痛快!脱サラ成功一直線(11)佐々木謙一社長「玉梨豆腐茶屋」

2002.05.06 251号 8面

会津の山奥に、「五万円豆腐」を売る小さな豆腐屋がある。大不況の時代、何故そんな高価な豆腐を売り出すのか…。豆腐なんてスーパーの安売りで「二丁で一〇〇円!」も珍しくない。豆腐屋の主人は、有限会社玉梨豆腐茶屋の佐々木謙一社長(59)。まるで会津の武士(もののふ)のような頑固な信念の人である。佐々木氏は言う。

「五万円の豆腐は『百年水』っていう豆腐だ。食べ物は水が決め手だ。ここにわいてくる水は、裏山の高森山のわき水。高森山は標高一一〇〇mの大山で、頂上近くは一面のブナ林。そこに降り積もった二mの雪が、一〇〇年かかってこの谷間にわいてくる。その水で作る豆腐だから『百年水』。“五万円”はだれもが反対だった。それでもおれは自信があった。『百年水』は、三島町の有名な陶器に入れ、会津漆塗りの重箱に入っている。この漆塗りの重箱だけで、四万円の価値はあるヨ…」

「おれが九年前、ここで豆腐屋を始める時だって、最初から豆腐一丁一〇〇円で売った。当時、豆腐一丁一〇〇円なんて、ここらの山中では考えられない『高さ』だったナ~。これだけ苦労して作る豆腐だ、何故安く売らなければならないのだ! という気持ちが強かった。だけど売れなかった…」

「おれは、この辺じゃ有名な『遊び人』で評判が悪かった。学校も行かず、喫茶店にたむろしてた。卒業して、駅前でスナックを経営したりしたから、ヤクザじゃなかったけれど、田舎じゃまともな人間には見られなかった。

お袋の面倒を見るために、女房と別れて実家に戻り親父が昔やっていた自家製の豆腐屋を始めた。まあ、言うならば『田舎の脱サラ!』さ。大豆を石臼で引いて、昔ながらの豆腐を作った。石臼は重い、重労働だ。だから安くなんか売れなかった」

前の道は、尾瀬や檜枝岐村に続く観光ルート。冬は、峠が雪で閉鎖され車はほとんど通らないが、ゴールデンウイークやお盆のころには、県外ナンバーが頻繁に通る。

「『玉梨豆腐茶屋』の看板を掲げ、豆腐食堂を始めた。そのうち店の前に車の行列ができるようになった。地元じゃ馬鹿にされたけど、県外や遠方のお客さんには『おいしい!』と評判になった」

「三年目に、昔子供のころ食べていた豆腐が無性に懐かしくなって作ってみた。それは、田んぼのあぜに植えておいた枝豆を粉にして、お正月に食べる『青ばと豆腐』だ。一丁五〇〇円で売り出した。これが大ヒット。それから『幻の青ばととうふ豆アイスクリーム』も作ったが、これが福島県知事賞を受賞。こうして、地元でやっと認めてもらえるようになった」

「五〇〇円の『幻の青ばととうふ』の次は、一〇〇〇円の『奥会津極上豆道一貫』(枝豆の豆腐)、二〇〇〇円の『極上幻の青ばとかご寄せとうふ』も次々発売し大反響をよんだ。

「玉梨豆腐茶屋」のキーワードは、地元産品・なつかしい味・全国を対象・こだわり・水・努力・信念・口コミである。

今回の取材は、東京から片道六時間もかかる難事だった。しかし話を聞いて感動した。こんな山中で、こだわりを貫きがんばる豆腐屋の親父、その人はむかし札付きの遊び人だったという。それが今では大人気の名物豆腐屋となった。

佐々木社長の努力と奮闘は、変転人生の最後に大ホームランを打ったようなものだ。佐々木社長の豆腐一筋にかける前向きな努力は、辺ぴな谷間の部落にともす一筋の明かりのように輝きつづけている。

((有)日本フードサービスブレイン代表取締役・高桑隆)

◆「玉梨豆腐茶屋」の概要

「玉梨豆腐茶屋」/企業名=有限会社玉梨豆腐茶屋/代表取締役社長・佐々木謙一(59)/店舗所在地=福島県大沼郡金山町玉梨三六三/年間売上高=約四〇〇〇万円/規模=一五〇平方メートル(五〇坪)/営業内容=豆腐及び関連商品の製造販売、豆腐及び関連商品の通信販売、豆腐を中心とした飲食営業/関連事業=玉梨豆腐茶屋(豆腐料理店)

◆「玉梨豆腐茶屋」成功の10要因

(1)必ずお客さんにわかってもらえると信念を持ち続け、こだわり豆腐を作り続けた。

(2)自信があり苦労して作っている豆腐だから、絶対に安くなんか売らなかった。

(3)子供のころ食べた味を再現しようと、枝豆豆腐に挑戦し創意・工夫し作り上げた。

(4)地元のお客さんより、全国市場を商売のターゲットにし、通信販売に挑戦した。

(5)二〇〇〇円の豆腐は桐のふた、五万円は朱塗りの漆重箱と地元の名産品を取り入れた。

(6)豆腐材料は、不格好な会津の枝豆を使用し続け、輸入豆は一切使用しなかった。

(7)たえず、一年に一商品、こだわりの新商品を考え出し続けた。

(8)食べ物は水だ!の信念のもと、高森山のわき水=百年水を使い続けた。

(9)持ち帰りのお客さんには、氷と発泡スチロールの保冷箱に入れて持ち帰ってもらった。

(10)チラシよりもお客さんの口コミ評判を大切にし、それが現在の繁盛をよんでいる。

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