トップインタビュー:テンアライド代表取締役会長・飯田保氏
創業当初から日本独自の飲食文化を目指すという企業理念。たえずお客本位に徹し、かつ最良のものを提供するため、安易なフランチャイズ方式は採用せず、あくまで直営システムを基本に展開する居酒屋チェーン「天狗」(テンアライド(株))。
早くからセントラルキッチンを導入、株式の上場、システム化の充実を図るなど業界からは一目置かれている存在だ。
この不景気風が吹きまくる中にあっても業績は抜群である。飯田保会長は、「まだまだ天井知らずの業態」といい切る。今後の店舗展開にも計りしれない、可能性を追求していくようだ。
“フード・コミュニケーション”をかかげて夢追う企業、テンアライドのトップに、その理念の本質と今後の展開などいろいろと聞いてみた。(文責・岡安)
‐‐外食産業、特に居酒屋業界をリードしている企業として注目を浴びていますが、根本的な経営理念というものをお聞かせ下さい。
飯田 日本の消費者にもっと“飲食”の楽しみを知ってもらうことです。海外の飲食文化は大衆から出発するもので安価で楽しめるものです。だいたい日本の物価は飲食に限らず高過ぎる。高ければ売れる、また高くても売れるという日本の体質をひっくり返して消費者主導の販売体系を構築したいですね。
‐‐具体的にはどのような改善策が必要ですか。
飯田 まずは内外価格差をなくすため飲食材の輸入自由化、規制緩和をすることです。商品の選択幅が低価格帯で広がれば、消費者の金の使い方、楽しみ方も増えると思います。
‐‐政治的問題がかなりのウエートを占めそうですね。
飯田 その通りです。お上(行政、官僚)から末端に一方通行の指令が流れる時代ではない。いい例がいまの景気回復の遅れです。いくら国の中枢が回復をあおっても一向に兆しが見えないのは、消費者がお上の癒着など疑問点を持ってマインドが高まらないからです。築いてきた経済のピラミッド構造を逆にしたドラスチックな改革が必要なのです。ですから、このたびのダイエーさんなどスーパーマーケット(SM)では思い切ったビールの値下げなどを行おうとしているわけです。あれは(お前はお上と癒着したさいたるものだという)ビール会社への挑戦に他ならない。
‐‐メーカーの押売り的な色彩が少しは薄くなったのでは。
飯田 そうですね。でも要はやはり市場を開放することです。でないと日本は世界から取り残されかねないですね。
‐‐日本のお上以外に頼る方法はないですか。
飯田 もっと外圧をかけてもらいたいですね。日本の政治家もそう思っているのでは(自分の力では官僚を動かせないから)。
‐‐不況にもかかわらず、居酒屋チェーンの出店が相次いでますね。
飯田 居酒屋業態はいままでも安い価格帯で、大衆向けの商売をして来ました。このような時代だからこそ逆に伸びるのだと思います。不景気だから飲まなくなるわけではない。むしろ飲まなければいられない風向きなのでは。居酒屋は企業の交際費に依存する業態ではないので、その分需要は拡大すると思います。
‐‐最近、他の居酒屋チェーンでは、テーマ性やメニューに注力して“居酒屋”のイメージを払拭する機運が目立ちますが。
飯田 居酒屋のイメージを悪いとは思わないので「天狗」では変えるつもりはない。メニューの品質向上、バラエティー化は時代、世代に合わせた自然の成行き。その意味で、居酒屋業の業態はいずれレストラン化していくものと見ています。
‐‐そうなるとファミリーレストラン(FR)のようなディスカウント(DS)戦略も考えられますか。
飯田 それはありません。基本的に居酒屋のメニューは採算ギリギリです。FRのいままでの価格帯が高過ぎただけで、DSした現在の価格帯が居酒屋から見れば正常なのです。ですから早く、安く、おいしく提供するノウハウは、居酒屋の方が一歩リードしているのでは‐‐。
‐‐さて話を御社に移します。御社の店舗は大変評判が良いのですが他店とはどのような差別化を図っているのですか。
飯田 やはり基本的なことにつきます。清潔感、オーダーは素早く、素材を吟味する。ごく常識的なことですが、それを徹底できるのは直営方式の強みですね。でもまだまだ満足しているつもりはありません。
‐‐メニューアイテムが少ないのでは。
飯田 あまり増やすと先程の基本が乱れる恐れがあります。
‐‐お客はあきるのでは。
飯田 ですからメニュー改定は通常二ヵ月、旬の物は一ヵ月のサイクルで行っています。
‐‐なぜびんビールを置かないのですか。
飯田 生ビールの方が旨いに決まっているし、家庭でも飲めるビールを置くつもりはありません。
‐‐では地ビールを導入する考えは。
飯田 もちろんあります。
‐‐いつ頃ですか。
飯田 政治が動いて免許が下り次第、すぐに取りかかる準備はしています。
‐‐今年度、強化する部門は。
飯田 ロードサイド店を五店ほど出店して食事処としてもPRする方針です。
‐‐新業態出店の可能性は。
飯田 まだこの業界は頭打ちの状況ではありませんし夢のある業態です。いまのままでもやらなければいけないことが多く残っています。したがってありません。
‐‐そういった意味では出店のチャンスですね。
飯田 はい。天狗の今年度出店予定は約二五店舗です。チャンスといっても人材、教育が地についてないと怪我しますから、じっくりやる姿勢は変えません。これはあくまでも予定です。
‐‐他に変わったことは。
飯田 ランチメニューに本腰を入れます。八重洲店で「すき焼きセット(すき焼、白飯、味噌汁、おしんこ、赤ワイン)四八〇円」をアンテナメニューとして提供したところ、非常に人気が高いのでこれも今後、天狗の八割程の店舗で展開します。
‐‐かなり破格ですがそれ以外のメニューは。
飯田 この一品だけです。天狗らしさを強調できればと思っています。
‐‐ありがとうございました。
飯田保(いいだ・たもつ)テンアライド(株)代表取締役会長。
一九二六年生まれ。北海道大学農学部農業経済学科卒業。一九四九年、(株)岡永の取締役就任。一九六一年、同社副社長就任。その後一九六九年、テンアライドの前身である天狗チェーン(株)を創立。現在に至る
テンアライド(株)(東京都中央区日本橋馬喰町一‐七‐三、03・3661・0666)▽資本金=四三億円▽店舗数=一二一▽従業員数=四七九九名(正社員四九一名)