特集・見直そうイモのパワー:食べようサツマイモ、すばらしい栄養価

2001.11.05 239号 14面

日本に伝来して以来、庶民の身近な作物として親しまれてきたのがイモ類。特にサツマイモやジャガイモは、救荒作物として多くの民を救ってきた歴史がある。そのためか、光り輝く表舞台に立つことなく、裏舞台を支える力強い存在であった。このたくましさは、豊富に含まれる栄養分と高い機能性によるところ大。近年の健康志向を背景に、今改めてイモ類のパワーを再認識し、その素晴らしい魅力を最大限に生かしたいものだ。かつて救荒作物として味覚より大量生産優先で栽培されてきたきらいがある。しかし現在は、消費者ニーズに合わせ青果用、加工用など用途に応じて開発された新品種が続々登場している。サツマイモ&ジャガイモを21世紀の新しい健康食材として位置づけ、その素晴らしい底力を享受しよう。

飢きんの救荒作物として多くの民を救ったサツマイモは、カルシウムの含有量多く、皮には肉質の約五倍もある。また黄肉種には一〇〇g中にカロチンが五〇μgも含まれており、実効的には緑黄色野菜に匹敵するほど。サツマイモを切ると白い汁が出るが、これはヤラピンといい、微生物の生育抑制や緩下作用による便秘防止にもなる。この他アントシアニン色素をもつ紫イモは体内で老化や発ガンなどを引き起こす脂質過酸化反応やラジカル発生反応を抑制する機能があるとされる。救荒作物のイメージを払拭し、栄養豊富な体にやさしいサツマイモに注目したい。

◆「紫イモゆばフーゴ」が大人気

若い女性の健康ドリンクとして大ブレークしているのが「紫イモゆばフーゴ」。豆乳より栄養豊富でまろやかな味わいのユバ乳と沖縄産冷凍紫イモを合わせ、メープルシュガーで甘味調整したものだ。

(販売先=「サラフーゴ」電話03・5405・1339)

◆現地ルポ JAかとり

関東のサツマイモの雄、ベニアズマの一大産地として知られる千葉県・JAかとり。作付け面積は六五〇~七〇〇ヘクタールを誇る。

そのJAかとりが新種のサツマイモとして着眼したのが「千葉ベニ」。

もともと地元では千葉ベニを栽培していたが、昭和62年ごろから「どこでも、だれでも作れ、色合いもよく食味もよい。しかも収量も大きく変動しない」ベニアズマに栽培移行した経緯がある。

皮は紅色、肉は黄色、ホクホク感たっぷりのベニアズマは、関東圏の消費者の嗜好にピッタリはまり、支持者を増やしながら生産地として確たる地位を築いた。

ところが平成6年ごろから市場は、中国産加工用イモに押され勝ちとなり、打開策として浮上したのがかつて栽培していた千葉ベニ。総勢五百数人を数える甘藷部会中、三〇人が集い、「甘藷育成研究会」を結成、本格的栽培に取り組むこととなった。

「化学肥料で作っていたイモとは大きな差が出ます。そのためには、まずは土作りから取り組まなければなりません。食味のよさ、安心・安全を看板に、腰を据えて取り組みます。土壌も三年もかかれば元に戻せると思っていますから。いいものを作るには時間と手間をかけなくてはいけません。よくて四~五年はかかると覚悟しています」と府間栄一会長。来年には選抜改良した新種の千葉ベニが登場する。

◆JAかとり「甘藷部会甘藷育成研究会」=千葉県香取郡大栄町吉岡五五一‐一、電話0478・73・2988

◆トピックス 「関東117号」が誕生

いかにも食欲をそそる明るい赤紫色のサツマイモ「関東一一七号」が誕生した。青果用紫イモとして開発された第一号である。

母親は紫イモ系統の九州一一九号、父親は関東八五・九九・一〇三号、ベニオトメの混合花粉による多交配のため不詳。

平成9年から選抜育成された「関東一一七号」は、アントシアニンを豊富に含み、食味優先に開発されただけにホクホク感としっとり感を合わせもつ。

素材を味わう焼きイモ、ふかしイモのほかサラダ、デザート、スープなどにと幅広く使える。

▽問い合わせ先=農研機構作物研究所甘しょ育種研究室・中谷誠室長(電話0298・38・8500)

