シェフと60分:品川プリンスホテル調理部長・飯塚喜隆氏
多店舗展開するプリンスホテルレストランは、各店とも料理長のカラーを色濃く出している。
かつて何年かおきに転勤を命ぜられ、新しい料理長のもとについた。
「その都度、自らとの味の違いを認識し、どう合わせるかで葛藤があった。しかし、これを克服してこそ成長がある」と自覚。いずれの日にか一本立ちするための修業と言い聞かせ、貪欲に食いついていった。
料理を生業とする者は、何歳になろうが一生が勉強、研究と心得る。
「良いといわれるものには必ず何かがある。これを探ってこい」という先輩料理人からの教えは、今も守る。
はやっている店、良いといわれる店には積極的に出掛けていく。
また厨房内では、世代間の差から当然に料理感覚は異なる。
「若い世代にも良いものがある。感性があり、未熟だが光るセンスの良さがある」と素直に認める。同時に、こうした若き料理人の作る料理に負けじと、今の流れを探求、研究。さらに自らのものにしていく努力を怠らない。
「教室をやりながら、みんなが何を望んでいるかを探る良いチャンス」と、畑は少々異なるイタリア料理教室を開講している。
参加者の主婦は、実によく勉強していると実感する。イタリア語で混ぜるを何というのかなど、実に素朴な質問も飛び出す。
「これも逆に勉強になる」と受け止める人柄は、自らもイタリアンとフレンチとの食材やソースの違いを認識、本をひも解くなど徹底して確認する努力を惜しまない。
教室のテーマは、健康を考えたバランスのよい料理におく。
「時流は健康志向。食べて健康によく、栄養分がバランスよく含まれた料理をどう提供するかに努力すべき」。それが技術者たる料理人の務めとする。
また「フランス料理を食べるときは、笑いながら食べなさい」と説く。笑う表情が伝播し、楽しい表情、おいしい表情で場が和む。料理人人生三〇年を経て、料理とは「愛情、真心、研究心」という。
プリンスホテルは、薄利多売的ホテルと位置づける。そのため二二%を産直仕入れに頼り、大量仕入れによるコストダウン分を客に還元していく。
レストランの席数三〇〇〇席をまとめているだけに、半端な量ではない。産直先の発掘は、あらゆる機会を利用しルートをつける。
地方に出掛けた折には、土産物屋に立ち寄り業務用を交渉したり、社員から得た故郷の産物情報には、縁故を生かした仕入れをする。
幻の魚、イトウは「水族館で見るもので食べるものとは思わなかったが、バイキングで食べさせたら」と思いつき、阿寒湖の沖合に出掛け、現地で交渉の結果、契約にこぎ着けた。
期間限定のバイキング三八〇〇円でオンメニュー。「お客からは、こんなにおいしいものをと大人気を得ている」と笑う。
何事にも真摯にぶつかっていくチャレンジ精神は、ついにテレビ出演を買ってでるほどに。「どっちの料理ショー」「アップダウンクイズ」などに出演し、ひょうきん振りを発揮する。「品プリを代表して出演するのです。これでホテルのイメージが決まる」というところ、基本的には生まじめな性格らしい。
現在、部下をこうした場に出演させるよう仕向け、第二のキャラクターシェフの養成に務める。
(文・カメラ 上田喜子)
●プロフィル
昭和23年東京・新宿生まれ。家業の花屋を継いだ父親は、元レストラン経営者。料理好きの父親から刺激を受け、いつしか将来は料理人をと心に決める。父親のアドバイスで國學院大学に進学、好きな史学を専攻。在学中にはサービスマン、深夜のコック、服部調理師栄養学校の夜間部通学などを精力的にこなす。
卒業後、一流のコックになるにはホテルへの道あるのみと、東京プリンスホテルに入社。年下の先輩にもまれながら休日は、魚屋で無償で働くなど時間の限り修業に励む。
53年韓国日本大使館に一年間出向後、赤坂プリンスホテルへ。新館オープンに伴いレストラン宴会部門に勤務。60年には、東京プリンスホテル調理部長としてレストラン「プリンスヴィラ」へ。
平成6年品川プリンスホテルオープンにともない調理部長として赴任、現在に至る。
10年東京都知事賞受賞、西洋料理専門技術国家試験審査員も務める。
●私の愛用食材 スペイン産トマトパウダー
今年の春、料理人仲間がフランスから持ち帰ったものを分けてもらい、使い勝手の良さが気に入り便利に使っているという飯塚喜隆調理部長。
「味がハッキリしているので、フレッシュトマトの味を補ったり、トマト系のソースに、また皿の飾りに」と用途は幅広い。
スペイン産トマトパウダーは、選別・洗浄した完熟トマトをすり潰してペーストにし、低温スプレーで乾燥、パウダー状にしたもの。
トマト・ペーストは7月~9月が供給期なのに対し、パウダーは周年供給が可能。また、冷水、温水で簡単に溶けるので濃度調整として使えるが、油には溶けない性質をもつ。
飯塚シェフは、手打ちパスタ練り込み、トマト風味ソース、洋風煮込み料理、中華料理(あんかけ、炒飯など)、サラダドレッシング、パンの生地などに使う。
「湿気を含むと硬くなるのが難点」だが、冷製カッペリーニ、トマト系ソースなどに欠かせない調味料という。
▽問い合わせ先=大倉フーズ(株)(東京都中央区、電話03・3538・7979)
・所在地/東京都港区高輪四‐一〇‐三〇
・電話/03・3440・1111