トップインタビュー:際コーポレーション社長・中島武氏

2002.08.05 257号 5面

鉄鍋餃子の大ヒットからはや一〇年あまり。「脅威のヒットコンセプトメーカー」などの異名をとる中島武社長率いる際コーポレーションは、紅虎餃子房の全国展開をはじめ、チャイニーズ以外にも幅広い分野の業態を開発し、現在も月二、三店のペースで出店するなど、快進撃を続けている。新しくできる商業施設には、際の店が必ず入っているといっても過言でもない。売上げ伸び率ランキングでは昨年の四位から三位にランクアップ、昨年に引き続き五八%台の成長率を維持している。昨年の店舗売上高も一一一位とベスト一〇〇入り目前だ。中島社長に業態開発のポイントと今後の展開について話を聞いた。

‐‐昨年よりワンランク伸び率ランキングを伸ばし、際は常にトレンドを先取りして業界にブームを起こしていますね。

中島 三位になっても手放して喜んではいられない。参入組がどんどん増え、これからもっと過当競争になっていくだろう。その中で何をしたらいいか。飲食店というのは一〇年をクリアしないとその企業が生き残るか分からない。二、三年はブームに乗っても五年で飽きがくる。次の五年は商品力やオペレーションも含めて、今度は個性から総合力が判断される。そしてまた飽きがくるので新鮮さを出さないといけない。意外としんどいビジネスだ。

気をつけなくてはいけないのは、和食ダイニングや中華ブームなどはやるとそればかりになる。参入組は、確固たる信念や売りたいという商品がない限り、人マネして入ってくる。だが面白そうだから、すぐに儲けたいからと、やりたくもないのにやっているのでは長続きしない。

ピカソのあとにシャガールが出てきたように、影響を受けることは構わないがそこに思いがなければオリジナリティーは生まれない。みんなオリジナリティーの必要性は分かっているが、できないから目ざとい商魂だけが先走っている。

また、そろそろ大手企業の底力、反撃がでるころだ。いまの繁盛店の仕組みはプランナーやデザイナーに依頼し運営するだけ。大手企業がそれをやろうと思えばあっという間にできる。ウチのように企画からすべてやっているところは珍しい時代だ。開発能力がないなら外部クリエーターを使うのも手だろう。

‐‐次に開発する店のコンセプトは。

中島 東京・丸の内の丸ビルに新しい店をつくっているが、茶色いアジアはもうやめて白いアジアをつくる。イメージはインドシナというカトリーヌ・ドヌーブ主演の映画。「カサブランカシルク」という店名で、モロッコをテーマにした。旅人が集まったオアシスみたいなものが丸の内にできるといい。近いうちにモロッコにも行く。現地にそんな店があるわけではないが、空気感が分かる。僕の店は紅虎もそうだが現地には絶対にない。

次にくるものは分かっている。尖がったものにはもうみな辟易(へきえき)しているから、次はベーシックなおいしい料理。和食にマヨネーズを使うなど行き過ぎた創作料理は味覚の崩壊になる。いまの消費者は外食の経験値は高いが本物の良さは分からなくなった。

デザインもスノッブなものはそろそろ終わるだろう。スタンダードなレストランに回帰してくる。衣服のトレンドも同じでシャープなものは否定される。ファッションも音楽も人の感性はすべてリンクしている。

色使いも、これからはニースやコートダジュール、サンタモニカなどの避暑地の優しいブルーや白の時代がくる。尖がっていない美しさ。ニューヨークスタイルにはもう疲れている。料理もストリート系の子が作るより、フランスの田舎みたいにボーダーシャツの子が働いていたほうがかわいくていい。

同じ空気感をもった企業としていま注目しているのがデニーズだ。意識されているかは分からないが、食を提供する空間に投資を始め、色も奇麗な白やブルー系などを使って気持ちの良い飲食店をつくろうとしている。

また料亭に行くと感じるが、きちんとしているところは、僕が二〇分前に行くと女性がもう正座して待っていてビックリする。そうした本当の原点みたいなものに興味がある。

‐‐トレンドのサイクルはどんどん短くなっている。

中島 有名ブランドもそうだが、新しいものと伝統の両面を持っていないとビジネスは成功しない。トレンドで引っ張ったものを安心感に変えることが必要だ。紅虎もいまはファミレスになった。家族連れにも安心して食べてもらえるということ。若者だけに受けるものは全国展開できない。要請があって商業施設に出店しているが、これは相当勉強になっている。一軒のルールではなくて、箱の中で個性を出さなければならない。ウチの接客が施設全体の評価に影響を与える。オペレーションをきちんとやっていかないと回せない。

また街に似合うものを作る。紅虎は新橋や銀座が一番似合うが、青山や赤坂だったら違う顔を作る。最近京都・祇園の老舗の中に「白碗竹 樓」を出したが地元の評判がいい。京都の人は排他的というがそんなことはない。京都の良さ、人間関係を理解してちゃんと商売すればとても優しい。その土地の生活観が分からないと店を出してもうまくいかない。

‐‐これからの展望は。

中島 僕が今いろいろやっているのは、際コーポレーションを飲食店の総合力をもった企業にしようと考えているために、中華には突出していくが、和洋中とあらゆるジャンルの飲食店をこなし、料理人とコラボレーションしながら成長していきたい。また料理だけではなく、店舗づくり、サービス、オペレーション、従業員教育まで外部の委託があればプロデュースする。

今秋竣工予定の深川(江東区)の商業施設「Lotus Park」では環境デザインも手がける。石やレンガを使って、あたたかい質感の安らぎを与える施設をつくりたい。そこにアジアンフードを中心としたウチの飲食店が六業態入る予定だ。

◆プロフィル

中島武・際コーポレーション社長 なかじま・たけし=一九四八年1月東京都生まれ。七〇年拓殖大学商学部卒業。育った都下福生市では外国の文化に触れ、ファッションや食に対して興味を持つ。東急航空会社、東洋ファクタリングを経て、八三年12月デモデトレーディング(株)を設立し、福生にて衣料品の輸入卸を開始。九〇年12月に際コーポレーション(株)を設立。紅虎餃子房、胡同四合坊、虎萬元、胡同MANDARINなどの業態を持ち、元祖・鉄鍋餃子や韮菜饅頭を商品開発し、大ヒットさせた。

リーズナブルプライスからアッパープライスまでのチャイニーズ業態を日本全国展開中。そのほか万豚記、萬力屋のFC化をはじめ、フレンチ、イタリアン、スパニッシュ、カフェ、ダイナー、和食、エスニックなど幅広い業種・業態も展開、今後はお粥、パン、とんかつなどの専門店も計画している。さらにフードビジネスのみにとどまらず、衣料、古着、アンティーク家具、雑貨などの分野にも進出している。

◆会社概要

際コーポレーション(株)(本社=東京都目黒区大橋二‐二二‐八、千歳ビル、電話03・5453・7791)=一九九〇年12月設立、資本金四億六六〇〇万円、売上高一五〇億円(二〇〇一年10月期、グループ全体、FC含む)、〇二年5月現在の店舗数一九一店

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