飲食トレンド:進化するテーマカフェ 異業種とコラボで新ビジネス創造へ

2004.09.06 289号 1面

カフェ業界に新しいカフェの潮流が生まれている。異業種とのコラボレーションで、物販や情報発信をするテーマカフェだ。これまでも店内にギャラリーやパンフレットを置くカフェがなかったわけではない。しかし新しいカフェの特徴は、店のある地域の特性、顧客のニーズを確実に読み取り、それを達成できる異業種のパートナーと提携すること。カフェのブランドに集まる人たちに情報発信し、新しいビジネスマインドを創造できるかが、テーマカフェの成功にかかっている。

●トラベルカフェ

五〇インチの巨大プラズマTVに、大海原を回航する白い豪華客船が写し出される。陽光を浴びるデッキのプール、世界の料理が堪能できる豪華なディナー。

そんな一部の富裕層しか体験できないと思われていたクルーズでの世界の旅が「実は一〇万円台から、格安で実現できるものもあるんですよ」とは、7月12日、横浜市のJR関内駅北口駅前に「トラベルカフェ」一号店をオープンした永嶋万州彦氏だ。

「ドトールコーヒー」をはじめ「プロント」など多くのカフェ・チェーンを手がけ、本紙でもおなじみのコンサルタントの永嶋氏が自ら代表取締役を務め、満を持して展開するこの新しいカフェ・チェーンは、異業種とのコラボレーションによって実現した全く新しいタイプのテーマカフェ。

一見すると普通のカフェだが、一号店のテーマは「クルーズ」。客船のイメージをかもし出す店舗設計に、店内に備え付けた四台の巨大プラズマTVからは絶え間なくクルーズの映像が流され、ツアーに関するパンフレット、雑誌なども置かれている。いずれも協賛する船会社、旅行会社のもので、トラベルカフェは各社にこうした情報を発信する場所の提供をしている。

客はカフェでくつろぎながら、こうした映像やパンフレットを眺め、関心があれば店内に設置したはがきで資料提供できる。横浜港に近いというロケーションも手伝って、クルーズへの関心は高い。しかし「これまでこうしたクルーズ情報は、どこに行けば手に入るのかお客さんは分からなかったんですよ」と永嶋氏は言う。

情報を提供したい企業と、情報が欲しい消費者。インターネットが普及した昨今では両者はつながりやすくなったが、年配者には普及しているとはいいがたい。とくに潜在ニーズはあるとみられるのが、クルーズによる世界旅行だ。カフェがこの二者をつなぐ媒介になる。女性など新しい顧客層の開拓にも一役買う。

「このコンセプトを提案したら、すぐに船会社から反応があった」というように、商船三井、郵船トラベルなど客船大手五社が協賛。ツアーの申し込み窓口になる旅行会社五社と合わせて、一一社の広告宣伝を店内で行う。

「旅行会社にとっても低価格競争で人件費ギリギリのところが多く、とりあえず情報だけ欲しいというような予備軍のお客さんに対応できていなかった。ウチが宣伝部門を代行すれば代理店も助かる」(永嶋氏)

トラベルカフェのテーマはクルーズに限らない。すでにJR九州と「トレイン」企画が進んでいる。列車の風景を映像で流し、観光名所や旅館のPRをする。また、はとバスとも提携し、「トラベルカフェTOKYO」を全国の主要各都市に展開する計画だ。東京に来る地方の観光客向けに、話題のスポットの情報を提供する。カフェのメニューには東京の銘菓も取り入れ、デパ地下には出店していない隠れた老舗を発掘するなど企業のPRもしていく。

トラベルカフェでは、それぞれのテーマで協賛会社を募り、こうしたテーマ別カフェをFC方式で出店していく考えだ。ほかにも「HAWAI」など一〇ほどのテーマがあり、それぞれ二〇店舗ずつ出店できると見ている。五年後には店頭公開を目指す。

トラベルカフェの収益部門は二つある。飲食によるカフェ部門と、協賛会社から得る広告部門。しかしそこはカフェの専門家だ。

「あくまで運営はカフェが主体で、プラス・アシスト業。広告収入は家賃分も出れば十分」という。メニューにはこだわり、世界のオークションで落札されたコーヒーやフードの充実で、一号店の客単価はセルフカフェにしては高い六五〇円。一日の来店客数が一〇〇〇人で、カフェ部門だけで採算が取れる見込みだ。

