この1品が客を呼ぶ:「餃子会館磐梯山両国本店」もやし炒め
東京・両国の人気店「餃子会館磐梯山」。この店のもやし炒めは、昭和40年のオープン以来、餃子と並んで常に看板メニューに君臨し続けている。店長をして「うちは餃子ともやし炒めの店」といわしめるほどだ。そんなもやし炒めの人気の秘密を探ってみた。
餃子会館磐梯山両国本店は、JR両国駅から徒歩一分、昔ながらの飲食店が立ち並ぶ横綱通りにあって、いっそうの存在感を示している。創業は、まだこの界隈に繊維問屋が多かった昭和40年。オープン当初から餃子ともやし炒めを肴に、一杯飲んで帰るサラリーマンたちでにぎわいを見せていたという。
時代が移り変わり、町の様相が一変しても、ここは以前と同じように近隣のサラリーマンの憩いの場として愛され続けている。最近では女性客も多く、全体の三分の一を占めるという。
店の名が示す通り、この店の看板は餃子だ。ひと皿五個入りで四〇〇円。あんには豚肉をはじめ三種類の肉とキャベツ、白菜、玉ネギ、ショウガ、ニンニクを使用。食感を損なわないように粗みじんにし、七種類の調味料を加えている。
食べやすいようにという理由から小ぶりのひと口サイズに仕上げてあり、一人で五~六皿平らげる人も珍しくなく、平均でも二・五皿になるという。
「もちろん餃子が一番の人気メニューであることには違いないですが、実は同じくらい人気があるのが、このもやし炒めなんです」
そういって店長の根岸茂さんが出してくれたのは、モヤシとニラを炒めただけのシンプルな一品。調理法もいたってシンプルで、太めの成田もやしとニラを塩コショウで炒めるだけというものだが、使用するモヤシの量が半端ではない。一人前につき三五〇gを惜しみなく使う。これで一皿四〇〇円とあっては、人気が高いのもうなずける。
加えて「モヤシ本来の食感とうまみを大切にしている」というだけあって、シャキシャキとした歯ごたえとほのかな甘みが存分に堪能でき、冷めてもおいしく食べられるのが特徴だ。
昭和44年から店長を務めているという根岸さんは、もやし炒めの驚異的なまでの人気をどうとらえているのだろうか。
「うちのもやし炒めは、餃子にとてもよく合う一品だと思っています。刺身のつまのような感覚で、餃子を食べてからひと口、ビールを飲んでまたひと口と、セットで味わう楽しみがあるんだと思いますね」
客は一様にこのシンプルさが良いのだと絶賛し、お代わりする人も多い。
餃子、もやし炒めに続いて看板メニューに定着したのがラーメン。醤油ベースの味噌味であるバンダイラーメンと、トンコツラーメン、それにキムチをトッピングしたスープのないアブラメンの三種類(各六五〇円)で、二五年ほど前からメニューに加わった。
「当時この辺りにはラーメン店が少なかったのですが、ラーメンを食べたいというお客さんが多く、それなら始めてみようか、ということになったんです」
バンダイラーメンとトンコツラーメンの具材には、やはり大量のモヤシを中心に、ニンジン、キャベツ、ニラ、玉ネギをといった炒め野菜をのせ、ヘルシー感を打ち出す。
「麺はいろいろなものを試してみましたが、大量の野菜にマッチする、ツルツルとしたのどごしの良いオリジナル麺を作ることに成功しました」
浅草橋と新大橋にも店を構える餃子会館磐梯山では、今日もビールと餃子ともやし炒め、そしてラーメンで一日を締めくくるサラリーマンでにぎわっている。
◆こだわりの食材 サラダもやし「ベストフォー」
ひと皿に三五〇gのモヤシを使用し、さらにラーメンにもたっぷりのモヤシを使用する餃子会館磐梯山では、一日に二四キログラム近くものモヤシを消費する。
根岸さんが絶賛するのは成田食品のベストフォーというサラダもやしで、臭みが少なく、半生状態でもおいしく食べられるため重宝してるという。
「いろいろなモヤシを使ってみましたが、これがベストです。時間がたってもシャキッとした食感が生きているのがいいですね」
もやし炒めにこだわりを見せるこの店にとって、なくてはならないものだ。
◆記者席からのコメント
テンコ盛りで運ばれてきたもやし炒めだが、味付けが塩とコショウだけとあって、実にさっぱりとした味に仕上がっている。一見、一人前にしては多いように見えるが、シャキシャキ感も手伝って、サラダ感覚でどんどん食べられる。店長の「刺身のつまのような感覚で」という言葉通り、主張しすぎず、かといってなくては寂しい味わい深さだ。
餃子が焼き上がるまでのビールのつまみ、そして餃子のお供にと、ほとんどの客が注文するもやし炒め、まさに「シンプルイズベスト」という言葉がぴったりの逸品だ。
◆「餃子会館磐梯山両国本店」=東京都墨田区両国三‐二四‐二、電話03・3634・0456/坪数・席数=一三坪・六六席/営業時間=午前11時半~午後1時半、5時~11時半(日曜~10時半)、土・祝日休