厨房の熱エネルギーについて考える・正しいエネルギー選択術

2001.04.02 225号 8面

厨房で消費されるエネルギーは、電気、ガス、スチーム、水であり、特殊な例として木炭や重油がある。本稿ではこのうち利用率の高い電気とガスについてその特徴を解説する。

そこで賢い消費者になるためには「正しいエネルギー選択術」の勉強も当然必要であるが、厨房のエネルギー「争奪戦」は電気vsガスが盛んに議論され、「電気厨房はこんなにすばらしいですよ」とか、「ガス厨房は電気厨房に較べて環境に優しいですよ」などと言われても「本当かな?」と感じるのは私だけであろうか。電気やガスはそれ自体社会的な役割も異なるはずであるが、厨房のエネルギー問題を議論する場合発電所での発電方法、CO2排出量、送電効率、天然ガス輸送コストなどを比較しても現場ではあまり実感がない。厨房内の現実に即した比較検討のほうが分かりやすいのではないだろうか。そこで、こうした大元の議論をあえて外し検討する。(サニテック取締役 本山忠広)

◆エネルギー選択の結論と消費者ポリシー

なぜ電化厨房なの? どうしてガス厨房にしたの? と問われてあなたは明確に説明できますか。ポリシーを持っていますか。電気厨房とガス厨房を比較する場合、概ね以下の項目がその対象となる。

(1)作業環境(2)地球環境(3)エネルギーコスト(4)安全性(5)イニシャルコストなど。厨房のエネルギーを決定する決め手は、消費者自身エネルギーの優先順位をどのように考えるのかが大切となる。つまり、地球環境を優先するならばCO2排出量の少ないエネルギーを選択すればいい。また、イニシャルコストを優先するならガス厨房を選択することになろう。電気やガスエネルギーは本来どちらが優れているかなどと比較することよりも消費者はその優位性をうまく使い分け、メーカーは機器仕様の向上を目指すべきであろう。つまり、賢いエネルギー選択とは利用者にとって使いやすいかどうかであろう。

一方、厨房の環境に影響を与える要素としてエネルギーの違いによる要因は少ないと考えられる。例えば厨房の作業環境はエネルギーによって大きく変化するのではなく、機器自体の断熱性能、輻射熱量、そしてエネルギー効率などが大きく影響する。さらに、料理自体からの輻射熱が影響する。例えば、スープ自体から大量の熱が室内に放出されるし、フライヤーの油脂分や熱は細かい霧状とともに室内に拡散する。

こうした排熱量の多い厨房環境を改善するためには、効率の良い換気システムや厨房のドライ化、空調方式、さらに作業方法の改善など総合的な対応が不可欠である。

日本の厨房環境は先進諸国と較べて劣悪な状況で3Kといわれるゆえんでもある。その原因の多くは以下に集約されている。

(1)断熱性能の悪い機器表面温度の上昇と輻射熱の拡散

(2)効率の悪い換気システムと未熟な法整備(換気量基準、天井高さなど)

(3)不適切な作業手順(常時水濡れ慣習、5Sの不徹底)

(4)GMP(適正製造基準)の未整備

以上のように作業環境を低下させている要素の多くは実はエネルギーの違いではないことを付言しておきたい。

◆作業環境とエネルギー選択

一般に電気厨房機器は廃熱がなく作業環境に優しいといわれている半面、電気を「つくる」のに大量のCO2を排出しているので地球環境にとってよくないとの反論もある。が、現実的に厨房で電気を使用する場合、発電所の事情まで考えないのではないだろうか。

前記のように発電所の問題は少々意味が異なるため、電化厨房は素直に機器からの廃熱はないと考えていい。少なくとも、電気エネルギーによる厨房環境の悪化は少ないといえるであろう。ただし、電気加熱機器でも鋳込みヒーターを利用した大型電気レンジなどは輻射熱が極めて多く、レンジの前に立っているだけでサウナ状態となる。

ガス厨房機器の普及率はたいへん高く、全体の約六〇~七〇%を占めている(電気厨房機器約二〇~三〇%、蒸気機器約一〇%)。半面ガス機器の熱効率は一般に三五%程度とされ、経済的損失が大きく室内温度を上昇させ環境を悪化させる最大の要因となっている。

こうした点、ヨーロッパのガス厨房機器は法的に別添資料のようにその仕様が規制されている。ただし、日本では熱効率を評価する場合、総発熱量(真発熱量+潜熱)で表すのに対し、欧州では真発熱量を採用するため、一〇%程度日本の方が低い値となる。

いずれにしても、ガス厨房機器の熱効率の改善は作業環境の向上にとって不可欠である。

ところで、欧州のガス厨房機器と日本のものは明確な違いがあることをご存知であろうか。

例えば、ガスコンロの一バーナーあたりの発熱量(kcal)が日本の場合ほとんど一万kcal以上であるのに対し、ヨーロッパの製品はおよそ四〇〇〇~八〇〇〇kcalである。同じメニュー、同じ素材、同じ調理法で調理師はなぜこうした高カロリー(強火力)を要求するのであろうか。

ヨーロッパで修業をした調理師も多いが、同じように高カロリーを要求するのであろうか。高カロリーのガス機器多用は熱効率を改善しなければ、作業環境を悪化させることは明白である。

厨房の温熱環境に影響する要素は発生熱量及び水分(湿気)であるが、排気によって十分捕捉されない場合、それらは室内に拡散し環境を悪化させることになる。厨房では供給熱量が増加すれば排出熱も増加する。が、電化厨房では供給熱量が増加してもその大部分は排気によって外部へ排出されるためガスに比べやや排気量は少なくてすむ。

