだが、最初にキチンと店の姿勢を示しておけば、問題を起こしそうな人はそれ以降近寄らなくなることを、店長や従業員に身をもって教えるのだという。だからバドワイザーカーニバルのお客さまはテレビCMのように安心して飲食を楽しめるのだ。
「バドワイザーカーニバルのテーマはおじさんが愚痴をいわない店の雰囲気にすること。だからバンドは昭和30年代の良き時代のポピュラーソングだけとし、上着を脱いでくつろいでいただくために空調にも十分に気を使います」
バドガールのことしか気が付かなかった筆者は反省しつつ、若杉常務に今後の営業方針をうかがった。
「何といっても料理の強化です。三〇代、四〇代の男性がメーン客層なのに、今のメニューは二〇代の若い人向きになっているので、今後はこだわりのメニュー開発と腕の良いコックさんの確保に全力を尽くします。バドガールのお色気だけでは店は長続きしません。今までに札幌や六本木に出たバドパブは、客単価も五〇〇〇円以上と高く、料理にも気を使わなかったために、どちらも半年も持たずに無くなったと聞いています」
ここ半年でチーフ自慢の手作りピザやロースターを導入した鉄板焼きも加わり、最新の横浜桜木町店では結婚式に出しても恥ずかしくないレベルの本格的メニューも開始した。何よりオープンから一年たった店でも一日に一〇〇〇杯~二〇〇〇杯も出るバドワイザーは世界で最も売れているビールの品質そのものだ。
若杉常務の飽くなき向上心とバドガールの笑顔がある限り、バドワイザーカーニバルは永遠に不滅だろう。株式上場と海外進出を目標に、今日も新幹線の回数券を片手に全国を駆け回る若杉常務とバドガールの皆さんの今後のご健康と商売繁盛を心より祈念し、夢のパラダイス・バドワイザーカーニバルからの超繁盛店ルポの中締めとしたい。
◆(株)セラヴィリゾート/本部所在地=名古屋市中区上前津一‐四‐一二、Tel052・323・5861/店舗数=一六店舗(直営店だけ)/代表店の坪数・席数=新橋店二二〇坪・四〇〇席/営業時間午後5時~午前0時/客単価=三五〇〇円~三八〇〇円/一日来店客数=六〇〇人~一〇〇〇人/平均月商七〇〇〇万円/客層三〇代、四〇代のサラリーマンがほとんど、女性客は一割程度/原価率二五~三〇%