痛快!脱サラ成功一直線(9)スペイン料理店に挑戦する鳥羽直美さん

2002.03.04 247号 10面

鳥羽直美さん(35)は、横浜生まれの「浜っ子」である。高校で書道をやっていたので、横浜南高校から立正大学文学部国文学科に進んだ。大学を卒業後、就職はしなかった。その代わり、学生時代からアルバイトをしていた喫茶店で働いた。ところがその後、ひょんなことからファッション関係の仕事につくことになった。

当時のファッション業界は、デザイナーズブランドという若手の個性的なデザイナーが作った洋服が世に出て、多少注目され出したころである。今でこそ有名な「コムサデモード」や「ビギ」といった、センシティブだが一風変わったデザインの洋服が売れ出していた。

彼女は、ビギグループのファッション専門店に入店した。ビギグループは、さまざまな店名のショップを渋谷PARCOや都心の百貨店・駅ビルに盛んに出店していた。

鳥羽さんの入社時期は、デザイナーズブランドの大ブームの直前であった。入社直後から、あわただしい日々が過ぎていった。次々と店が開店する。新人がドンドン入ってくる。昨日までの新人が、半年も過ぎると新店の店長になった。あわただしい日々は、何もかも忘れさせてくれた。そして気がついてみれば、東京・横浜の一三店舗を管理する、ブランド・リーダーになっていた。

デザイナーズブランドの世界に陰りが見えはじめたころ、それまでの激務の疲れがどっと出たのか、彼女は無性にどこか遠い海外へ行ってみたくなった。

ヨーロッパ旅行をしている時、スペインに立ち寄った。スペインの街角に立ち、どこの街にもあるバール(カフェ&食堂&バー)でコーヒーを飲んでいる時、気取らないスペイン人のライフスタイルに感動し涙を流した。伝統と歴史のあるスペイン、そんな文化の奥深さに心を揺さぶられた。

表面だけ上手にとりつくろう日本人、そんな日本の生活に飽き飽きしていた彼女。彼女は、それらのバールをはしごしながらスペイン人とその風土、そしてスペインの空気や風まで感動させてくれた。

小さなハートを震わせながら、「私の求めていたものは、こ・れ・だ!」と彼女は思った。

それから、何度となくスペインを訪問し身も心も、すっかりスペインに染まってしまった。

そして帰国後、お世話になった会社に辞表を出した。

気がつけば、スペインも日本人の観光ブームに巻き込まれ、世俗化されたバールのチェーン店が目抜き通りに進出してきた。そこには、大勢の日本人観光客が群がっている。

「これがスペイン風バールの本当の姿ではない。バールとは、朝はカフェ、昼は食堂、夜はちょっとした居酒屋という風に、生活の中でスペイン人に自然に溶け合いなじんだお店なのだ。よし、本当のバールをこの日本でやろう」と決意し、昨年12月に横浜市西区の京急戸部駅から二分のところ、ノッポ・ビルの一階、五・五坪の喫茶店の居抜き物件を契約し開店準備に入った。

店名は、「ラス・タパス」。スペインで良く食べられている、さまざまなおかずとカナッペ風な惣菜パンを食べる食事スタイルから、ラス・タパス(いろいろなおかず)と名付けた。

当初は、スペイン風に立ってカジュアルに食べたり飲んだりするスタイルを導入したが、客からの不評に耐え兼ねてカウンターいすを導入した。その直後から、モーニングやランチはいつもいっぱい。客が入れなくなり、行列ができることもあるほど盛況となっている。彼女は言う。

「片意地張っているわけではありませんが、あくまでスペインのバールにこだわりたいですね。常連のお客さまが、日曜日にパエリヤを食べに三々五々集まってくるような、そんなお店にしたいですね…」

店を訪問した日は北風が強かった。しかし彼女の温かい笑顔が、心をホットにしてくれた。まだスタートして二ヵ月ほど。これからさまざまな困難が待ち受けているにちがいない。しかし、いつまでも明るい笑顔を絶やさず、ぜひ頑張って欲しいものである。

((有)日本フードサービスブレイン代表取締役・高桑隆)

◆売れ筋メニュー

(1)ランチ(ドリンク&ワイン、タパス、日替わり料理二品、玄米ご飯)七八〇円

(2)カナッペ風おかずをのせたパン

◆「ラス・タパス」の概要

「ラス・タパス」(いろいろなおかず)/業態=スペイン料理&BAR/所在地=横浜市西区中央一‐三三‐一二/一日売上げ=約二・五万円/規模=五・五坪/客単価=(昼)七八〇円/オーナー=鳥羽直美/開業資金=約五〇〇万円(うち保証金二〇〇万円)/開店=昨年12月末

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