施設内飲食店舗シリーズ 東京・日比谷シャンテ 中心客層を女性に絞る

1994.04.04 49号 6面

JR有楽町駅から歩いて三、四分。日比谷シャンテは地下四階、地上一八階、地下三階、地上一階、地下三階、地上六階建ての三ブロックから構成されており、オフィス(日本生命一社)、店舗、映画劇場、放送スタジオ(TBS)などが入居する複合都市ビルだ。

ビルオーナーは東宝で昭和62年10月にグランドオープンし、今年で満七年になる。60年10月に着工したものだが、総額二五〇億円を投下している。

ビル建設にあたっては商業施設を組み込むことから、隣接地の銀座との競合を避けることを第一にして、徹底して日比谷の地に立脚した施設プランを考えた。

この結果、日比谷は丸の内のビジネス街に似てコンサバ(保守的)な性格を有している立地特性にあること、加えて商業集積が小さい地域であることから、また消費行動に目的をもった来街者は少ないということから、独自の集客力を発揮できる施設づくりとした。

「以前この場所には私どもの映画館と、その観客を当て込んでの小さな飲食店がいくつかあったくらいでしたから、わざわざ日比谷に目的をもってくるという人は少なかったわけです。ですから、どういう施設を展開したらいいのか、いろんな角度からリサーチ致しました。まず、考えましたことは銀座と競合、バッティングするものは一切やらない。

トレンドとかブランドとかにとらわれた店もつくらない。オーソドックスで息の長いビジネスをやっていこうということで、まず中心客層を女性に定めて、隣接の帝国ホテル、劇場客、地域オフィスへの通勤客などをターゲットにして、これらの客をつかみ取っていこうという基本コンセプトを決め、そこから施設計画を練り上げたのです」と話すのは、東宝(株)不動産経営部山田啓三部長。

当時、山田氏は東宝の営業担当だったが、シャンテ建設計画の責任者として、徹底した地域分析とマーケティングリサーチによって、前述の施設コンセプトを策定したのだった。

シャンテ本体施設である地下四階、地上一八階建ては一ブロックになるが、店舗はこのビルに展開している。

フロア構成は、地下二階から地上三階までの五層が商業ゾーン、地上四階から最上階の一八階までがオフィスで、これらオフィスゾーンには日本生命が単独入居している。

商業ゾーンは婦人服、アクセサリー、カバン、クツ、雑貨など物販と飲食店舗を主体に構成しており、物販七四店(延床面積約一五〇〇坪)、飲食二二店(同約六三〇坪)の計九六店舗を展開している。

飲食店舗は二階まで各フロアに出店しているが、集中出店しているのは地下二階で、ここに計一六店と全体の七割が入居し、独自の飲食街を形成している。

「当然のこととして飲食店舗も展開していますが、これはあくまでも従であって、商業ゾーンの主体は物販であるのです。やはり、物販の収益力は大きいですから、施設経営としては物販の売上げ貢献に期している面があるのです。

ですが、飲食は物販を補完する役割もありますから、オジサンたちに喰わえようじでウロウロされるような店は入れたくない、加えてバッティングしてお互いの足を引っ張り合うような店も出さないということで、業態ミックスについてはそれなりに考えた形で具体化しているのです」(山田部長)。

飲食店舗にはまんまる鮨、家族亭、和幸、壁の穴などのチェーン店も出店しているが、会社接待を狙った高級店は入居していない。出店しているとすれば、季節料理店の「松風」くらいなものだ。

飲食店舗二二店の総客席数は一〇四九人。月平均一七万~一八万人の来街者数で、一日六〇〇〇人、単純計算すれば一日五、六回転という数字だ。

このトータルの売上げは二五億円(九二年度)で、全体比二五%のウエートだ。個店平均の売上げは月間坪売上げ四一万円、順調な店(まんまる鮨)では七〇万円台のところも存在する。

客層は狙いどおり、平日のランチタイムを除けば八、九割が女性客だ。平均客単価二〇〇〇~三〇〇〇円。オープンして八年、日比谷地域の中核的施設として、集客力を大きく発揮しているところだ。

◆松風(季節料理・スッポン)

阪急東宝グループは東宝食堂(株)の経営で、四季折々の旬の料理を売りものとしている店だ。シャンテの地下二階のはずれにあって、店舗の存在がアピールしない点にハンディがあるが、静かな場所で商談、歓談という向きには打ってつけの店だ。

店舗面積約六〇坪、客席はカウンター、テーブル席ほか、二二畳分の座敷(二〇席)も入れても七二席、空間をゆったりと取ってあり、フロアレイアウトはぜいたくな造りとなっている。

いわば会社の接待利用などにフィットさせた出店形態にあるわけだが、しかし、バブルがはじけて消費不況の現在は厳しい戦いを強いられている。

つまり、客数、客単価ともに最盛期の二、三割はダウンしたということだ。

料理はなま物、焼き物、煮物、揚げ物の一品料理をはじめ牛肉料理、会席料理、スッポンコースと日本料理のフルアイテムを揃えており、多様な飲食ニーズに対応している。

しかし、単品価格で一五〇〇~三〇〇〇円、会席料理で七〇〇〇~一万円の価格帯であるので、現在の低価格志向のニーズにはフィットしていない。日常的な使われ方は難しくなっているという状況だ。

