調理新時代(下) 本格的な中華点心でメニューさらに充実
大手外食メニューの値下げ攻勢が活発化する中、汎用品より三倍以上も高い食材が売れている。弁当用や惣菜の焼売、ラーメン店の餃子とは一線を画する中華点心類だ。これらはもともと高級中華飯店やホテル、各種式場向けに高級食材としての需要が高かったものだが、ここ数年、“飲茶”という食シーンが定着、どこでも食べられる飲茶メニューとして販売ルートの広がりを見せ、需要拡大につながっている。
飲茶はお茶などを飲みながら中華点心類の好きなものを少量ずつ食べるもので、選ぶ楽しさもあり、特に女性に好まれる食べ方だ。九二年12月からダスキンがミスタードーナツで飲茶メニューを展開するなど、高級中華飯店に行かなくても飲茶が手軽に食べられるようになってきた。
飲茶は見方を変えれば軽食・スナック、酒のつまみにもなる。飲茶の概念で居酒屋や喫茶店が中華点心をメニューに加えるという現象は当然起きてくる。しかし、この時、海外旅行で舌の肥えた消費者は汎用品の焼売や餃子では納得しない。
通常、量産される焼売は一個一八gで平均一三円前後に対し、本格的な手作り中華点心‐エビ焼売などは一個四〇円以上だが、飲茶メニューの場合、居酒屋でも後者の商品が売れ筋となっている。
手作り、本格中華点心の食材分野での大手メーカーは旭フーズ。高級中華点心を中心に八三年から飲茶というコンセプトで「点心坊」シリーズを導入している。本場中国の調理技術を基本に、すべては機械化せず一品ずつ手作りの部分を残しながら丁寧に調理させているのが特徴。冷凍食品のイメージを超えた食材でもある。
現在、肉まん類五種、桃まんじゅう等六種、ちまき類五種、焼売等五種、餃子等五種、春巻、湯葉巻、大根もち、イカだんご、エビだんご、南京風花巻、白がゆ、ココナツミルク(タピオカ入り)、タピオカもち、ココナツだんご等五〇種近いアイテムの点心を揃えている。いずれも一〇分~二〇分間蒸して使うが、電子レンジを併用して短時間の蒸し時間で済むようになっている。
売れ筋は「中華ちまき」(粽子)一個一〇〇g、「フカヒレぎょうざ」(魚翅餃)一個二〇g、「エビぎょうざ」(蝦餃)一個二〇g、ちまきは一個で、餃子は四個が一人前の飲茶メニューとなる。メニュー価格は七〇〇~一〇〇〇円前後と見られる。
同社の九三年の新製品は「小型ハスの葉ごはん」(玲瓏荷葉飯)一個八〇g、「貝柱入り肉焼売」(乾貝焼売)一個四〇g、「カニと香菜の揚げトースト」(鮮蟹吐司)一枚二五g、「エビと胡麻の揚げトースト」(香麻蝦仁吐司)一枚二五gの四点。
傾向としては、ちまき(粽子)や肉まん(肉包)類は小型のものの売れ行きが良く、一個四〇~五〇gのものが好調、逆に焼売などは一個四〇g前後の大型ものが売れ筋である。「点心坊」シリーズは高級中華飯店やホテルがメーンの販売ルートであったが、最近はドライブイン、スキー場、リゾートホテル、カラオケボックスでの需要が増えてきている。
高級点心のため、手頃な価格帯メニューにはならないが、本来飲食の目的でない場所(一般的に飲食メニューは高額になっている)においても消費者の本格的な味への要求は強まっているため、メニュー価格に見合った食材調達が必須になってきている。
ほんのりピンク色に淡い緑色の葉が映える、可愛らしい桃のまんじゅう。中国は湖南産の蓮の実をぜいたくに使った、唐茶色のあんを、きめ細かくて弾力のある皮で、ふっくらと包む。ちょっと小ぶりの桃の形といい、甘さをおさえた蓮の実あんの風味、香りといい本場中国のおいしさ。
