シェフと60分 名古屋ヒルトン総料理長・谷岡 隆氏 和風素材を積極利用

1993.04.05 25号 11面

フランス料理の流れがバブル崩壊とともに変化をみせている。

帝国ホテルのフォンテンブローが今までのフランス料理に見切りをつけて鉄板焼スタイルのレストランへ衣替えを行った。新規オープンのホテルでもメーンのフランス料理からイタリアン、地中海系のレストランへと時代の流れを先取りしている。藤田観光のフォーシーズンがイタリアン、横浜のインターコンチネンタルでは中華料理をメーンにもっていき、大阪でオープンのウェスティンはイタリア料理を主力にし、同じく、来年オープンするグランドハイアットでもフランス料理をメーンにしない方針と伝えられている。

《モデルチェンジも》 本場のフランスでも二ツ星、三ツ星クラスの高級店がビストロ的な店へとモデルチェンジされるなど世界的な動きのなかに苦戦を強いられていることは事実のようだ。

名古屋ヒルトンへ赴任して満四年が経つ谷岡氏は最近の状況を次のように語っている。

確かに風当たりの強さを肌で感じることができる。当ホテルでも世界の流れをいち早くキャッチして時代を先取りする動きをしていくことが必要だ。世界各国の動きと日本での動きは、今では瞬時の情報として入手することが可能なだけに、この情報、流れにうまく乗り、また、その情報を利用して先手を打つことが料理人の世界でも不可決の条件ではないか、という。つまり時代の流れをみつめる目とその情報をキャッチするアンテナの高さがどうしても必要になってくる。

名古屋ヒルトンでは「シーズン」のセットメニューを従来の一万五〇〇〇円をやめ、七〇〇〇円、九〇〇〇円、一万二〇〇〇円を主力コースとした。これも時代に対応した価格設定をしたもので、高くても売れた時より、値うち感を強調した価格が時代を先取りする、という谷岡氏の考え方なのだ。

さらに、今後は、トリフ、フォアグラ、キャビアに代表されるフランス料理であってはいけない。ヘビー感覚からライト感覚のフランス料理にとニーズに対応していくことが重要ではないかと語る。

《オリジナル化必要》 フランス料理だからフランスの素材を使って料理を作ることを当然という概念は捨てた方がいいと思う。エスニックなどの東南アジアの料理が注目されている今日、かつてフランス料理では使われなかった料理の素材をもっとオリジナルに使っていくべき、という。名古屋ヒルトンではビーフン、コリアンダ、モロッコのクスクスなどを料理のつけ合わせに使い、カレーソースもエスニック風のものを魚やロブスターに使っている。また、エジプト豆やロシアのトウモロコシをつけ合わせに利用し、特にフランス素材にこだわらない。いろんな素材を使うことにより、変わった味を引き出すことができるし、日本的なタケノコ、ギンナン、菜の花なども季節の演出に役立てている。

また、懐石料理との兼ね合いをみて和風素材を積極的に利用している、という。

どうやら不況の時代を乗り切る条件は常に時代を先取りした先手必勝型の生き方が現代のフランス料理の世界にも共通した条件といえる。

《〈プロフィル〉》 一九四八年7月14日広島県生まれ、七一年カナダのクイーン・エリザベス・ホテルに入社後、ベルギー、フランスで7年間本格的なフランス料理を修業し、七七年帰国して東京ヒルトン(永田町)副料理長として赴任、八五年から3年間、新宿の東京ヒルトンの副総料理長となる。八八年9月から、開業準備中の名古屋ヒルトンに総料理長として着任、翌年3月開業以来「美味求真」をモットーに敏腕をふるっている。オーギュスト・エスコフィエ協会日本支部正会員、トック・ブランシュ日本支部会員、昨年3月にはフランス料理の世界で権威あるフランス料理アカデミーの正会員として認定を受けた。これまでにモントリオール料理コンクール、世界料理オリンピックなどで多くの金、銀メダルを受賞。

文・写真 楢橋 尚義

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