焼き肉レストラン店舗運営の実状 「十々」(西麻布) 直営出店で多店舗化
焼肉レストランは、飲んで食べてよしの両面作戦の業態で、この飲食ニーズは強い。この定番メニューはもちろん、カルビ、ロース、ミノ、タンなどであるが、しかし、客単価が高くなるのが消費者にとっては厳しい。一般的な店の客単価でも四、五〇〇〇円はする。ポケットマネーで利用する個人客にとっては、やはり負担になる金額であ
る。ランチメニューが一〇〇〇円台であるというのに、定食メニューやアラカルトでもう少し、メニューや価格構成の面で工夫があってもいいという気がする。現実の業界はどうか、十々(西麻布)、太昌園(上野)、板門店(上野)、ソウル(築地)の四店舗に焦点を合わせて、その運営状況を取材してみた。
西麻布の交差点近く。かつては霞町といったが、今は地名が変ってしまっている。この界隈はファッション感覚の店が多く散在するところで、七、八年前にアメリカから上陸してきたアイスクリームショップの「ホブソン」が、日本進出の第一号店を開設した場所でもある。
十々は昭和51年のオープンで、今年で一八年目を迎える。ビルの一階。店舗面積約五〇坪、客席数六八席。店内はオープン後、数回のリニューアルを実施してきており、今はファミリーレストランのような落ち着きのある店構えとなっている。
十々の経営主体は㈱遠山商事(東京・港区西麻布)で、この店を本店格の店として、他に船橋ららぽーと店(船橋市)、馬事公苑店(世田谷区)、赤坂店(港区)、釜山苑店(渋谷区)などの直営店を出店している。
このほか、焼肉レストランではないが、南欧料理の店「ロアラ・ブッシュ」(渋谷区)、アルコール主体の「GAS」(西麻布)、「フーズバー」(同)などを出店しており、独自の飲食ビジネスを展開している。年間売上げ一五億円。これは焼肉分野だけの売上げであるが、業界ではその堅実経営ぶりは知られた存在にある。
十々西麻布店は、入口を入って正面突き当たりに厨房があり、それに向う通路動線が客席を左右に分ける形になっている。客席は四~六人掛けのテーブルが主体になっているが、奥の厨房と隣接する位置にカウンター席(八席)があるほか、その右手後方には座敷席(二〇店)があり、カップルからグループ客まで人数に応じて、多様に利用できる客席構成となっている。
もちろん、各テーブルには焼台が備えられているが、これは無煙ロースターではない。テーブルの真上にダクトがあり、これで立ち昇る煙を吸引するのである。無煙ロースターはたしかに煙を排除するにはすぐれているが、ダクト力が強いため、肉の水分や焼汁まで引っぱってしまうパワーがあり、このために、肉の微妙なうま味をスポイルしてしまうというのである。
ダクトの場合は多少煙が室内に流れることもあるが、しかし、ベストの焼具合で焼くことができるので、それだけおいしく食べれることができるのだという。
「少しでもいい状態の焼具合で食べていただこうということで、ダクト方式の焼台にしているのですが、正直いいまして多少煙は出ます。衣服にニオイが付いてイヤだという人のためには、あらかじめ衣服をロッカーで預かるということもしていますが、焼肉レストランの場合は無煙ロースターであっても、煙もニオイも完全に除去するということにはいきませんので、この点が大変に難しいところです」(サブ店長佐藤銀市氏)。
おいしい焼肉を食べるのに、いちいちニオイや煙を気にしていては、どうにもならないという焼肉ファンも多い。さすがに、昔のように炭火で焼くスタイルで、煙が室内中に立ち込めるというような店はほとんど存在しなくなったが、限りなく煙とニオイを除去するという工夫は、焼肉レストランにとっては大事なポイントといえる。
煙とニオイの完全除去は難しいが、十々は営業前の準備においては、テーブルの焼台はもとより、店内のクレンリネスを毎日実施している。ダクトのフィルターも吸引力を落さないよう定期的に洗浄する。このため、店は常に明るく、清潔な環境が保たれている。
「肉の切り身も厚みがありますし、独自の味付けがしてありますから、ほとんどのお客様がおいしいということで、ご注文されます。もちろん、素材の質のよさもあるんですけど、やはり店の人気商品ということで、お客様もよくご存知のようです」(草野邦雄店長)。
焼肉は素材の鮮度が大事なポイントであるので、肉質の吟味については神経を使うところであるが、これら材料の仕入れについては東京・世田谷のCKで一括しておこなっており、ここから前記の各店へ枝肉の形でデリバリーする。肉は一人前当たり八〇~一〇〇㌘。
材料原価率は平均五五~六〇%、特上もので七〇%と極めて高いものもあるが、収益性の向上についてはトータルコストで考えており、原価率の低いキムチやサラダ、野菜類などでカバーしている。
素材の質の高さで客のハートを掴む努力をしているというのであるが、しかし、焼肉は客単価が高い料理形態であるだけに、最近は不況ムードもあって、一、二割ほど売上げがダウンしているという(遠山商事代表取締役社長遠山光男氏)。
「焼肉は簡単というイメージがあるせいか、実際はそうではないんですが、ここ、二、三年新規参入が相次いできていますし、また、一方においてはメニュー構成において画一的になり過ぎている面もありますから、今後の考え方としては、何か他店にはないこの店独自のオリジナリティをアピールしていきたいと研究中です」(遠山社長)。