ただし、電気厨房の場合、ガス厨房に比べて熱機器周辺の上昇気流速が低いため、排気フードに熱気や水蒸気が到達する間に室内に拡散する場合がある。

一方、ガス厨房は、供給熱量の増加によって、機器周辺に上昇気流が発生し排気フード内に廃熱がスムースに到達しやすいが、排気ダクトの能力より上昇気流による熱や水蒸気量が多くなるため、排気フード下面から容量オーバー分の熱気や水蒸気が室内に拡散することになる。

したがって、ガス厨房の場合、排気量を多くする必要があるとともに、排気フード以外に室内天井面に換気孔を設置することが不可欠であろう。

このようにエネルギー別排気の対応はやや異なるが、もっとも大切なことは、電気、ガスを問わず十分な換気量(最低室内換気回数四五回転/時以上)を確保することである。特に天井面の換気孔は忘れやすい点留意が必要である。

◆エネルギー選択と経済性

国内のエネルギー価格は輸入コストや為替変動に左右される条件はあるものの先進国中最も割高ではないだろうか。

厨房内で消費される水光熱費の平均は、売上高のおよそ五~八%であるが、現場ではこうしたコスト意識が必ずしも高いとは言いがたい。水の垂れ流し、ガスのつけっぱなし、電気の入れっぱなしなど、無駄が多い。

さらに設備的には省エネ効果の低い照明器具の設置、効率の低い空調設備、清掃のしにくい施設構造、熱効率の低い厨房機器など限りがない。エネルギーコストの比較を否定はしないが、まずはこうした無駄をいかに抑制するか設備、運用両面の対策を検討し実行することこそ「まずできること」でその経済効果は大きい。

ところで、国内のエネルギーコストの算定はその料金体系が複雑で、使用量や契約形態などによって異なるため、一様に比較することはできない。が、業務用エネルギー消費量の試算を厨房機器のみのエネルギーで試算をすると以下のように推定される。仮に鍋の水一〇リットル、一五度Cを九〇度Cまで沸かすのに、電気とガスの理論的コストの相違を考えてみる。

(1)加熱時の熱損失を〇と仮定すると必要熱量は七五〇kとなる。

(2)電気厨房(熱効率八〇%仮定)では必要エネルギー量は750kcal 0.8=937.5kcalとなる。

(3)ガス厨房(熱効率三五%、一万一〇〇〇k/仮定)では必要エネルギー量は750kcal 0.35=2,143kcalとなる。

(4)消費エネルギー差 2,143kcal-937.5kcal=1,205.5kcal

ただし、上記試算値に契約形態による基本料金や従量料金及び割引料金等を掛けた結果がエネルギーコストとなる。ただし、こうして算出したコストには、換気空調コストなどの間接的コストは考慮していない。また、厨房機器の熱効率は機器の種類によって異なるため、上記三五%、八〇%はあくまで参考値である。

◆料理の品質と熱エネルギーの関係

加熱料理の品質に影響する要素は、素材の品質、調理方法(熱の伝達方法)、温度、時間であり、ここではオーブンの熱エネルギーに絞って解説する。

食品は加熱する前その食品の周囲に冷えた薄い空気層があり、食品と熱気の熱伝達を阻害している。したがって、この空気層をうまくコントロールできれば良質なオーブン調理が可能である。

(1)コンベクションオーブン(対流式熱気加熱)と赤外線式オーブンでは伝導熱量に差はないが、対流と放射によって伝わる熱量に大きな差が生じる。熱気オーブンでは対流式による熱伝達が多く、赤外線放射熱は少ない。赤外線オーブンはこの逆である。

熱気オーブンでは食品にあたる熱気の量が多いほど大量の熱が伝わる。つまり、強制対流オーブンは熱伝達が早いが、半面食品表面の水分を奪うため、素材の収縮は大きい。

(2)赤外線オーブンは空気の移動による熱伝達ではないため、空気を熱する必要はない。さらに、空気は赤外線を通すため食品表面の冷気幕は加熱にとって傷害とならない。したがって、赤外線調理はコンベクションオーブンより素材表面の水分蒸発は少なく、歩留まりはいい。

(3)オーブン機能で重要な点は庫内温度のばらつきが少ないことである。タイマー作動などで熱源供給をストップした時、庫内の温度変化はガスの場合熱が庫内に貯まらないため、温度変化は少ない。

一方、電気式オーブンでは熱源停止後ヒーター内部に畜熱があるため、庫内温度は一時的に上昇し、温度のばらつきはガスに比べてやや大きいと考えられる。近年のスチームコンベクションオーブンはこうした利点と欠点を補完する機能を有し優れた機種が多い。

(4)電気式オーブンを選択する場合、ヒーターの仕様が赤外線を多く放射する機種で、それを選択することが、品質の高い料理を提供することになる。一方、ガスオーブンは同じく赤外線を庫内にうまく取り込めるような構造の機種を選択することが好ましい。

(5)フライ調理の品質

おいしい揚げ物に出合う機会が少ないと嘆く諸氏も多いのではないだろうか。良質な揚げ物を完成させるためには調理に影響する要素が多く、高度な技術も必要である。その要素とは以下の通り。

(1)油の品質(2)油の温度(3)投入素材の分量(4)食品の大きさ(5)食材の鮮度(6)油温の復帰時間、などである。このうちエネルギーとの関係は油の復帰温度と油温ではないだろうか。

一八〇度Cの油中に食品を投入すると油温は一時的に一六〇度C前後まで降下しその後復帰する。その復帰時間が短ければ「カラッとした」揚げ物ができる。したがって温度復帰の早いフライヤーとそれに適したエネルギー源を選択することがポイントである。

以上のように料理の品質はエネルギーの選択とともに調理理論にかなった機器を使い分けることが極めて重要である。

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