飲食トレンド:盛り上がるIT活用 「ぐるなび」に脚光

2005.03.07 297号 1面

二〇〇四年は、外食業界にとって、かなり悲惨な一年であったといえるかも知れない。日本フードサービス業界のホームページにある調査データによれば、調査対象一四五社約二万六〇〇〇店舗の昨年11月の売上高前年同月比は九七・二%であり、さかのぼって二〇〇三年の11月からの一年間で、最も低い数値となっている。また同様に、新規オープン店を除く既存店約二万二〇〇〇店舗(一三七社)の前年同月比は売上高九三・五%、利用客数九二・二%と、どちらも一割近い落ち込みを見せている。(入江直之)

こうした状況は経済環境の変化だけではなく、BSEなどによる食材調達の問題や自然災害などのさまざまな要因が重なったことが、その原因であるといえるだろうが、どのような理由があろうと、現実に落ち込んでいく売上げや客数を前にして、業界各社ではその対策に頭を悩ませているというのが現状だ。

そうした中で、集客に直接結びつくプロモーションの手法として、以前にも増してインターネットが注目されつつある。

グルメ検索サイトの最大手「ぐるなび」では、昨年10月から実質上の加盟金が大幅に引き上げられた会員制サービスをスタートさせた。これは、ぐるなびの加盟店舗をビギナー会員と正会員という二段階に分け、従来通りの月額加盟料金では、月間のアクセス数が三〇〇〇PV(ページビュー=各ページ単位でのアクセス数の単位)を上限として制限されるシステムだ。

この制限を解除するには、年間六〇万円以上の加盟金を支払う正会員にならなければならない。つまり、これまで三〇〇〇PV以上のアクセスがあった人気店であっても、正会員として登録しない場合は、エリアや予算といった条件で検索する場合、三〇〇〇PVを超えると検索に引っ掛からなくなってしまうのである(その店の登録がデータベースから削除されるわけではないから、店名での検索では表示される)。

これまで最低の加盟金が月額約一万円であったことを考えると、約五倍の料金を支払わなければ正会員にはなれないというわけだ。

この、ぐるなびの動向は業界でも波紋を呼んだが、こうしたぐるなび側の強気の姿勢の背後には、インターネットによる集客サービスの効果が十分に認知されてきた、との思惑がある。

ぐるなびは、グルメ検索サイト開設八年で、現在は月間の利用者数が一〇〇〇万人を超えるといわれ、さらにネット上には、その他大小の同様のグルメ検索サイトも数多く存在しユーザへのサービスを競っている。

現実に東京都内などでは、ぐるなびに各種のオプション契約も含めて月額一〇万~二〇万円といった金額を支払う代わりに、一〇〇万~二〇〇万円というサイト経由の売上げを確保している飲食店も少なくない。外食業界でも、インターネットがビジネスを支える支援ツールのひとつとして確立されるようになってきたのである。

現在、インターネット上で最も注目されているコンセプトのひとつが、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)と呼ばれる機能である。これは、いわばインターネット上の「会員制クラブ」のようなものだ。

これまで、インターネット上では情報を「発信する」ことに主眼が置かれていた。しかし、いつだれが見てくれるかも分からないホームページを作り続けることは、そう楽しい作業ではないということに多くの人々は気づき始め、インターネットの機能が進化するに連れて、ネット上である種の「コミュニティ」をつくり上げることを目的としたサイトが次第に増えて来たのである。

携帯電話やネット上で他人と知り合う機会を生み出す各種サービスを「出会い系」と総称しているのに対して、SNSは「知り合い系」などとも呼ばれる。

こうした知り合い系サイトの特徴は、これまでインターネットの特性とされてきた「不特定多数の人々と交流すること」を、あえて避けている点にある。このために、「新規加入希望者は、すでに参加している既存会員の紹介がないと会員になることができない」という、まさに本格的な会員制クラブのようなルールを設けているところも少なくない。

こうしたSNSの活動に、いま企業が注目し始めている。SNSは会員制であるため、匿名を良いことに悪意を持った発言をするような会員を積極的に排除することができる。そのことで、目的意識の高いメンバーが、それぞれのテーマに沿った活発な意見や情報交換を繰り広げているが、このようなSNSの特徴が、企業のマーケティング活動に非常に有効だからだ。

