超繁盛店ルポ・アメリカ版ステーキ屋「PeterLuger」
ニューヨークというと、NOBUのようにトレンディーなレストランが軒を並べているように思われるが、歴史のある古いステーキ屋も健闘している。米国人にとってビーフステーキはいまだにごちそうであり、どこの街にも古い伝統的なおいしいステーキ屋がある。日本人にとってのおいしい日本料理という位置付けだろう。
米国で一番おいしいと銘打つステーキ屋はたくさんあるが、どのステーキ屋も一目置く米国人のあこがれのステーキ屋がニューヨークにある。それがピータールーガーだ。正確に言うとマンハッタンから川を隔てたブルックリンにある。
名前のごとく、ドイツ系のユダヤ人の経営する、一八八七年創業の今年で一一二年にもなる老舗だ(多分米国でも最も古いステーキ屋の一つだろう)。
ピータールーガーに訪問したことのある日本人はそう多くない。ブルックリンの工場や倉庫街の寂れた場所にあり、店の周囲は夜間は外を歩いたら間違いなく強盗に襲われるという怖い場所だからだ。
筆者がホテルでフロントに行き方を尋ねたら、危ないから行かないほうが良いというし、タクシーに行ってくれといったら三台もいやだといわれ、チップをだいぶ弾んでやっと行ってもらったほどだ。
帰りはタクシーがないので店で手配をしてもらったら、ヤンキーお兄さんが運転する白タクという怖い思いをした(筆者はそんな怖い思いをしてもニューヨークに行くと必ず訪問するようにしている、麻薬のように魅力のある店だからだ)。
さて、そんな怖い思いをしてたどり着き、人気のない玄関をくぐるとそこは別天地。どこからきたのだろうかと思うくらい人があふれている。ウエーティングバーは立すいの余地がないくらいいっぱいだ。それもカジュアルな服装の裕福な人たちばかりだ。
この店は予約がないと入れない。最低でも一ヵ月前の予約でないと好きな時間に入れない。筆者は日本から予約を入れてから行くようにしている。
ウエーティングバーの壁面に、ZAGATやその他のグルメ雑誌による表彰状がすき間なく張られている。ウエーティングバーから一歩入ると一〇〇年前にタイムスリップしたかのような古い客席に案内される。
古いドイツのビアホールの雰囲気の漂う、古びた木と白壁の内装だ。テーブルはなんと創業以来のものという古さだ(足はさすがに換えているそうだが)。テーブルクロスなんていうものはない。
さてメニューを見てみよう。普通のステーキ屋であれば、テンダーロイン(ひれ)、ニューヨークカット(サーロイン)、リブアイ、Tボーン、ポーターハウスなどいろいろな部位があるが、ここの料理数はマクドナルドや吉野家もびっくりの単品だ。
ポーターハウスしかない。焼き方も聞かない、聞くのは何人前か、という量だけだ。そのほかに一応、Lamb Chopsや魚も置いてあるが、ほとんどの客がステーキを注文する。
前菜はトマトとオニオンの厚切りにピータルーガーステーキソースをかけて食べる。オニオンの辛みとトマトの酸味が舌を刺激し、次に出てくるステーキのうまみをたっぷり味わうことができるからだ。
さて、前菜を食べ終わるころには人数分のポーターハウスが一皿に大盛りに盛られて出てくる。熱々の皿に盛られたステーキは、焼いたときに出た肉汁をたっぷりかけられている。肉のうまみは肉の中の脂分にあるから、焼いているときに下にたれる脂を受け取り、後で肉にかけるようにしている。そのために焼き方は上火焼きのグリラーだ。
大きなポーターハウスは食べやすいように切れ目を入れてある。肉の表面はからっと焦げ目がつき、中は程よいピンク色。味付けは塩・コショウだけのシンプルさ。ピータールーガー特製のステーキソースでも食べられるが、皿にたまっている肉汁につけて食べるのが流儀だ。
ほかの調味料なんか要らない、肉の持っている味だけで食べさせるうまさだ。肉はUSDAのPRIMEという最高の品質。ウエーターに味の秘けつを聞くと、最高の肉を客席の地下にある熟成庫で五週間ほどじっくりと味が出るまで熟成させる。そのためには客席と同じ大きさの熟成庫を地下に設置しているという。
最高の肉と自分たちで最適の熟成を行うという気の遠くなるような努力をしているのだ。しかも部位は一番おいしさのあふれるポーターハウスに絞り込むというこだわりようだ。このこだわりが一一二年も営業し、長年ZAGATで米国一のステーキ屋というタイトルを守りつづけている秘けつだろう。
付け合わせは伝統のジャーマンポテトとホウレンソウクリーム煮だ。これだけけで腹いっぱいになる。圧巻はデザートだ。お腹がいっぱいになったから、軽く食べられるフレッシュストロベリーを頼んだら、小さなミカンほどもある巨大なイチゴと山盛りの生クリームが出てきたのにはびっくり仰天。大きいだけでなく、米国のイチゴとは思えないほどの甘さだった。
一一二年も営業を継続している理由は、ステーキに対するこだわりだけではない、客席で接客にあたるウエーターのサービスも魅力の一つだ。場所柄、女性従業員は通いにくいのだろう、ほとんどが中年男性のウエーターなので最初は味気ないと思ったが、客にこびないドイツ系の自信たっぷりの接客サービスが小気味が良い。
肉の品質や店の歴史に対する質問にも歯切れ良い答えが返ってくる。そのスピーディーで的確なサービスも人気の一つだろう。
筆者が厨房を見せてくれといったら即座に衛生問題があるので厨房に入れないが、外からのぞくのはかまわないよと見学させてくれた。一〇台ほどの上火焼きブロイラーで焼いている厨房の光景は圧巻だった。
この店でしか食べられないという料理の魅力と、店舗の雰囲気、そして自信を持ったサービスという飲食店繁盛の基本を忠実に守っているのが、競争の激しいニューヨークで一〇〇年以上も繁盛店として生き残る秘けつなのだろう。ニューヨークを訪問したらトレンディーな店ばかり見ないで、多少の危険を冒してもぜひ訪問してみることをおすすめする。
■メニュー■
〈メーンディッシュ〉
ステーキ1人前………………………29.99ドル
2人前………………………59.90ドル
3人前………………………89.55ドル
4人前…………………… 119.60ドル
ステーキサンドイッチ………………18.95ドル
Lamb CHOPS…………………………28.95ドル
その日の魚……………………………18.95ドル
〈前菜〉
ジャンボシュリンプカクテル(4本)12.95ドル
ジャンボシュリンプカクテル(6本)17.95ドル
スライストマト2人前……………… 6.95ドル
スライストマトとオニオン2人前… 8.50ドル
カナディアンベーコン……………… 1.95ドル
ミックスサラダ……………………… 8.50ドル
〈野菜〉(ステーキとともに食べる)
フレンチフライポテト1人前……… 4.25ドル
フレンチフライポテト2人前……… 7.50ドル
ベイクドポテト……………………… 3.50ドル
ジャーマンポテト2人前…………… 8.50ドル
ホウレンソウクリーム煮2人前…… 4.25ドル
〈デザート〉(たっぷりホイップクリーム付き)
アップルパイ
チョコレートムース
季節のフルーツ
アイスクリーム
ホットファッジサンデー
チーズケーキ
フルーツタルト
ピーカンパイ
シャーベット
((有)清晃・王利彰)