飲食トレンド:食べて奇麗に 女心くすぐるコラーゲン
「コラーゲンって美肌効果があるのよね」「どうせ食べるなら、お肌が奇麗になれるものがいいな」‐‐いまや飲食店もおいしいことは当たり前、食べて得られる満足感には、機能性も求められるようになってきた。新しいキーワードとして注目されているのが「コラーゲン」。フカヒレやスッポンなどに含まれることで昔から知られているが、この成分をうたったメニューが、いま女性客を強力にひきつけるマグネットとして飲食店に広がっている。(阿多笑子)
「えー、コラーゲンだって。頼んでみようか」。女性客のグループやカップルからは、そんな声が上がる。レインズインターナショナルが展開するチェーン店「しゃぶしゃぶ温野菜」は、昨年6月からコラーゲン鍋を始めた。竹筒に入ったコラーゲンを190円で、通常の鍋にプラスできるというもの。
「夏場は鍋物が弱いということと、紫外線が強くなって女性がお肌を気にするので、コラーゲンをアピールしやすいとメニュー化しました」と広報の吉田明子さん。
価格の手軽さも受け、徐々に評判を呼び、年末にはマスコミの取材も殺到。いまではこの竹筒が、チェーン全店で月5000本も出るヒットメニューになった。
寒天のようなコラーゲンは無味無臭だが、ボリュームはたっぷりで、見た目のインパクトも強い。
同社では、国産の鶏と豚の皮と骨から抽出したこのコラーゲンをオリジナルで製造している。成人が1日に必要なコラーゲンは5gといわれているが、1本の竹筒には10gのコラーゲンが含まれるという。しゃぶしゃぶの後に雑炊にすれば、余さず食べきれる。
この春から期間限定の「豚三昧豆乳しゃぶコース」(2480円)も開始した。竹筒コラーゲンをセットにし、「健康プラス美容」のイメージで、さらなる女性客の取り込みを図る計画だ。
コラーゲンそのものは、けっして新しい言葉ではない。スッポン、フグ、フカヒレ、軟骨、鶏がらなどは、昔からコラーゲンが多く含まれる食材として知られている。ではなぜいま「コラーゲン」なのか。
ブームそのものは2000年までさかのぼる。肌に潤いとハリを与える、老化を防止するなどの効果が注目され、コラーゲンの入ったさまざまな化粧品やサプリメントが女性たちにヒットした。
だが最近は「コラーゲンが一般に浸透したことで、自然に食べることから吸収しようという意識が高まってきました」と、飲食店検索サイト「ぐるなび」の広報、田中真由子さんは言う。
「ぐるなび」の検索ページで「コラーゲン」をキーワードに入力すると1万3000件余りもの飲食店がヒットした。これはメニューに「コラーゲンを使った食材がある」ということだが「ここ1、2年でこの数は飛躍的に増えた」という。
実はぐるなびの営業サイドでも、顧客の飲食店に「コラーゲン」をうたうように勧めている。
たとえば、これまでコラーゲンをうたわなかったフグの店で、「コラーゲンしゃぶしゃぶ」をメニューに出したところ、女性客が一気に増えた。
ほかにも、地鶏の串焼き、スッポン鍋、アンコウ鍋、黒豚、ドジョウ鍋、モツ鍋など、ぐるなびの検索ページで、コラーゲンを掲げる店は枚挙にいとまがない。
いずれも昔からあったメニューだが、「視点を変えることで、女性に注目されるようになる」と田中さん。とくにこうした男性イメージの強いメニューに、美容を想像させるキーワードを与えると、女性客が増えるようだ。
ネットが発達したことで、お客はネットで情報収集をするようになった。その結果、検索に引っかかるためには、どれだけブームのキーワードが発信できるかがカギ。その中で注目度の高いのが「コラーゲン」というわけだ。
コラーゲンは食材そのものに含まれるものと、業務用に加工されたものがある。和洋中を問わずどの業種にも取り入れられることが魅力だろう。
現行のメニューを見直すもよし、新しくコラーゲンメニューを開発するもよし。自店の販促方法として取り入れてみたらいかがだろう。
もちろん、同様のメニューが増えれば、さらなる工夫も必要。冒頭の「温野菜」は、竹筒に入ったコラーゲンがリアルで、お客の感動を誘った。最初からスープに溶けていたのでは、ヒットに結びつかなかっただろう。また、あるフカヒレ専門店では、メニューごとに摂取できるコラーゲンのグラム数を表示して、より高い満足感を与えている。
