新店ウォッチング:「MATSUYA」池袋東口店
牛丼チェーンの大手「松屋フーズ」は去る5月、ドリンクメニューやテークアウトにも対応したフルタイム稼働型の新業態「MATSUYA」を開発、東京・池袋に出店した。
池袋駅東口の繁華街の一角に出店した「MATSUYA」は、洋風のファストフード(FFS)を意識した新業態店であり、これまでの「和風FFS」店舗のイメージを一新する、画期的な店舗となっている。
出店立地周辺は、並びにマクドナルドやユニクロなどの著名店が林立する、池袋周辺でも超一等地としてにぎわう一角であるが、小規模ビルを三層にわたって活用した店舗は、一階にキッチンと販売カウンター、二階がイートイン客席、三階にオフィスと男女別のトイレを配置した効率的な構成となっている。
一階の販売カウンターは、白を基調にパステル系の色使いを加えた洋風FFS感覚の内装であり、若い女性などが気軽に入店できる明るい雰囲気だ。二階の客席は決して広いとはいえないが、道路面がサンルーム風のガラス張りになった建物の特性を生かし、近年流行の低価格コーヒー店などに近い雰囲気で、「丼物」の和食FFS店舗というイメージは極力排除されている。
実際にこの店を利用している客も、男女のカップルや女性の独り客などが圧倒的に多く、牛丼店のイメージが定着している「松屋」業態とは、明らかに一線を画した客層である。三階には、ゆったりとスペースが取られた男女別トイレが設置されているが、都心型のFFS店舗にありがちな「身体をひねりながら出入りする」ようなトイレとは違って、女性客などにも余裕の空間が喜ばれることだろう。
商品構成は、「ビーフ&ライス」「カレー&ライス」「マーボ&ライス」という松屋の主力商品をベースに、それぞれSサイズとLサイズの二種類の商品を品ぞろえしており、これに、カレーなどにトッピングできるチキンカツ、サラダといったサイドオーダーを組み合わせることができる。
また、ドリンクセットやスープセットといったセット商品が豊富に取りそろえられ、メニューのバリエーションを広げている。
たとえば、セット商品である「ビーフ&ライス(S)ドリンクセット」では、Sサイズの牛丼とドリンク、そして、あの松屋の特製ドレッシング付きのサラダがセットになって五八〇円というリーズナブルな価格設定だ。
これらの商品は、すべてテークアウトにも対応しており、店内でもテークアウトでも、同じボックス型の紙製パッケージで提供されている。
さらに特筆すべきは、ドリンクメニューやデザートの充実である。通常のFFSに見られるような定番ドリンクのほかにも、カフェ・ラ・テやカプチーノ(各一八〇円)といったバリエーション・コーヒーやスープ、さらにソフトクリームなどのドルチェ商品も付け加えられており、一部の商品は、洋風FFS店の価格帯よりも低い価格設定になっている。
松屋フーズでは、この「MATSUYA」業態の特性を生かして、将来的には商業施設のフードコートへの出店なども視野に入れた展開を図っていくということであり、将来が楽しみな新業態として業界でも話題となっている。
◇店舗データ
◆「MATSUYA」(松屋フーズ、東京都豊島区南池袋一‐二七‐九)開業=二〇〇一年5月3日、営業時間=二四時間営業、年中無休
◆取材者の視点
ひさびさに、驚きの新業態が開発された。あくまで筆者の個人的な感想だが、この新業態は、かなり大きな将来性を秘めているのではないか。
確かに、一号店であるこの店は、まだまだ実験的な部分が随所に見受けられて、店舗としての完成度は完璧とは言えないかも知れない。
例えば、何回か利用すると‐
「照明には、なぜハロゲン電球があんなにたくさん使われているのか?」
「什器や家具の木目シート張りは、壁面などに使われているパステル系のカラーリングとは不釣合にチープではないか?」
「一部の席が食事のとりにくいハイチェア仕様になっているのはなぜなのか?」
といった疑問点は生まれてくる。
しかし、そういったさ細な問題などを吹き飛ばすくらいに、この業態には十分な可能性を感じる。
その理由のひとつは、商業施設のフードコートに対応できる業態であるという点だ。
多くの商業施設では、常に新しい話題を提供できるテナントを求めているが、商業施設のフードコートに幅広く対応可能な画期的な新業態が開発されることはまれである。
おそらく、この業態のフードコート対応型店舗が開発されれば、各デベロッパーの担当者は、こぞって誘致を検討することになるだろう。
商品のバラエティーやクオリティーのレベル、価格帯、提供や販売のスタイルなど、営業時間のようないくつかの問題をクリアすることさえできれば、現状の多くの商業施設が望んでいるフードコート向けテナントの理想に近いかたちの店舗となりうる存在と思われる。今後の展開に注目したい。
◆筆者紹介◆ 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。