ココナツだんごパインアップルあんは、もち米を使用したやわらかい皮にパインあんが包まれているだんご。回りにまぶしてあるココナツのシャリッとした歯ざわりと香り。パインあんのほどよい甘酸っぱさがハーモニーとなって口の中に広がる。
ココナツだんごカスタードあんは、もち米を使用した皮でカスタードあんを包んだ、蒸して食べるだんご。卵黄とミルクがたっぷり。ほどよい甘さ、回りにまぶしたココナツの食感、上品で、飽きがこない、上等の和菓子のようなおいしさ。
一方、本格的な手作り点心を手頃に、よりポピュラーなメニューとして提供しているのが点心専門メーカーの日玉中華食品(以下ニチギョク)だ。
関西以西に強いメーカーで、飲茶ブームに業績を伸ばしている。“楊家のまごころ点心”をコンセプトに丸子(だんご)類九種、餃子・焼売類八種、包子・春巻類六種、粽子(ちまき)類三種が定番商品。他は一二ケースを最少ロットとして別注点心も受注する。現在全工程のほとんどが手作りだが、コスト削減のため九四年から一部機械化の導入を検討している。
ニチギョクの売れ筋は「花枝丸」(イカだんご)一個約一四g、「芝麻球」(ゴマだんご)一個約三〇g、「魚翅餃」(フカヒレ餃子)一個約二五g、「広東蝦餃」(ハーカオ=エビ餃子)一個約二五g、「兎型豆沙包」(ウサギアンマン)一個約三〇gである。
いずれも冷凍のまま定時間蒸したり、揚げたりするだけで本格点心の味が楽しめる。特に点心の餃子は蒸し上がると皮が透明になり、素材の旨味と肉汁を含んだ中の具が見えるのが特徴だ。
メニュー価格としては、デザート用の「兎型豆沙包」(ウサギアンマン)が三個で四〇〇円程度となっている。
現在、あえて新規の中華店ルートをはずし居酒屋やパブルートの積極開拓に乗り出している。店舗での試食説明やメニュー価格設定等の相談に応じながら、約三〇g大の焼売、三~四個で五〇〇~六〇〇円のメニューを居酒屋の定番品としている。低価格メニューを売り物にしている屋台村や巨大レストランからも引き合いがあり、低価格帯の中でも本物志向へのこだわりの強さは変わらないようだ。
居酒屋の他に注力しているルートとしては喫茶ルートがある。飲茶というコンセプトで女性をターゲットに“本格飲茶をフォークで”という提案を行っている。
しなやかで歯ざわりのいい皮で具を包んだフライパンで手軽に焼ける小型の肉まん。香ばしさが口の中に広がる、あつあつのおいしさ。いくつでも食べられそうなさっぱりした味わい。
竹製のセイロセットにフォークを添えて‐(例)飲茶Aセット=小肉包(一口肉まん)一個、広東蝦餃(ハーカオ)一個、蟹焼売一個とウーロン茶で推奨価格四六〇円、飲茶Bセット=寿桃(モモまんじゅう)一個、広東蝦餃(ハーカオ)一個、鮮肉焼売一個、芝麻球(ゴマだんご)一個とウーロン茶で推奨価格六五〇円など喫茶店の午前、午後の軽食メニュー向けに考えられている。
この他、ニチギョクは地場の宅配ピザルートにも飲茶メニューを提供している。各同種の点心が二~三個ずつセイロに入り、一人前三五〇~五八〇円。現在二四品のメニューの内、五点選べば宅配するシステムとなっている。
ニチギョクでは今後女性をターゲットにさらにバラエティーに富んだ点心の開発を行っていく方針だ。例えば洋風点心というコンセプトでピロシキなどを考えており、飲茶を洋風に、和風に食べてもらう工夫を考案中である。
日本人には古くて新しい飲茶‐本格中華点心は、今、業態の枠を越え、主食、間食、デザートにとオールマイティの手軽な食材として注目されている。
どっしりとボリュームのあるルックスが食欲をそそる大型焼売。たっぷり入った粗びきの豚肉や、ほぐした干し貝柱などの貝を薄い皮で絞り込むように包んである。満足感と風味が存分に味わえる高級点心。