トップインタビュー:日比谷松本楼社長、小坂哲郎氏

1994.05.02 51号 17面

小坂会長は日本フードサービス協会の東京支部長も兼務しており、とても多忙だ。会長が経営する日比谷松本楼はカレー専門店ではないが、一〇円カレーはつとに有名。昨年の感謝デーでは長蛇の行列の一人ひとりに一〇年後に当日配布した「お約束券」を松本楼に持参するとディナーに招待するという「一〇年後のお約束」を交わした。七七年にも約束をし八七年に一三〇人を招待している。

どこの業界も浮き沈みの激しい昨今、一〇年後の約束ができるのはやはり松本楼の歴史が物語る「信用」にほかならない。発足したての協議会であるが、小坂会長の「信用」の息吹が吹き込まれることと期待される。

(文責・福島)

‐‐3月に発足した関東外食産業協議会の初代会長にご就任おめでとうございます。まずは抱負をお聞かせ下さい。

小坂 外食産業は急速な発展をとげ、今や自動車・自転車産業を凌ぐ三〇兆円近い産業に成長しました。平成2年以降、成長度合が小さくなってきていますが、経済が順調になれば、また進捗します。女性の社会進出、核家族化など伸びる要因がありますから。

今日の国民食生活における外食産業への依存度が四割というデータもあります。食をあずかるということはイコール国民の健康をあずかることですから社会的責任が重くなったということです。昨今のコメ問題も含めた食の安全性や環境問題などのように業界全体で取り組まなくてはいけない問題がいくつかあります。これらに取り組むには非常に煩雑な諸問題があり、これまでの「営業給食」「事業所・学校給食」「惣菜・弁当」「外食品卸」「流通業」という縦割りから横断的な連携が必要になってきました。まずは切磋琢磨しながら親交を深めることがきわめて大切で、将来的に見てとても重要な機関になると思います。

‐‐初の横断的な舵取りをなさるわけですが、どのような方向を目指して運営されるのでしょうか。

小坂 あくまでも従来の団体組織の発展がメーンで、協議会はそれらの団体のブロック単位においての発展に寄与するという位置づけです。

現状を踏まえて外食産業全体のレベルアップがテーマで、最も大切な人材の育成、教育を中心に据えています。昔の水商売というイメージはかなり払拭されたとしても、一般の産業に比べるとまだまだ若い業界のため、いろんな問題が堆積しているんです。食材の安定確保、環境対策から労働問題など経営者も従業員も意識改革がまず必要だと思います。

また、川上の生産地情報が川下の飲食店に届かない。その逆も同じく届かない。たとえば生産者が生産過剰分を廃棄するしかないとしても、われわれ飲食店ならそういうものを利用できます。生産者は安く買いたたかれた野菜がどのくらい高くなって消費者に届くのかが見えない。したがって効率が悪いんです。東京都には大島のあした葉、多摩方面ではシャモ、黒豚を生産しているところがある。東京エリアでも食材があるので、一都六県の関東圏になったら、もっとボリュームが出てきます。いずれは生産者も巻き込んでいきたいと思います。

‐‐この協議会が業界の仲人役となり、より活性化することを期待しています。さて、外食産業の今後の動向はどうなりますか。

小坂 最近の傾向としては、客単価は高額商品が出ないので前年より下がっているが、客数はほぼもどってきました。しかし依然、外食費が抑えられていることは確かで、頻度を減らしたり、低価格の店に流れているということはあります。また、大手ファミリーレストラン(FR)の低価格戦略がFR業界に波紋を起こし、ファストフードにも飛び火した感もあります。

戦後の経営者は四年間も続いた不景気の経験がないんです。とくに外食産業は初めての経験なので、結果をみないと何が正しいのか分からないというところが実情です。ただ、レストランの原点は、「物を作って付加価値を高め、そこにサービスが介在する」ことですが、低価格店はサービスレスをとっているところが多いようで、今後経済が戻った時に消費者がどう判断するのか見極めたいところです。

‐‐業界を震憾させたコメ問題についてはいかがですか。

小坂 外米を使用していますが、ひどいクレームがあったとは聞いていません。大手の場合、とくに国産米だけを使うと社会性を問われます。業界全体が現在の状況にしたがって努力しなくてはいけません。大きな混乱が起きなかったのは企業努力で混入米のおいしい食べ方を研究したからで、コメ問題は乗り越えられると思います。

‐‐最後になりましたが、日比谷松本楼の近況をお聞かせ下さい。

小坂 インタビュアー泣かせとよく言われるのですが、記事になることは何もしていません。流行は追わず「とにかく良質なものを満足してもらうサービスで」を日々繰り返しているだけです。おかげさまで、バブルがはじけましたが、売上げは落ちていません。松本楼のいいところは「歴史と信用」です。よく皆様に「老舗」という言葉をいただきますが、老いないで、前進あるのみです。「歴史を延長していくこと」が当主の使命です。

‐‐本日はありがとうございました。

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