すでに各種メーカーや航空会社、英会話教室など、さまざまな企業が自社サイト内にSNSを設置して優良顧客を囲い込み、ヘビーユーザーから商品開発の情報を得たり、口コミによるプロモーション効果を狙ったり、会員の興味に応じた商品情報を提供して効率的な営業活動を行うなど、SNSのメリットをマーケティングに生かす試みが数多く行われている。

外食企業では、まだSNSを活用したマーケティング活動はほとんど行われていないようだが、実はグルメ情報に関してSNSと同様なサイトは以前から非常に多く存在しているのである。一例を挙げれば、東京周辺のラーメン店情報を集めて有名な「東京のラーメン屋さん」というサイトでは登録した会員だけがサイト内の情報掲示板でラーメン店に関する情報を発表できる。これこそ、まさにSNSの走りともいえるサイトであり、こうしたグルメ情報を交換するサイトは数知れないくらい存在している。

最近設立されたSNSの中で、グルメや食をテーマにしたものとしては、「B食倶楽部」「My Favorite Places」などが有名だが、その他のSNSの中でも、グルメをテーマにグループ活動を行うことができるサイトは数多い。

インターネットの中には、大企業も注目する、こうした顧客情報が山のようにある。ただ、それを使いこなすことができるかどうかが重要なのである。

このようにインターネットは急速に一般社会に普及しているが、ひるがえって、外食業界内のIT(パソコンやインターネットなどの情報技術)習熟度のレベルはいまだ低いと言わざるを得ない。

毎日長時間、飲食店の現場に張り付いているスタッフは、二〇~三〇代の若手社員であっても、ケータイこそ使えるが、パソコンやインターネットが苦手な者がまだまだ多い。まして中間管理職の四〇~五〇代では、メールすら満足に使えなかったり、中には携帯電話の留守番機能も使いこなせないような人々が現実に存在する。

ぐるなびなどのグルメサイトでも、客はサイトから直接予約が可能だが、その予約が実際の店舗へはFAXで送られる仕組みになっている。パソコンやメールが使えない飲食店が多いからだ(パソコンがない店も数多く存在する)。

一般に、企業のIT活用のレベルは、その会社の経営者がどの程度パソコンやインターネットを使いこなせるかで決まるといわれる。そういった意味では、外食企業で、どちらかというとIT活用レベルの高いのは、異業種からの参入組など新興企業が多いのもうなずける。

しかし、ここまでの内容を読んでいただければ、これからは「どうもパソコンは苦手で」とか「パソコンなどなくても仕事はできる」といった言い訳をしている外食企業は生き残っていけない、ということが分かってもらえるだろう。

それでもまだ「料理を作るのにパソコンは必要ない」と思っている方は、ちょっと考えてみてほしい。かつて、電話が世の中に初めて登場したとき、恐らく同じように「電話など必要ない。そんなに急がなくても手紙で十分だ」と主張した人々は少なからずいたはずである。

しかし今、電話のない世の中など考えられるだろうか。携帯電話が普及し始めたときにも、「固定電話で十分じゃないか」という声は存在した。だが、駅の公衆電話がほとんど取り外される状況の中で、近い将来には家庭の固定電話もなくなるかも知れない、といわれて明確に否定できる人は少ないだろう。パソコンとインターネットの普及は、電話の発明よりもさらに革命的な変化を起こしているのである。

個人として、パソコンなど使わずに手書きの年賀状を出すことを守り通す、といった主張を貫くことは立派だが、例え飲食店であっても、少なくとも商売を行う以上は、もはやパソコンとインターネットを抜きにしてビジネスを考えることはできない時代がやって来たのだ。

そうした変化を素直に感じ取り、時代を先取りする意欲を持って、この新しいツールに積極的に取り組んでいかなければ、どんなにおいしい料理を作ることができても、ビジネスとしての外食業界の荒波を乗り越えていくことは難しいといえるのではないだろうか。

◆プロフィル

入江直之(いりえ・なおゆき)=各種飲食店のマネジャー、インテリアコーディネーターを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の情報化支援を幅広く手がける。各商工会議所で多数講演を開催するなどして、中小企業の業務サポーターとして活躍している。

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