昼はもちろんランチサービスも実施しているが、煮魚、焼き魚など一〇〇〇円以下のメニューに人気が集中し、一〇〇〇円を超えるとオーダー数は限られてくるようだ。

「昼、夜と会社関係の人が多いんですが、以前は夜の客単価で一万円くらいはありましたが、今は月によっては三、四割ダウンというのも珍しくない状況です。

それに店の位置もお客様に見えにくいところにありますから、その面での集客力も十分に発揮できていないということもいえるのですが、料理はキャリア三〇年の板長(渡辺富夫さん)がお作り致しますから、自信をもって召し上がっていただいております」と話すのはホール責任者の中村美穂子さん。

客単価は昼一〇〇〇~二〇〇〇円前後、夜六〇〇〇~七〇〇〇円。

◆フレスコ(ベネツィア料理)

日本にいながらイタリアはベネツィア料理が食べられるという店で、シャンテでは売上げ一、二位を争う評判の店だ。店舗面積数五〇坪、六六席。店名のとおり、壁面や天井にフレスコ画が描かれているのをはじめ、シャンデリア、壁面ミラーや食器、調度品もイタリア製であるほか、店長も料理人もイタリア人という徹底した本物(本場)志向の店だ。

味づくりも本場ベネツィアと変わらない味で、なま物の食材を除けば、パスタ、トマトソース、チーズ、ワイン、ミネラルウオーターも現地から輸入したものだ。

「店のデザインも料理、テーストもベネツィアのレストランと同じ、ウエーターもイタリア人のほかフランス、イラン人もいます。ですから、外国人のお客さんも多くこられます。

外国のお客さんは好き嫌いがハッキリしていますし、タブーで食べられないのもありますから、接客面できめ細かなコミュニケーションができるのです」(フランチェスコ・トリコリ店長)。

ベネツィアはイタリア北部のアドリア海に面した海上都市であるので、シーフード料理が自慢だが、もちろんパスタ料理もあり、バラエティーに富んでいる。

この店の料理は日替わりランチA、B二種(二三〇〇円、二八〇〇円)とシェフの本日のおすすめメニュー(三八〇〇円)、夜のディナーメニューA、B二種(五〇〇〇円、六五〇〇円)、シェフお任せのディナーコース(二人より八五〇〇円)などが売りもので、客がチョイスしやすいメニューづくりをおこなっている。

Aランチ(二三〇〇円)の場合は前菜、パスタ、デザート、パン、コーヒーをセット。Aディナー(五〇〇〇円)であれば、本日のアンティパスト、オリーブの実とケッパー入りトマトソースのスパゲティ、本日の魚料理または肉料理、デザート、コーヒーという内容だ。

客単価は昼三五〇〇円、夜七五〇〇円。平均日商八五万円。客層は平日の昼間は外国のビジネスマンなども多く、四割のウエートを占めるが、土・日は地域への来街者が主体になり、とくに女性客、カップルが増える。

◆青冥(中国料理)

大阪を中心にチェーン化を進めており、現在一九店を出店している。東京では日比谷店と赤坂店の二店を開設している。日比谷店はシャンテの地下二店での出店で、店舗面積五〇坪、客席数六八の中型店だ。

店は明るくカジュアルレストランのような雰囲気の店で、女性の感性にフィットしている。料理は北京料理を基本としており、前菜、スープ、おこげ料理、揚げ物、季節料理、チキン、包餅、生菜包料理、ビーフ、ポーク、エビ、魚介、アワビ、野菜、豆腐、卵料理、麺、点心など約七〇~八〇品目をラインアップしている。

これから主力メニューの単品価格は小皿(二人)で八〇〇~三〇〇〇円前後で、ボリューム感がある割には低価格志向の料金体系だ。

この料金体系にあって、月替わりのコース料理三〇〇〇円はお値打ち品だ。これはたとえば、前菜三種、掲げ物二種、ホタテ、レンコン、アスパラ炊め、エビ、豆腐、キムチの鉄板料理、白身魚の捲き揚げ甘酢あんかけ、五目おこげ料理、お粥またはビーフン、デザート(杏仁豆腐)など八品をセットにしたもので、この店の意気込みを感じさせるリッチな料理内容となっている。

「これ以上は赤字というギリギリの価格です。利幅は小さく、お客様においしいものをより安く提供していこうという考えでして、大変に評判のよいディナーメニューとなっております」(山本智治支配人)。

客単価昼一〇〇〇円、夜二七〇〇円。客層は平日の昼間はシャンテ周辺のビジネスマンが多くなるが、休日は女性客が主体になる。月間売上げ一二〇〇~一三〇〇万円。消費不況でここ一、二年売上げは伸び悩みの状況にあるが、3月は前年同月比で一〇〇%をキープしている。

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