加藤サチコのアグリカルチャーレポート(3)注目される農業者集団「和郷園」
ナチュラルローソンをはじめ、首都圏のスーパーや生協などに減農薬などのこだわりの農産物を供給していることで、最近注目されているのは、千葉の農事組合法人「和郷園」。
和郷園とはすなわち、パラダイス。二〇~三〇代の若手農業者たちが「自分たちが作って、自分たちが売る」という自立した農業経営を目指して集まったこのパラダイスの首領は、三四歳という若さの木内博一さん。千葉県北東部の一一市町村の八〇人もの農家を束ね、法人設立からわずか五年で年商一一億円にまで事業を拡大させた。
強烈なリーダーシップとバランスの取れたビジネス感覚。ときに度肝を抜かれる痛烈な毒舌。この木内さんという人は、間違いなく二一世紀の農業界を担う若手ホープのひとりだ。
先日訪れると、近所の山を一山買って、敷地二〇〇〇坪に日産四tの冷凍工場を建てるところだった。ホウレンソウ、枝豆、トウモロコシ。中国野菜に負けない産地直送の冷凍野菜を外食企業やスーパーに供給する。
また別の敷地では、自前のカット野菜工場も完成していた。畑でとれたものをその日のうちにここで加工。また、倒産した養鶏所の農地を譲り受け、その土地をオーガニック専用農地として整備している。
これまで生産野菜は、流通量を調整することで、その価格差をもうけとする商慣行がある。しかし木内さんは、「商品価値を失うまでたらい回しにされるような駆け引きはすべきではない。鮮度の良いものを提供することが消費者の支持を受けること。そのために消費者に直接販売できる流通機能をつくろう」と和郷園をつくったという。
また「キュウリを作っているから、デフレ経済に巻き込まれているのだ」と考えた。たとえばキュウリも両端をカットすれば、漬け物屋ですぐに使える。ゴミ問題もなくなる。ちょっとした発想の転換で農業にも大きなビジネスチャンスがある。それで加工も手がけるようになったのだ。さらにリサイクルセンターをつくって、野菜のカットくずはここに運び、現在では日に一五tの生ゴミがここで堆肥化されている。
欧米では農業は地位の高いもの。だれもができるわけではない。日本の農家は農政や農協によって小作人にされてしまったが、「農業という産業の地位をもっと高めたい」と、木内さんは熱い思いを抱いている。一次産業が資金力を付けて特化していけば、二次、三次産業を吸収していくこともできるという。
また一昨年から、農園を開放し、一般消費者を対象にした「ガーデンポタジェ」という有機農業の講座を開講。ガーデンポタジェをブランド化し、最終的には田舎暮らしをしたい人のためのインフォメーションに位置づける構想だ。
昨年は直売所もつくった。将来ガーデンポタジェで作った農産物を売りたいという人にはここで販売することも可能にして、暮らし全般をサポートする。
人が流失していく農村に、都会から人を呼んで、どんどん新しい生活集団をつくっていく。土に触れ合って自分が食べるものは作りたい、その余剰は販売したいという人を応援しながら、自分たちはプロの農業集団として、生産から販売までをマネジメントする意向だ。
(農産流通ジャーナリスト・加藤サチコ)