◇これが自慢の1品 「分とく山」野崎洋光氏 「サツマイモ&肉ごはん」

◆日本料理「分とく山」野崎洋光店主(東京都港区西麻布四‐二‐一三、八幡ビル3F、電話03・3400・2968)

福島県石川郡生まれ。子供のころは干しイモや天ぷらでよく食べていました。今でも思い出すのが、中学二年のとき学校の帰りに寄った友達の家で食べたサツマイモの天ぷら。お菓子に思えたほどおいしく感じました。私が好きなのは、味噌仕立てのさつま汁。イモのほどよい甘みと味噌の風味がマッチした昔ながらの味わいとして気にいっています。

サツマイモは繊維質も豊富で、栄養的にもバランスのとれた優秀な食材です。自分で炊いたものは味の濃さ、風合いのよさから意外に日本酒にも合い、酒の肴にもなる一品です。

■作り方/コメ、角に切った紅イモ、水、日本酒、薄口醤油、塩少々でご飯を炊く。豚肉を霜降りにしご飯に入れて蒸らす。蒸らしたら、たっぷりの刻みネギと黒コショウを振り、混ぜ合わせる。

◇これが自慢の1品 「マンジャペッシェ」日高良実氏 「さとまいもとマスカルポーネ メイプルシロップがけ」

◆イタリア料理「マンジャペッシェ」日高良実総料理長(東京都渋谷区千駄ヶ谷三‐五〇‐一一、明星ビル1F、電話03・3403・7735)

兵庫県神戸市生まれ。子供のころは、おばあちゃんが石焼きイモ屋の声を聞くと買ってくれて、食べた思い出があります。大人になるとサツマイモは、そうたくさんは食べられませんが、イモ焼酎は好きです。

イタリアではサツマイモを食べることはなかったが、うちでは熱々オリーブオイルとアンチョビで季節の野菜を食べる「バーニャカウダー」で、糖度の高いサツマイモを使っています。

最近の傾向として、全国一律に同じイモが流通しているのが残念。もっと昔ながらの産地のイモを見直して欲しいですね。

■作り方/蒸した鹿児島産紫イモを適宜切る。マスカルポーネチーズ、生クリームを混ぜ合わせる。皿にイモを盛り、クリームとメープルシロップをかけ、粗めに潰した黒コショウ、刻んだアサツキを振る。

◇サツマイモの家族いろいろ

◆ジェレッド

皮色淡赤、肉色は橙、形状は短紡錘形で形がよい。高カロチン品種で低でんぷん質。水分含有率高く、βカロチンも100g当たり35~45ミリグラムを含有。生イモの褐変、蒸しても黒変が少ないので加工原料としてジュース、ペースト、ピューレ、フレンチフライなどに使用。

◆コガネセンガン

皮色は黄白色、肉色は淡黄色、形状は紡錘形か下ぶくれ紡錘形。でんぷん質に富み、多収で食味もよい。貯蔵性にやや劣り、でんぷん、焼酎の原料として用いられる。主な産地は鹿児島。加工食品としてカリントウ、スイートポテトチップ、フレーク、ペーストなどに。

◆ベニオトメ

皮色は紫紅色、肉色は黄白色、形は紡錘形で溝もなく、形ぞろいがよい。貯蔵性もよく、収量多く、耐病虫性にも優れる。甘みが強く、肉質は粉質で繊維の多少は中くらい、形のそろいがよいことから青果用に使われる。長崎県、鹿児島県が主な産地。

◆アヤムラサキ

皮色は暗赤紫、肉色は濃紫、形状は長紡錘形。「山川紫」や育成アントシアニン系統「九州109号」よりアントシアニン含有量が高く、世界初の色素利用向けの品種。ジュース、ワイン、ビールなどの醸造用、ペースト、パウダーなど加工用に利用される。

◆サニーレッド

皮色は赤紅、肉色はオレンジ、形状は長紡錘形でそろいはやや劣る。ビタミンAに変化するカロチン含有量多く、収量性は良いが貯蔵性はやや劣る。パウダーなど加工原料に適し、パン、麺、菓子類、焼酎原料にも使われる。青果用としてサラダ、天ぷらなどに合う。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら