榊真一郎のトレンドピックアップ:飲食のカテゴリーキラー

2003.10.06 275号 10面

『カテゴリーキラー』という言葉があります。

たいていは物販の世界で使われる専門用語で、ある一つの分野に突出した品揃えで他社を圧倒し、その分野では独占的な市場を作り出す…、というような意味合いになるかと思います。アメリカという先進の市場が生んだ20世紀最後のビジネスと言われ、最近では日本中にも増えている。例えばDo it Yourself系の大型店であるとか、自動車用品ばかりに特化した店であるとか、あるいはトイザラス…、これは正々堂々アメリカからやってきた素性正しいおもちゃのカテゴリーキラーであったりします。

専門店…と言えばそういえなくもないのでしょうけど、ある意味、節操のないまでの品揃えの多さを考えると、既存の専門店という言葉では正しく表現することができないような気もする…、非常に悩ましい存在であるのです。物販の世界は高品位を売り物にする専門店か、圧倒的品揃えを売り物にするカテゴリーキラーかどちらかしか生き残れないという両極化が進んでいて、その割を食ってジリ貧になっているのが「なんでもあるけれど中途半端にしかない百貨店」である、というのは周知の事実。そして外食産業ではなかなかこうした圧倒的な品揃えというのが難しい…、そうも言われていました。だからカテゴリーキラーという業態は成立し得ないだろうというのも半ば常識でもありました。

果たしてそうだろうか? 「圧倒的な選択肢の中から迷いに迷って唯一つ、自分の好みを見つけ出す喜び」という人として誰もが持つであろう欲望を、こと外食に限って人が持たずにおられるのだろうか? という疑問をずっと持っていました。で、見つけたワケです、カテゴリーキラー的要素を持った飲食店。

先日、表参道に新しくできた鹿児島料理の専門店に行ってきました。

「さつまや」という店名で、さつま料理に当然特化しており、その日にあがった鹿児島の魚を料理する…であったり、あるいはさつま黒豚を上手に使った創作料理があったり、はたまた手作りのさつま揚げがなかなかに面白かったり…と、だからこの店はさつま料理に圧倒的に突出したカテゴリーキラーであるというんじゃない。こんな程度ではさつま料理の専門店であって、決して、他を圧倒できるだけの品揃えというには程遠い。しかも小さな店で隠れ家風で物販的なカテゴリーキラーとしての条件はどこにもなかったりする。でも、これが実に立派な超専門店であったりしたのです…、驚くことに。

実はこの店、圧倒的な品揃えの「焼酎」を抱えている。

芋焼酎だけでなんと一〇〇種類以上。焼酎には麦もあろう、米もあろう、最近では雑穀やとうもろこしで作る面白い焼酎もあるのだろうが、でもさつま料理といえば焼酎はイコール芋であって、いくら揃えたとしても日本中の焼酎を置くことはできないであろう。レストランのバーエリアを最大活用してカテゴリーキラーになるために、この店はかたくなに「芋焼酎」しか置かなかった。置かなかったけれど、だからこそ一〇〇種類が置けたのだ、と思うと、非常に賢い判断を彼らはしたんだろうな、と思うね。

例えば最近、流行の沖縄料理店で、泡盛を置く。いくつかの種類を置いて、なのになぜだか焼酎も置いてみたりする。下手すると日本酒までおいたりして、なんだかそれって節操ないんじゃないの? って。例えば六本木のエーサインバーなんて沖縄料理屋ではメニューに「当店には焼酎はありません。泡盛ならあります」と名言してあるし、アメニティさんのナビィとかまどにも泡盛はあるけど焼酎はない。

例えば西麻布のタフィアなんてバーにはラムしかない。でも日本で手に入るであろうラムはなんでもあるし、海外に出た人は必ずそこにしかないラムを買ってきてこの店において帰るのでどんどんラムの種類が増えていく。そのうちラムのことを調べたければこの店へ行け…という状態になるに違いない。

あるひと部分でも良い、本当に小さな部分でいいから自分の街で一番の圧倒的な品揃えをしてみる。マニアも唸る…というのが一番手っ取り早く、一番判りやすい目標じゃないだろうかね?

そのためには腐りもしないし場所ふさげでもない酒…なんてのは非常に良いこだわりのツールであろう、とボクは思うんだ…けどね。

((株)OGMコンサルティング常務取締役)

◆さつまや=渋谷区神宮前六‐一‐六、角田ビル2F、電話03・6419・3980

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