シェフと60分 オーシャンディッシュ・「クオン」料理長・中山 昭廣氏
「料理は楽しく食べるべきだから、お仕着せのメニューは提供したくない」。東急ホテルフードシステムが展開するオーシャンデッシュ・「クオン」の料理長・中山さんのモットーである。
同店のメニューはすべてアラカルトで、コースはやっていない。大皿を使って、プレゼンテーションし、取り皿を添える。会食を楽しくする心配りだ。食器にもこだわる。東急ホテルのカラーであるネイビーブルーのテーブルクロスに合わせてコーディネイトしている。ホテルでは通常使っていないユニークなデザインを採用、オーシャンディシュをうまく演出している。
中山さんの料理の基本はフランスに立っているが、“無国籍”と自称する。中華のアイデアをたくみに採用してプレゼンテーションしている。
「私は大皿に盛った料理を取り皿で食べる中華会食が大好き。自分が好きなものはお客さんも喜んでくれるだろう」という。アイデアと人柄が料理に表現されている。
そのアイデアと感性は、ランチメニューにいかんなく発露されている。「福福サンドイッチ」(九〇〇円)、「うなぎの変わりどん」(九八〇円)、「マグロの洋風たたきどん」(八〇〇円)、「バーグランチ」(一〇〇〇円)が特筆もの。「福福サンドイッチ」は、中華のパンにソーセージ、鶏肉、クリームコロッケ、野菜などを添えて、トッピングして食べるというアイデアメニュー。うな丼は一般的には白飯の上にウナギの蒲焼きをのせ、タレをかけたものが相場だが、同店では白飯にタレを混ぜ合わせ、その上に一度蒸してから焼いたウナギをブツ切りにして乗せ、さらに香味野菜をふりかけている。どんぶりはカラフルなものを使っている。中山さんのオリジナリティーだ。
メニュー単価も“良心的”。ディナーメニューはオードブルが九〇〇円から、アラカルトメニューは一四〇〇円からで、平均客単価は四五〇〇円程度だ。「お客さんの大半は自腹を切って食べる人達。だからできるだけ低価格で提供したい。店の雰囲気を良くして高いメニューにするという売り方は好きではない。安くして、しかも味も良い料理にしてお客さんに喜んでもらいたい」というのが基本哲学だ。
昨年10月にオープンしたばかりだが、固定ファンが増えている。料理を食べ終えて料金を支払う時に、意外な顔をするお客さんが多い。思いのほか安いからだ。
「恵まれている」と自分を振り返える。東急ホテルフードシステムに入社後、各地の東急ホテル系レストランで「自由にやらせてもらってきた」からだ。
仙台にいた時は、自ら山菜を採って料理にしたという。そういう経験があるから「東京では手に入らないような天然の山菜や川魚を使ったメニューを作ってみたい」というのが夢だ。
〈プロフィル〉
昭和20年埼玉県出身。39年高校卒業。同年東急ホテルフードシステム入社。その後、白馬、下田、仙台など、各地の東急ホテルに赴任しながら研鑚を積む。フランス料理をベースにした“無国籍料理”の幅を広げている。
文 ・富田 怜次
写真・新田みのる