超繁盛店・アメリカ版:新鮮フード「シカゴのBob Chinn」
マフィアの町のイメージが強いシカゴは、穀物や牛の集散地で栄え、おいしいレストランに恵まれた食い倒れの町だ。
シカゴには米国有数の飛行場であるオヘア空港がダウンタウンから三〇分の距離にある。米国の地図を見てみると五大湖の下に位置し、飛行機で一時間でトロント(カナダ)、ニューヨークという米国でも有数の立地を誇る。この交通の便の良さが穀物や牛肉の集散地となったわけだ。
また、交通の要所であり、五大湖という海運の強みも生かして、近くにはデトロイトなどの車産業などの重工業地帯でもある。そのため、古くから仕事を容易に得ることができるシカゴには世界各国からの移民が多い。
世界最大のハンバーガーチェーンであるマクドナルドの創業者、レイ・クロックはボヘミアからの移民を親に持ち、シカゴで育ったのは有名だ。今でもシカゴ郊外のオークブルックにはマクドナルドの本社がそびえ立っている。そのため、シカゴの町ではステーキはもちろん、ヨーロッパ各国の本格的な民族料理を食べることができる。
最近はヨーロッパだけでなく、東南アジアからの移民も多くなっている。韓国や中国系の移民も多く、本格的な料理を楽しむことができる。シカゴ郊外にあるBob Chinnも中国からの移民の二代目が開いた超繁盛店だ。
移民の人たちは自分たちの得意な民族料理店を開店するのが普通だが、このBobは違った。米国人やその他の移民の人たちも喜ぶ料理を出そうとしたのだ。シカゴでは牛肉を扱うレストランは山ほどあるが、なかなか新鮮なシーフードを出さないことに目を付けた。
シカゴは、海から遠くて牛肉の町というイメージが強いが、よく考えたら巨大なオヘア空港から網の目のように各地に空路を張り巡らせている。アラスカや太平洋、大西洋の新鮮な魚介類を入れることは容易なのだ。米国人はなかなか魚の鮮度を理解しないが、父親が経営していた新鮮な魚を使う中華料理店の経験からBObおじさんは魚の鮮度の見分けは得意だった。
そこで、アラスカの新鮮なキングクラブ(タラバガニ)を空輸し、思いっきり格安に提供しようとした。創業は一九八二年だった。当初一七〇席でスタートして現在では六五〇席という巨大な客席をもっている。年間客数は一〇〇万人を超え、九七年度のレストラン&インスティテュート誌の全米の個店売上高トップ一〇〇位のうちで年商二一ミリオンUSドルで全米四位の売上高を誇る超繁盛店だ。
絶対にここでしか食べられないような新鮮でボリュームのある魚介類の料理だ。アラスカから空輸する生きたタラバガニや、ダンジネスクラブの量と新鮮さは他店では絶対にまねができないのだ。
巨大なテーマパークのような活気のある店舗がポイント。六五〇席の客席と一五〇台以上の駐車場も備える巨大な店舗だ。予約は取らないので平日の夕方5時に訪問したが、すでに二〇人の客が列を作っている。
隣のフレンチは超高級でスーツとネクタイをしていないと入れてくれないが、Bob Chinnは違う。ジーンズにポロシャツでOK。スーツとネクタイではゆでたての巨大なカニに遠慮なく食いつけないからだ。
金曜日の夜などは二時間待ちも当たり前の超繁盛店だ。行列の人が二時間待っても飽きないようにディズニーランドに学んでいろいろな工夫を凝らしている。
まず、建物の外に並び、やっと店内の三〇坪くらいの広いウエーティングスペースに入ると壁には、雑誌やzagatの評価などが所狭しと張ってある。それを読んでいるだけで飽きないし、しばらくすると店内の活況が目に入ってくる。
一ヵ所にいると時間が長く感じるので、店内で三ヵ所ほど移動させる。そして、最後は客席の真ん中で周囲の食欲あふれるテーブルを見ながら並んでいると腹ぺこになるという仕掛けだ。そして、ディズニーがキャラクターであるのと同様にここの創業者Bobおじさんは店に立ち、客ににこにこと話しかける。
ロケーションも重要だ。隣にはLE FRANSAISというシカゴのトップフレンチレストランが店を構えるように、比較的に裕福な米国人の多い地域だ。また、魚が中心だから、米国人だけでなくアジア系の移民が多い方がよいわけだ。この地区は、日本人や中国人、韓国人の移民や駐在員の多く住む地域にも近い。
英語が分からなくても料理を頼むのはそんなに難しくない。広い客席を案内される間に他の客のテーブルを見ておいしそうなものを頼めばよいし、客席の途中には冷蔵ショーケースにその日にとれた新鮮な魚介類が並べてあり、水槽には生きたタラバガニが泳いでいる。
早速生きているタラバガニをゆでてもらったら四ポンド(約一・八キログラム)のもので五二ドル、そして、西海岸のダンジネスクラブ、ブルークラブの爪、そしてクラムチャウダースープ、新鮮なアスパラガスをゆでたもの、野菜炒め(さすが中華料理)、名物のガーリックロール、四人でこれだけ注文しビールを浴びるほど飲んで一人四五ドルだった(税金、チップ込み)。
さて、タラバガニに夢中になってかぶりついて一息ついてウエーターのもっている巨大なステーキに目がいった。さすがシカゴ、シーフードだけでなくおいしいステーキもあるわけだ。
どんな人がそれを食べるのかと注目していたら、なんと隣の七〇歳になろうかという老婦人の前に置くではないか。二ポンド(九〇〇g)はあるポーターハウスだ。まさか全部平らげないだろうと見ていたら、何とぺろっと平らげたではないか。さすがアメリカ人のパワーはものすごいと脱帽。
この店はすべての料理が新鮮で、アメリカのようにばかでかい。でも、こんな超繁盛店にしては威張ることがなく、カジュアルに接してくれる。ばか丁寧ではないが気楽なサービスも人気の一つだろう。
((有)清晃・王利彰)