高度成長する惣菜・デリ 百貨店の惣菜コーナーが活発化

1992.05.04 3号 6面

都内の百貨店食品売場の惣菜が大きな人気を集めている。スーパーやCVSが地域住民による「最寄りだから」という来店動機に対し、都心部の百貨店は競合店と隣接しており、耐久消費財を中心とした「買い回り」行動をとる消費者が多い。前者が日常的購買パターンであるのとは対照的に、百貨店は非日常的ということができよう。しかし、最近ではオフィスの日常的昼食需要まで引き込んだマーチャンダイジングをとる百貨店もあり、惣菜コーナーの活性化は目を見張るものがある。

従来、百貨店の惣菜コーナーに求められるコンセプトは、高級デリカや海外ブランド品に依存する傾向にあったが、最近はあらためて調理実演などの“手づくり・できたて”の臨場感やイベントによるモチベーション販売が重要性を増している。スーパー、CVSのパックされた惣菜に比べ、値段的には割高であるが、その魅力はなんと言っても“本物・できたて”のおいしさであり、そう感じさせるパフォーマンス性にある。

そこで、量販店、CVSとの差別化を果たすために、独自の商品開発や売りの工夫で人気を集める二つの事例を紹介しよう。

《実演コーナーを核 の売り場づくり》 惣菜・デリを全館キャンペーンの核に位置付け、大きな効果を上げているのが上野選坂屋である。同店はお花見で有名な上野公園まで歩いて七~八分のロケーション。先日まで全館キャンペーン「花見祭り」が催されたが、目玉は八〇坪の催事コーナーを使った「桜前線諸国お惣菜・お弁当祭り」であった。

常時、二つの実演コーナーを設けているが、お花見、行楽シーズンにはそれを増設する。実演はまず目につく、においがする、作りたてであると、客を買う気にさせる効果は高い。作りたてでなければおいしくない「にぎりずし」「釜飯」や、「お好み焼き」「焼きそば」「焼き鳥」など屋台のスナック的惣菜まで実演で販売する。

一方、各テナントでも特製お花見弁当や酒のつまみになるような珍味類、刺身、お漬物などが飛ぶように売れる。この時期は、一日当たりの来店客数が三~四割増となり、売上高もそれに正比例するという。中でもお花見弁当に力を入れているのが老舗「日本ばし大増」。お花見の季節だけの特製弁当を百貨店三一店舗で販売している。商品は、おすしとおかずがセットされた「すえひろ」(一五〇〇円)、「お花見弁当」(一二〇〇円)の二種。キャンペーン期間中、同テナントでは、一日の売上高の二〇%がこの特製弁当とのことである。

時節に合わせた売場演出と各テナントのオリジナル商品がうまく絡み合って、都内の百貨店の中でもかなり特化した惣菜コーナーづくりで成功している好例と言えよう。

《焼きたて演出で人気の焼き鳥専門店》 先鋭的百貨店らしく、高級デリカテッセンが並ぶ新宿伊勢丹の食品売場の中の、わずか二坪のコーナーで年間一億一三〇〇万円という驚異的な売上げを達成しているのが、「やきとり川正」である。

商品のコンセプトは他の高級デリカテッセンに負けないグレード感である。一流百貨店で売る以上、街中の屋台の焼き鳥と同レベルの商品を提供するわけにはいかない。そこで、原材料のブロイラーからタレ、焼成までかなりクオリティにこだわっている。

現在のアイテム数は二二種類。売れ筋べスト3は、一位「ひな鳥レバー」(一〇〇円)、二位「ひな鳥つくね」(一四〇円)、三位「ひな鳥ねぎ」(一七〇円)。一日平均売上高は約三六万円、平均販売本数で約二五〇〇本である。一日最高売上高は約六〇万円、この時の販売本数は四〇〇〇本となる。これは焼成能力のギリギリいっぱいの本数で、客数にすると、平均レジ単価一〇〇〇円とし概算六〇〇人近くが来店する勘定となる。

通常は夕方四時から閉店までのピークに備え、早朝七時過ぎから焼き上げにかかる。焼き方は上火式の電気グリラーの一網で五〇本、プレート数三枚なので、一回に一五〇本、一時間に三五〇本から四〇〇本を焼き上げる。この焼成からタレつけまでを、客はガラス越しに見れる。これが購買意欲を十分にそそり、しかもフレッシュなシズル感を演出することができるわけである。

単に惣菜というだけなら、スーパー、CVSや最近ではファーストフードなど外食店でもかなり高度な商品が登場している。それに消費者の生活に近い所で比較的廉価で販売されているケースがほとんどだ。そこで、百貨店の惣菜には、客の目の前で「揚げる、焼く」といった実演や、単にフェースだけでなく売場全体の空間演出によるモチベーションづくりなどの工夫が重要な戦略となる。

(食品評論家・小西裕介)

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