「お客さまにはあくまでカフェとしてくつろいでいただき、押し付けがましいセールスをしないことがノウハウ」。カフェの居心地を悪くしてしまったら、テーマカフェは成功しない。

FCとの関係も、ジーは本部に五%のロイヤルティを支払うが、逆に本部からジーにも協賛会社の宣伝料を支払うようになっており、協賛会社、本部、FCが対等の立場で共存できる関係を目指している。

◆「トラベルカフェ」1号店(横浜市中区真砂町3‐33、セルテ1階(JR関内駅北口)、電話045・444・2422)営業時間=午前7時30分~午後10時、無休/席数=109席(店内69席・テラス40席)/HP:http://www.travelcafe.co.jp/cafe/cafe/index.html

●「news DELI」恵比寿店

ほかにも個性的な店づくりのために、異業種とのコラボレーションを積極的に仕掛けているカフェ・チェーンが出てきている。若者に人気のデリ・カフェ「news DELI」だ。今年4月には恵比寿店で、犬をテーマに、キャラクターグッズで著名な「full Dog」と提携し、店内にインショップを設けている。

恵比寿界隈は散歩途中の愛犬家が多いことから、犬と一緒に気軽に食事ができるデッキ席を設け、特別に犬用のリゾットやおやつも用意した。また一般のメニューでも、恵比寿限定のデリドッグ(ホットドッグ)が好評で、「一日に一〇食は出る」という人気メニューになっている。

いまのところショップの物販との相乗効果はそれほど上がっていないものの、「セレブの多い街で、犬連れが格好いいというイメージが、他のお客さんにとっても特別な空間になる」ことが最大の効果だ。

「ただのカフェではなく、恵比寿店ではワインやフルコースも出せるビストロとして、ワンランク上のデリにしたい」と店長の荒川氏はいう。

ほかにも7月に玉川高島屋南館隣にオープンした「MALL MART HOUSE DELI」では、「ブーランジェリーメゾンカイザー」(パン)、「オイシックス」(青果)、「ヨーゲンフルーツ」(フローズンデザート)、「フィオリーノ」(花)といった異業種と組み、顧客の利便性を考えたスーパーマーケット的な複合店を展開している。いずれも地域のニーズに合わせた店のカラーを出すことが目的だ。

「news DELI」は、現在都内を中心に二一店舗を展開している。昨年から地方都市へのFC展開を急速に進め、二〇〇六年までに、直営一一店舗、FC一〇〇店舗を出店する計画。FCの基本パッケージはあるが、五〇坪以上の大型店は複合店にしたいと考え、異業種との提携はモデルプランの一例になる。

「東京の直営店でさまざまなパターンを試し、地方にもおろしていける要素があれば取り入れたい」(本部・福田氏)と話している。

◆「news DELI」恵比寿店(東京都渋谷区恵比寿南1‐16‐11、ABC WACOビル一階、電話03・5725・2424/HP:http://www.news-deli.com/hot_news/index.htm

●スローカフェ

スローフードが見直されつつある中、人やもの同士のつながりを見直し、スローな生活スタイルやビジネスを提案しているのが、東京は府中市の「スローカフェ」。オーナーの吉岡淳氏は、日本ユネスコ協会の事務局に三〇年間勤務していた活動家だが、生活者の視点で足元から平和を考えようと、地元府中に基盤を作るべくカフェを開いたのが二〇〇一年。NGO法人「なまけもの倶楽部」の運動拠点として、フェアトレードでの物販、音楽ライブやセミナーなどのイベント、地域通貨の呼びかけといった活動を情報発信している。

オーガニックカフェは経営が厳しいところがほとんどだが、このカフェでは倉庫を改造した三階建ての建物の一階部分をカフェ、二~三階を地元の市民団体や企業に貸し、建物全体が公民館か文化センターのようになって、若者から年配まで多くの来店客で賑わっている。とくに月二回開催、電気の代わりにロウソクで営業する「暗闇カフェ」は評判を呼び、他のカフェにも飛び火。二〇〇三年からは夏至の夜に東京タワーの下で自主停電のキャンペーンを呼びかける「一〇〇万人のキャンドルナイト」にまで発展するなど、確実に地域から世界へ輪を広げている。

◆「スローカフェ」(東京都府中市栄町一‐二〇‐一七、電話042・314・2833)

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