新店ウォッチング:「ワンズダイナー」代官山店

2001.12.03 241号 17面

数あるバーガーチェーンの中でも、独自の展開を見せるフレッシュネスバーガーの新業態「ワンズダイナー」の三号店が、今夏、東京・代官山にオープンした。

東急東横線代官山駅にほど近い、旧山手通りと駒沢通りのぶつかる鎗ヶ崎交差点の角に面したビルの二階に位置する。

「一九五〇年代のアメリカンダイナーを現代風にアレンジした」という店づくりは、千駄ヶ谷、横浜ランドマークプラザに続く同一コンセプトの三号店という位置づけだが、店舗規模はこれまでの店に比べて格段に大きく、営業時間も早朝5時までと、単なる飲食店としてだけではなく「都会の遊び場」といったかたちで幅広く利用されることを狙ったスタイルであり、今後の同業態のプロトタイプ店舗になる予定であるという。

出店した代官山エリアは、もともと渋谷から一駅離れた閑静な高級住宅街として発展し、ごく限られた客層をターゲットとしたファッション店やトレンド系の飲食店などを中心に独自の集客を行っていた街だが、近年は、旧同潤会アパートの再開発によって建設された「代官山アドレス」などのような大型複合ビル(店舗+集合住宅)が建ち並び、多くの若者が平日の昼間から行き交い、路上やオープンカフェでくつろぐ姿が見られる繁華街へと変身した。

店内は、かつてのアメリカのダイナーそのままである。不思議な曲線を描く天井を持ったドリンク・カウンターと、その天井から突き出した銀色に輝く実物大のスポーツカーのテールゲート。ボックス席の真っ赤なツヤのあるラメ入りビニール製ベンチシート。いたるところにクロームやステンレスのモールが回った家具・什器類や、細かなタイルをびっしりと張り込んだ構造柱。そして極めつけは、凝った照明器具付きのビリヤード台など、テレビゲーム以前の世代には大変懐かしい大人向けの遊具である。

ミニスカートにフリルの付いたユニフォームの女性店員に接客を受ける時、客の年代によっては、あのジョージ・ルーカスの名作「アメリカン・グラフィティ」や、テレビでも何度も放映されている「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界がそこにあると感じられることだろう。

商品はワンプレートで提供されるハンバーガーやクラブハウスサンドイッチといった約二〇種類のメーン料理、コーヒーやカフェ・ラ・テ、スムージー、カクテルなどのドリンクが約三〇種、そのほかに前菜やサイドオーダー、スープ、デザートといったラインアップ。

分厚いガラスのグラスや、皿からあふれんばかりのアメリカンな盛り付け、各テーブルに置かれた真っ赤なストローなど、ここでも、「フィフティーズのアメリカンダイナー」という店のコンセプトは明確に具現化されている。

このコンセプトの一号店である千駄ヶ谷店は、オープンからじっくりと時間をかけて一五坪の店舗で六〇〇万円を売る繁盛店をつくり上げてきたとのことだが、この店も、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら、このコンセプトのプロトタイプ店として完成させることを目指しているということであり、今後の業績の推移からは目が離せない。

◇店舗データ

◆「ワンズダイナー」代官山店(経営=(株)フレッシュネスバーガー)、開業=二〇〇一年7月28日、店舗面積=七二坪、客席数=七〇席、営業時間=午前10時~翌午前5時

◆取材者の視点

実のところ、千駄ヶ谷に出したここと同じコンセプトの一号店「ワンズバーガー」は、昨年の春、すでにこの連載で取り上げている。

しかし、当時の千駄ヶ谷店と、今回の代官山店では、基本的なコンセプトは同じかも知れないが、実際には全く別の新しい業態の店舗であると言っても良いだろう。

そのくらい、今回の「ワンズダイナー」は、開発者としての思い入れが感じられる個性にあふれた飲食店だ。

栗原社長は「ほっかほっか亭」の創業時に参加したことで有名だが、その経営手法は、わが国の外食企業としては非常にユニークであって、なおかつ論理的である。

その栗原社長の考えでは、同業態の位置づけは「ファミレスの現代版」であるらしい。

確かに、三〇年ほど前、ファミリーレストランが、東京郊外に初めて姿を現しはじめたとき、われわれは、そこに「アメリカ」を感じて自家用車に乗って駆けつけたのだった。

そう言った意味で唯一残念なのは、この店が都心部の複合ビルの二階という、いかにも東京的なロケーションにあることだ。

筆者の勝手なイメージだが、この店が、このまま駐車場付きのフリースタンディング店舗、あるいは大型ショッピングモールのモールエンド店舗として、郊外の幹線道路沿いにあれば、まさに客は古き良きアメリカそのままの世界に浸ることができるに違いない。

都心のビルイン店舗ではなく、ぜひ、相模原や湘南などといった、周囲の雰囲気までもアメリカンなロケーションへの出店を期待するのは、個人的なファンであるとはいえ、勝手すぎるだろうか。

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