さらに、コラーゲンをうたったデザートはまだ少ない。菓子によく使うゼラチンはコラーゲンを精製したもの。マシュマロなどが若い女性の間でブームになっている。女性のハートをつかむコラーゲンデザートもポイントが高い。
●コラーゲンとは
コラーゲンは細胞の構造を支える重要なタンパク質。皮膚の70%、骨の20%がコラーゲンで形成され、血液や眼球、筋肉などにも多く含まれる。加齢して新陳代謝が衰えると、コラーゲンが減り、肌にシミやシワができたり、関節炎や骨粗しょう症などになるなど、さまざまな老化現象が起きる。若い女性よりむしろ中高年層がコラーゲン不足は深刻だ。
一般的にコラーゲンの摂取には、コラーゲンを多く含む食物を食べるほか、化粧品やサプリメントなどが出回っている。原料は動物の皮膚や骨髄から抽出されたものが多いが、日本でBSE(狂牛病)発生後は、牛の危険部位を原料にした医薬品や化粧品が回収される騒ぎとなり、コラーゲンも牛の骨髄から抽出されるものは見直された。
現在は豚や鳥、魚から抽出されたものが主流。飲食店向けの業務用として、天然100%成分の粉末や液体も商品化されている。
またコラーゲンの生成に欠かせないのは、ビタミンCで、コラーゲンメニューの提供には、レモンなどビタミンCを含む食材を一緒に添えることが望ましい。
*食材でコラーゲンを多く含むもの=フカヒレ、スッポン、鶏がら、手羽先、軟骨、マグロ、カレイ、魚のあら、豚骨、すじ肉など。
●コラーゲン尽くしフルコース 池袋サンシャインプリンスホテル「中国料理 古稀殿」
中華料理では、もともとフカヒレなどコラーゲンを含む食材が多い。この店では3年前から、お客に楽しんでもらおうと、コラーゲン尽くしの「コラーゲン菜譜」(4500円)を始めた。
いまは「月間60食はコンスタントに出る定番メニュー」と佐藤光生料理長は言う。注文するのは圧倒的に女性だ。
コースは、フカヒレなどの食材のほか、高純度で精製されたゲル状のコラーゲン「深海ザメのエキス」を使って調理を工夫。溶かして使用するのでアレンジしやすく、コラーゲン入り小龍包や中華麺、杏仁豆腐、アイスクリームなど、多彩なメニューを作り出している。とくに「コラーゲン入り杏仁豆腐」は単品でも女性に人気だ。
佐藤料理長は「最近はコラーゲンが何かを皆さんよく知っている。でも家庭で何気なく食べていても、コラーゲンを取ったという満足感が得られるのは、こうした外食のメニューならでは」と話す。
季節ごとのメニュー改定は行っているが、「コラーゲン菜譜」はこれからも継続していく予定。「コラーゲンそのものは、もう新しくないが、逆に一般に浸透してきたことで、息の長いメニューとして定着する」と見ている。
◆「池袋サンシャインプリンスホテル 中国料理 古稀殿」(東京都豊島区東池袋3‐1‐5、電話03・3988・7878(代))
●健康イメージで中高年にも人気 「中華料理・海新山」
ラーメン=不健康というイメージを払拭する漢方たっぷりの「超コラーゲンラーメン」(1500円)が、若い女性から年配者にまで人気を呼んでいる。
店主の渡部康晴氏は、中国で漢方料理のシェフをしていた経験もあり、「独自に100種類以上の素材からコラーゲンを抽出する方法を開発した」という。
鶏がら、豚がら、カニがら、牛すねなどの動物性タンパク質のほか、昆布、鰹節、アワビ、椎茸、熊笹、セロリ、もち米といった漢方の素材を調合して、ほぼ1日がかりでコラーゲンを抽出する。コラーゲンはうまみを感じさせるための大きい分子と、体内に吸収しやすい小さい分子と2種類を混合するというこだわりようだ。
手間がかかるため「1日30杯分くらいしか仕込めない」という。
名物の超コラーゲンラーメンは、スープの9割がこのコラーゲン。コラーゲンのうまみで化学調味料は一切使わず、水もNASA製浄水器を使用。
「スープは必ず全部飲んで下さい」と渡部氏。コラーゲンの吸収をよくするレモンの輪切りはオプションで勧めている。
顧客からは「翌日肌がプルプルになった」「身体の調子が良くなった」と評判だ。ラーメンのほかに、コラーゲン入りの餃子もある。
◆「中華料理 海新山」(東京都目黒区五本木2‐53‐8、電話03・3719・7678)