トップインタビュー:はなまる代表取締役・前田英仁氏

2003.04.07 267号 3面

昨年、外食業界で最もブレークしたものといえば「讃岐うどん」だろう。そのトレンドを作った仕掛け人が「(株)はなまる」の前田英仁社長だ。香川県は一人当たりのうどん消費量が全国平均の約四倍という大消費地域だが、その本場讃岐うどんを一〇〇円という低価格で提供、本物志向と値ごろ感をミックスし、さらに若者も対象とした新しいマーケットをつくり上げた。はなまるうどんが全国区となったのは渋谷店のオープンから。この店は、今でもほぼ客席が五〇回転するというほどの怪物店舗。以降新宿西口店、大阪・心斎橋店などが続々と続いている。超・大ブレークした讃岐うどんの人気の秘密、今後の展開、将来展望などについて、前田社長に聞いた。

‐‐はなまるうどん誕生の話からお聞かせてください。

前田 私は若い時のアルバイト時代を含め、それまで食品には全く携わってきませんでした。でも香川県の出身ですから、生まれたときからうどんを食べてきましたし、社会人になってからも昼はたまにうどんというように、ずっとうどんを食べてきたわけです。

それまで、ファッション関係のビジネスをしていたのですが、香川県には行列をつくるうどん店がいっぱいあることに興味を持ちまして調査をしたわけです。そうしたら、一日一〇〇〇人くらいのお客が入る店がたくさんあることが分かった。「これはすごい」ということで、五年くらい前から有名店を食べ歩くなど、研究を始めたのです。

‐‐足下をよく見たら、思わぬ宝物があったということですね。

前田 ただ、来店客は九対一の割合で男性が中心。一割の女性も中高年の方と非常に偏っていた。これは、言ってみればお店がお客を選んでいるようなものです。そこで私は、お店のイメージカラーを暖色系のオレンジで統一、デザインをカジュアルで少しポップなイメージにし、さらに好きなメニューを作ってもらうというエンターテインメント性を持たせることを考えました。

こうすることで若い女性やニューファミリー、そしてヘビーユーザーのサラリーマンや中高年と、より幅広い方々に食べてもらえるようにしたわけです。

第一号店は高松木太店ですが、お客様にたくさん入っていただき、手ごたえをつかみました。そこで次は、高松市内の六ヵ所で、さまざまなロケーションをチェックしたのですが、いずれも評判をとった。

特に二号店として出した田町店は、ショッピングアーケードに出店したのですが、マクドナルド、ケンタッキーといった店があるにもかかわらず、高校生がいつも二〇〇人訪れる店であることが分かり、はなまるうどんが若者に支持される店となることを確信しました。

‐‐全国展開は順調ですか。

前田 全国展開のリサーチをかけてみると、関東ではうどんを食べる習慣はないなど、いろいろなことをいわれました。そこで、まず香川に近い岡山や兵庫に出店しました。当初は、うどんの本場の香川だから成功したのであって、ほかでは通用しないかも、と思っていました。ところが、ふたを開けてみると一・五倍から一・七倍も売上げが上がった。われわれのつくった業態は、全く新しい、競争相手のいない市場であることがハッキリしたのです。

‐‐そして、いよいよ渋谷進出になるのですね。

前田 若者の街ということで、まず渋谷がすぐに浮かびました。昨年の9月に店を出したのですが、予想をはるかに超える人気でした。現在も平日で二二〇〇人、土日だと二五〇〇人のお客様が入ります。いす席は五〇席しかないので、一日五〇回転していることになります。

メディアに多く取り上げられたせいか、最初のころは一五〇人が行列し、その行列を見物する人が二〇~三〇人という、大変な人気店となりました。その後、原宿店、新宿西口店、大阪の心斎橋店と、次々にオープンするのですが、渋谷店は異常だろうという考えを覆し、みんな渋谷店かそれ以上の人気になったのです。

‐‐これほどヒットした要因は、どうとらえたらよいのでしょうか。

前田 要するに、従来の外食市場とか、FF市場とはバッティングしない、全く新しい需要を掘り起こしたと考えています。

讃岐うどんとはなんぞやと考えると、明快な答えはありません。そこに「一〇〇円で食べられる」という驚きと、食べて「おいしい」という感動、そして伝統食であり健康的な食べ物であるという安心感、和風のFFとしての位置づけを新しくつくり上げたと考えます。

‐‐味へのこだわりではどんな工夫をされているのですか。

前田 まず、麺は自家製の生麺を使用しています。また、だしも各店でとっています。最初、濃縮タイプのものを考えたのですが、風味は作った先からドンドン減っていく。それなら、食べるその場でだしはとった方が良いとの結論になり、店でだしをとるようにした。ただし、だしはすべてパック化し、どの店で食べても、味は同じというシステムをつくりました。

‐‐食の世界は、飽きということがついてまわるのですが。

前田 われわれは、今「でもの日常性」ということに取り組もうといっています。これは「はなまるに行ってうどん“でも”食べるか」という意味です。何回食べても飽きない、リピート頻度の高い食べ物を目指しています。

‐‐その具体策は。

前田 私は、生まれてこの方ずっとうどんを食べてきたわけです。そういうベーシックなものは、飽きとは関係ないものではないでしょうか。

よく、奇をてらったようなメニューもありますが、それでは長続きしません。シンプルでオーソドックスな味であれば、飽きは来ない。ただ、既存のものをそのまま作っても駄目です。いかに飽きさせないか、調査研究し、本物を求めて味も変えていかなければなりません。いわば「うまいうどん」の追求ということですか。

‐‐競合店が乱立気味となっておりますが、それを含めて今後の貴社の進む方向などをお聞かせ下さい。

前田 昨年は「一〇〇円・讃岐うどん」というフレーズが受けたのですが、今年は「はなまる」「讃岐うどん・一〇〇円」というようになってほしいと考えています。

競合店もたくさんできました。ですが、味ではどこにも負けないつもりですし、和風FFといった新ジャンルを開拓するという使命感もあります。社名のはなまるは、勉強でもらう“エクセレント”を表したものであり、われわれもそうありたいと思って付けた名前です。

‐‐どうもありがとうございました。

◆前田英仁(まえだ・ひでと)=昭和36年生まれの四一歳。「はなまる」は平成13年11月に第一号店をオープン、その後フランチャイズ方式を含めて店舗展開を始めたが、昨年9月にオープンした渋谷店が大ブレーク、讃岐うどんブームを誕生させた。現在、四三店がオープンしているが、今期(1~12月)だけで一三〇店舗を開店する予定で、二〇〇七年一〇〇〇店を目標としている。

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